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しおりを挟む一目惚れした可愛い彼と、お気に入りのカフェでランチなんてもはやこれはデートじゃないか、と私は浮かれまくっていた。
「ここの宝石ベリーのタルトと王都オリジナルカーフィーはとても美味しいんだ。私のおすすめだよ」
「はぁ……」
彼の方は、なぜ自分はここにいるんだろう、という顔をして戸惑いが隠しきれないようだ。
私は騎士服のままだが、彼の方は古着だがちゃんと綺麗めの服を着ていて、身だしなみにも気を使っているのだとうかがえた。
(でも、彼にはもっと明るい色の服が似合いそうだな)
ぱっと目を引く明るい陽だまりのような黄色や、爽快に晴れた日の空色なんかも彼には似合うと思う。
そのうちプレゼントしよう、なんて考えながら彼の全身を気付かれないようにくまなくチェックする。
真っ赤なみずみずしいベリーのような赤髪に、東の民独特の幼い顔立ち。目の色は吸い込まれてしまいそうなほど深い黒色だった。
ずっと彼を見ていたら、お店の男性店員が彼の横を何度も通ってくることに私は気がついた。その男性店員は、チラチラと彼に意味ありげに視線をよこしていた。だが、彼はそんな視線に気づいていなかった。
(お前には興味がないんだと。諦めろ)
と心の中でその男性店員に言って、今は私がデート中だぞ、と意地悪くニヤリと笑ってやる。その店員は顔色をサッと変えて、すぐさま視線を逸らし、そそくさと厨房に戻って行った。
邪魔者がいなくなったところで、私はずぅーっと彼の姿を見つめていた。
(どれだけみていても飽きないな)
テラス席の別テーブルに、できたての食事が運ばれていった。料理の香りが空腹感を刺激する。
その直後、ぐううぅッ、と彼のお腹が盛大にないたのが聞こえてきた。
「うぅっ……」
腹を必死に隠そうと抑えていたが、今の音は取り消せないだろう。
私はポカンと口を半開きにした後に、面白くなってしまって、彼に悪いと思ったが笑いが止まらなくなってしまった。
「君はスイーツの前にランチメニューを頼んだ方が良さそうだ」
彼は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしていた。
(もー、可愛いなぁ)
どんな姿を見ても、私は彼のことが可愛いとしか思えなくなっていた。
頭は彼でいっぱいで、お花畑だった。
「育ち盛りの君にはがっつりめのドラゴンのステーキセットがいいかもね」
「育ち盛りって、……もう20歳でとっくに成人してますよ」
ちょっとムッとしたように反論した彼。
(もう成人していたのか。それだったら遠慮はいらないな)
どうやって彼を手に入れられるだろうかと、思案した。
少年は実際はすでに成人していたが、顔立ちは王都民たちよりも幼く可愛らしい。
人によっては地味に見えるその低い鼻筋も、幼なげなつぶらな瞳も私には魅力的に見えた。
「はは、そっか。ごめんね。でもお肉は好き?」
「まぁ、好きですけど……」
「じゃあそれにしようか。私はコカトリス肉のサラダにしようかな。後でケーキを楽しみたいから軽めにするよ」
本当はもうお昼は済ませていたが、軽めだったからこれくらいは余裕で入る。
せっかくここのカフェに来たので、この店自慢のケーキは外せない。
「てかあの、俺……お金が……」
お金をスられて、ここの支払いが心配になったのだろう。
私の前でそんなことを心配する必要はないのに。
「もちろん、私のおごりだから気にしないで。君のスられた財布は私の方で探し出すし、身分証の件も私の方で何とかするから、今は安心して食事を楽しもうじゃないか」
「なんとかって……」
私は先ほどとは別の店員に声をかけて、彼の分のケーキセットも頼み、注文を済ませた。
「改めて自己紹介させてもらおう。この王都の騎士団の団長を勤めている、スウィッツァラルド・ブラウンだ。よろしくね」
「す、スウィーツぁ、……ラルド様……?」
したっ足らずな発音で私の名前を一生懸命呼ぼうとする。
(はぁ、彼は私をどうしたいんだ……?)
許されるなら彼を抱きしめて顔中にキスの雨を降らせたかった。
「ス、スィ……スウィッ」
噛んでしまい、中々私の名を呼べない。頑張る彼のひたむきさが今は憎い。
(押し倒したくなるだろう……!)
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