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番外編 19-1
しおりを挟む「今日こそは、屋台で串焼きを食べる!」
ということでやってきた屋台街。
お休みの日の日のお昼、スミスさんと一緒に今日は食べ歩きをするのだ。
目の前にはずらりと食べ物屋台が立ち並び、人がたくさん行き交って賑わいを見せている。
一歩一歩進むごとに屋台と人の熱気が肌で感じられる。香ばしい香りや音が聞こえてきてワクワクさせられた。
リオの横領の証拠を見つけたってことで、今回いつもより多めに給料が支払われたんだ。特別ボーナスだ。なので心置きなく串焼きを食べられる。
初日に食べ損ねた王都名物のコカトリスの串焼きを食べなければならない。
本日の俺の使命だ。
そしてスミスさんの食べたがっていたガレットも食べないと。
ふわふわな足取りで、今にも走り出しそうな俺の手をスミスさんが握る。
「イチゴ、人が多いからはぐれないように手を繋いでて」
「う、うん」
番いになる前だったら子ども扱いされてんなーって思ったけど今は違う。
スミスさんは、番いとして俺の隣にいてくれてるんだってわかる。
「今日は俺が奢るからなースミスさん!」
「よろしく頼むよ」
スミスさんはにっこりと笑ってピッタリと俺の横にくっついて歩く。
(うわ、距離が近っ……!)
めでたく番いになったとわかった後、田舎に帰るのは取りやめになって、正式にスミスさんと同棲することになった。
そして番いになってから、スミスさんの優しさにさらに甘い顔や言葉が追加されて、俺の心臓はもたなくなってきている。
四六時中、ドギドギと心臓が飛び出してきそうなほどだった。
でも幸せで、好きな人と一緒にいられるのってこんなに満たされるものなんだって実感した。
好きって気持ちが溢れすぎてるけど、相手がスミスさんだから安心して甘えられるんだ。
そういえば、リオは捕まって投獄されたけど、その後のことはわからない。
聞いても教えてくれないんだよな。ヘレフォード副団長に聞いても、「スミス団長に聞いてください」の一点張りだったし。
スミスさんに聞いても、「機密事項だから言えないんだよ、ごめんね」と申し訳なさそうに言われてしまった。
そう言われてしまうとそれ以上はもう聞けなかった。
ただ、もう牢からは二度と出られないからリオが俺に危害を加えることはないとも言われた。
リオの家の、ぱるどぅすと家?が俺になんかしてくるんじゃないかって心配もあったけど、リオが捕まって芋づる式に今までのお家ぐるみの悪事が明らかになったらしい。
昨日も本当は土の日で休みのはずだったけど、その騒動もやっと落ち着いたので、今日はスミスさんと一緒にゆっくりできるって訳。
2人で屋台が左右に立ち並ぶ道を歩いていく。
串焼き屋って何店舗もあるからどこで食べればいいのか悩む。
だけど、王都にきた初日に食べそこねたおっちゃんのお店で食べたいんだよな。
「確か、ここらへんだったかな?」
屋台街の端っこの方まで歩いておっちゃんの店をみつけた。
「おっちゃん! 串焼き2本ね」
「お! あん時のニイちゃんじゃねぇか。財布は見つかったか?」
「おっちゃん、俺のこと覚えてんの?」
毎日色んなお客を相手にするから、俺のことを覚えてくれているとは思わなくて驚いた。
「こーんなかわい子ちゃんを忘れるはずがねぇよ。今日はサービスだ。隣のあんちゃんの分もつけといてやるよ」
かわい子ちゃんて……本当に王都の人はみんな俺のこと子ども扱いしてくるよな。
「ありがと!」
でも好意は素直に受け取っておく、それが俺のモットーだ。
じゅうじゅうと肉の焼かれるいい匂いがただよってきた。
おっちゃんが、串焼きに付いている肉にタレを塗りたくる。
じゅわー!っと勢いよく音がして、タレの焼ける香ばしい香りがあたりに充満していく。
早く食べたーい!
「へい、おまちどーさん」
熱々のコカトリスの肉をほふほふと口で冷ましながらかぶりついた。
タレがべっとりと頬に付くのも構わずだ。
「うんまー!!」
「うん、美味しいね」
スミスさんも大きな口でワイルドに、肉を串から引きちぎって食べていた。
口の横についたタレを親指で拭って舐める仕草がむちゃくちゃカッコイイんだが?!
