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「……本当に出ていくのかい?」
「うん、俺決めた」
「そうか……わかったよ」
はぁー、と深いため息を吐いてこめかみに指を当てていた。しばらく経って、意を決したようにスミスさんが姿勢を正した。
「イチゴ、私のミルクを飲んでくれないか」
「…………はへっ……?」
長い沈黙の後、俺は間抜けな声を出した。
俺は随分とアホな顔をスミスさんの前で晒すことになってしまった。
「…………今、なんて言った?」
聞き間違いかな?
絶対そうだよな?!
「私のミルクを飲んでくれないかと言ったんだ」
うん、聞き間違いなんかじゃなかった。
「み、みるく……?」
「そう、ミルクだ」
スミスさんに断言されてしまった。
(みるく、みるく、ミルク? あの飲み物のミルクのこと?)
ミルク、という単語が頭の中でぐるぐる回って、俺には理解できない難解な単語のように思えてきた。
ちょっと待って意味がわかんない。
(ミルクってこんなにもパワーワードだったっけ?)
混乱がさらに混乱を呼んで俺の頭は大混乱だ。
思考回路にもミルクという単語が侵入し、飛び交って忙しい。
スミスさんの言葉を頭の中で反芻する。
『私のミルクを飲んでくれないか?』
私のって……? スミスさんのミルク……って、なに??
……ダメだ! 俺の頭じゃぜんっぜん理解できん……!
「えっと、ミルク……今?」
「今だ。今すぐに」
はっきり、キッパリ言ってくる。
え、全然わかんねぇ。
こんなに頭をフル回転させたことは今までなかっただろう。
「ミルクって飲み物のミルクのこと?」
「飲み物だね」
「俺さ、今、この家出て、東の村の……田舎に帰るって言ったんだけど、それは聞いてた?」
「ああ、聞いていたよ」
(聞いててこのタイミングでミルクっておかしすぎやしないかっ?!)
だけど混乱して考えすぎていた頭に、ぱちっと抜けていたパズルのピースが合わさったような感覚があった。
(ああ、そっか! 私とミルクを飲んで欲しいってことか! ただの言い間違えじゃん。なんだ、ものすごくびっくりした)
そうしたらこの言葉にも納得がいく……いやいや、納得はいかないわっ!
だって今、俺たちは真面目な話の最中だったんだし。
一緒に住んでいるこの家を、俺が出ていくって言ってるのに。まぁ、俺はスミスさんの家に住まわせて貰っているただの居候、ってだけだったんだけど。
それにしたって、スミスさんの「ミルク飲んでくれないか」発言は、全くもって空気の読めてないタイミングだ。
そしてスミスさんの言葉の意味が読み取れたところで、俺はズン、と気持ちが沈んだ。
(はーぁ、なんだよ。ちょっとくらい、引きとめてくれると思ったのにな……)
引き止めて欲しかった。
ここにいてくれって言って欲しかったのに、友達としてでもいいからさ。
そしたらきっと俺は、迷わずここに残っただろう。
スミスさんとの生活はとても快適で、楽しくて、ずっと一緒にいたいと思ったし、これからも続いていくものだと思っていた。
それはスミスさんの方も俺と同じように、まではいかないにしも、少しくらい離れがたく感じてくれていると思っていたのに。
違ったみたいだ。離れたくないと思っていたのは俺だけだった。
それに俺の方は、優しくてカッコいいスミスさんに惚れ込んでしまったって言うのに。
ズキズキと胸が痛んで騒ぎ出す。
だけど、このままスミスさんの好意に甘える訳にもいかなかったし、俺は出ていくと決めた。言ってしまったものはもう撤回しようもない。
スミスさんの強い眼差しは「ミルクを飲んでくれ」なんて言葉が似合わないくらい、真剣そのものだ。
彼の長い薄茶の髪が顔に垂れ下がってきていて、とんでもない色気を放っている。
「イチゴ……」
俺からの返答がないのに焦れたのか、ぎゅっと眉根に皺をつくった顔で熱い吐息と共に名前が呼ばれた。
そんな切なげに俺の名前を呼ばないでほしい。
ぎゅううっと胸を締め付けられてさらに苦しくなっていった。
俺は仕方ないと諦めて肩の力を抜いた。息を吐いて深呼吸をすると、胸の痛みが少しだけ和らいだ気がした。
最後の夜に一緒にミルク飲む、噛み合わない俺たちにはピッタリかもしれない。
「いいよ。飲もっか」
笑顔を貼り付けて、そう俺はスミスさんに返事をした。
「うん、俺決めた」
「そうか……わかったよ」
はぁー、と深いため息を吐いてこめかみに指を当てていた。しばらく経って、意を決したようにスミスさんが姿勢を正した。
「イチゴ、私のミルクを飲んでくれないか」
「…………はへっ……?」
長い沈黙の後、俺は間抜けな声を出した。
俺は随分とアホな顔をスミスさんの前で晒すことになってしまった。
「…………今、なんて言った?」
聞き間違いかな?
