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しおりを挟むしょんぼりしながら家に戻ると、珍しくスミスさんが俺より早く帰宅していた。
「イチゴ、君の財布が見つかったよ」
「え?! 本当に?」
もう絶対に見つからないと諦めていたのに見つかるだなんて奇跡だ!
そしてスミスさんの後ろには、背中を丸めて下を向いた小さな少年がいた。
少年の手には、確かに俺のものと思われる革の財布が握られていた。
「この財布の中身はもうないけれどね」
スミスさんが少年を見た。
少年はビクついて、恐る恐る俺にその手に持っている財布を差し出す。
顔は下を向いたままで見えないけれど、床にはぼたぼたと涙が絶え間なく流れて濡れている。
体全体がプルプルと小刻みに揺れる。
尋常じゃない揺れだ。
「お、おれ……おれがあなたの財布を取りました……。すみませんでした……っ、金は全部使っちゃって……おれ、おれぇ……ひっく、働いてかえすからっ、うぅ……ゆ゛るじでくださいぃいっ」
尋常じゃない怯え方だ。声も震えて、めちゃくちゃ可哀想に思えてきた。
体液という体液が体中から流れ出ている。
「ううん、いいよ金は。取られたのは俺の不注意もあるし、今後もう二度スられないように注意するさ。いい勉強代になったよ。だけど、もうスリはしないようにな」
ポンポン、と頭を軽く叩いて、財布を受け取った。そしたらやっと彼が顔を上げた。
「ばぃ゛……もう二度どズリ゛なんでじま゛ぜんん゛ッ……っ」
鼻水もずるっずるの酷い泣き顔だ。
「いいのかい? ちゃんと罰を受けさせることも考えていたんだけど」
スミスさんの「罰」との言葉を聞いて「ひいぃ」と声を上げる少年。
「いや、もういいよ。十分反省してるみたいだから」
それに、もう罰はスミスさんが与えたみたいだし。見たところ少年には怪我や傷はなかったから、体罰なんかはしていないようだ。
少年はスミスさんから相当のお叱りの言葉か脅しをかけられたのかもしれないな。
この大きなムキムキの騎士団長様に黒い笑顔で怒られたら、俺でも何されるかわかんなくて「ヒイィ」と言ってしまうかもしれない。
でも俺が悪くなければとことん戦う姿勢は崩さないけどね。俺の場合。
「イチゴがそう言うなら。おい、もう行っていいよ」
少年はえぐえぐ泣きながら、ぺこぺこと頭を下げて逃げるように立ち去った。
「スミスさん、財布を探し出してくれてありがとう。もう見つからないと諦めてたのに、どうやって探し出したの?」
「孤児たちに少し情報をもらってね」
探すアテとはやはり孤児たちだったんだ。
「孤児たちのネットワークは中々広くて。あまり危なすぎない、今回みたいなもの探しや犯人探しはお手のものさ」
「財布もスリの犯人も、孤児たちが探し出してくれたわけだ」
「そういうこと」
「彼、かなり怯えた様子だったけど、スミスさんたら何を言ったの?」
「罪を犯した罪人の、行き着くところってやつを教えてあげたんだよ」
「行き着くところって、つまり牢屋?」
「ま、そんなところ」
スミスさんは、それ以上は聞いても教えてはくれなかった。
行き着くところ……か。
罪人であふれている牢屋の中では、一体どんなことが起こるんだろう。
怖い看守とか、他のコワモテ受刑者とかにいびられたりするんだろうか。
想像しようと思っても、俺にはそれ以上想像がつかなくてすぐに諦めた。
「それにしても、スミスさん孤児にも厳しいんだね。スリくらい許しちゃうと思ったのに」
孤児のために一軒家買っちゃうくらいだし。
「孤児たちは犯罪者予備軍でもあるからね。罪を一つでも犯してしまうと、後戻りは難しくなる。今のうちにきっちりと善悪を叩き込めば、犯罪者になる確率も減るさ」
「ちゃんと、孤児のことを考えてるんだね」
スミスさんすごいな。
「そういうんじゃないよ。私も助けられたうちの1人だから。自分の手で掬い上げられる者たちだけでも掬い出したいっていう自分のエゴだよ」
そんなことない。
スミスさんは立派な人だ。
たとえそれがエゴだったとしても、やらないよりやることに意味がある。
1人でも救われる人がいれば、それでいいじゃないか。
そう言ってやりたかったかけど、なんにも成し遂げてない俺なんかが言っても安っぽく聞こえそうだったから、何も言えなかった。
自分とスミスさんとの差をまざまざと感じさせられてしまった。
俺はスミスさんと肩を並べたくなって、背伸びしたい気分になった。
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