この人が俺の番い、パートナーってまだちょっと信じられない。
「イチゴ、ここに付いてるよ」
「え? どこ?」
俺も指で口元を拭ってみたが、取れなかったみたいで、スミスさんが指で取ってくれた。
そして流し目で俺を見つめながら舌を出して指をペロリと舐め、口に含む。
……うん、すげーえっちだ。
俺の顔は今絶対に真っ赤になってる。
串焼きを食べ終えた俺は大満足だった。
「おっちゃん、また食べに来るね。今度はちゃんとお金払うからさ」
「お、おうよ」
食べ終えて挨拶すると、なぜか声が引き気味の串焼き屋のおっちゃん。表情も最初よりか怯えている気がする。
俺の方を見て怯えてたよな? ……俺ってそんな怯えるほど食べ方が汚かったかなぁ、とちょっとだけショックを受けた。
「ん? スミスさん? どうかした?」
隣でスミスさんがさっき食べ終えた屋台を食い入るように睨みつけていたのに気づいた。
そんなにさっきの串焼きか気に入ったのかな?
「……なんでもないよ。ちょっと威嚇をね」
なんで屋台に威嚇?
もう串刺しになったコカトリスにも警戒すんのか獣人って??
まだまだ獣人の生態がよくわかってない。
ま、これから先長いし、ゆっくりお互いのことを知っていけばいいかなー、なんて思ってる。
だから今は次の屋台を目指すことにした。
「スミスさん、次はガレット焼き食べに行こう」
「うん、楽しみだ」
どちらともなくぎゅっと手を繋いで歩く。
歩いていると、食べ物や飲み物の屋台だけじゃなくて、的当てゲームや、アクセサリーを売っている。色んなお店が出ていて見ているだけで楽しい。
その中で、俺はアクセサリーを売っているお店が気になって立ち止まった。
そのお店では、色んな色の石がネックレスやピアス、髪飾りなどにアレンジされて広げられていた。
その中で、俺は薄茶に光る石がついたピアスがすごく気になった。
別にアクセサリーとかほとんどつけたことないし興味もないんだけど、なぜか惹かれた。
「気に入ったなら買おうか?」
いつのまにかピアスを覗き込んでいた俺の横に、ひょこっとスミスさんが顔を出した。
「あ、いや……そんなつもりじゃなくて」
「すみません、これください」
さらっとスミスさんは俺が気になった薄茶色の石のピアスを購入していた。
俺が戸惑っていると、
「今日のデートの記念にプレゼントさせてよ」
って恋人っぽいことを言ってきた。
スマートすぎる。
これ以上俺を惚れさせてどうする気?!
獣人であるスミスさんにとって、番いは恋人や夫婦以上に結びつきが強い関係なんだって前に言ってた。
番いっていうのは生涯のパートナー。
一生を共にする相手となるもの。
俺は恋人もいたことなかったし、番いっていう感覚もまだいまいちわかってないけど、スミスさんが俺を1番に考えてくれていて、大事にしてくれていることは毎日ひしひしと感じている。
だから、おれもその気持ちに応えていきたいし、スミスさんを喜ばせたいなって思うんだよね。
日々、好きって気持ちが強くなって更新されていく感じ。
ちょっと勘違いで番いになるプロポーズの言葉を受けちゃったけど、このまま俺の気持ちもスミスさんに追いつけばいいなって思うんだ。
でもさー、スミスさんに追いついたって思ったら、いつのまにかスミスさんの俺への好きがとんでもなく大きくなっているんだよな。
俺が追いつける日は来るのかな?
スミスさんが、買ってくれたピアスを俺の手のひらにのせてくれた。俺はそれを手のひらで確かめる。
この明るくてキラキラした薄茶色が、スミスさんの髪と目の色にそっくりだ。
俺はピアスをその場で着けてみた。
「見てースミスさん。ほら、似合う?」
「とっても似合ってる」
ニコニコと満面の笑顔で俺に笑いかけてくれる。最高のデートの記念だ。
「これ、スミスさんの色だよね。だから気になっちゃったんだ。ありがとね、スミスさん」
耳に付けたピアスの石をいじりながらそんなことを言ってみた。
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