絶対そうだよな?!
「私のミルクを飲んでくれないかと言ったんだ」
うん、聞き間違いなんかじゃなかった。
「み、みるく……?」
「そう、ミルクだ」
スミスさんに断言されてしまった。
(みるく、みるく、ミルク? あの飲み物のミルクのこと?)
ミルク、という単語が頭の中でぐるぐる回って、俺には理解できない難解な単語のように思えてきた。
ちょっと待って意味がわかんない。
(ミルクってこんなにもパワーワードだったっけ?)
混乱がさらに混乱を呼んで俺の頭は大混乱だ。
思考回路にもミルクという単語が侵入し、飛び交って忙しい。
スミスさんの言葉を頭の中で反芻する。
『私のミルクを飲んでくれないか?』
私のって……? スミスさんのミルク……って、なに??
……ダメだ! 俺の頭じゃぜんっぜん理解できん……!
「えっと、ミルク……今?」
「今だ。今すぐに」
はっきり、キッパリ言ってくる。
え、全然わかんねぇ。
こんなに頭をフル回転させたことは今までなかっただろう。
「ミルクって飲み物のミルクのこと?」
「飲み物だね」
「俺さ、今、この家出て、東の村の……田舎に帰るって言ったんだけど、それは聞いてた?」
「ああ、聞いていたよ」
(聞いててこのタイミングでミルクっておかしすぎやしないかっ?!)
だけど混乱して考えすぎていた頭に、ぱちっと抜けていたパズルのピースが合わさったような感覚があった。
(ああ、そっか! 私とミルクを飲んで欲しいってことか! ただの言い間違えじゃん。なんだ、ものすごくびっくりした)
そうしたらこの言葉にも納得がいく……いやいや、納得はいかないわっ!
だって今、俺たちは真面目な話の最中だったんだし。
一緒に住んでいるこの家を、俺が出ていくって言ってるのに。まぁ、俺はスミスさんの家に住まわせて貰っているただの居候、ってだけだったんだけど。
それにしたって、スミスさんの「ミルク飲んでくれないか」発言は、全くもって空気の読めてないタイミングだ。
そしてスミスさんの言葉の意味が読み取れたところで、俺はズン、と気持ちが沈んだ。
(はーぁ、なんだよ。ちょっとくらい、引きとめてくれると思ったのにな……)
引き止めて欲しかった。
ここにいてくれって言って欲しかったのに、友達としてでもいいからさ。
そしたらきっと俺は、迷わずここに残っただろう。
スミスさんとの生活はとても快適で、楽しくて、ずっと一緒にいたいと思ったし、これからも続いていくものだと思っていた。
それはスミスさんの方も俺と同じように、まではいかないにしも、少しくらい離れがたく感じてくれていると思っていたのに。
違ったみたいだ。離れたくないと思っていたのは俺だけだった。
それに俺の方は、優しくてカッコいいスミスさんに惚れ込んでしまったって言うのに。
ズキズキと胸が痛んで騒ぎ出す。
だけど、このままスミスさんの好意に甘える訳にもいかなかったし、俺は出ていくと決めた。言ってしまったものはもう撤回しようもない。
スミスさんの強い眼差しは「ミルクを飲んでくれ」なんて言葉が似合わないくらい、真剣そのものだ。
彼の長い薄茶の髪が顔に垂れ下がってきていて、とんでもない色気を放っている。
「イチゴ……」
俺からの返答がないのに焦れたのか、ぎゅっと眉根に皺をつくった顔で熱い吐息と共に名前が呼ばれた。
そんな切なげに俺の名前を呼ばないでほしい。
ぎゅううっと胸を締め付けられてさらに苦しくなっていった。
俺は仕方ないと諦めて肩の力を抜いた。息を吐いて深呼吸をすると、胸の痛みが少しだけ和らいだ気がした。
最後の夜に一緒にミルク飲む、噛み合わない俺たちにはピッタリかもしれない。
「いいよ。飲もっか」
笑顔を貼り付けて、そう俺はスミスさんに返事をした。
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