【BL】「私のミルクを飲んでくれないか」と騎士団長様が真剣な顔で迫ってきますが、もう俺は田舎に帰ります

ノルジャン

文字の大きさ
上 下
9 / 31

6-2

しおりを挟む
 
 リオは私の出現に、かなり焦った様子だった。
 
「私は何をしている、と聞いたんだけど?」

「い、いや……これは……こいつが!」

 自分ではなく、他人のせいにする。よくリオが他人に自分の失態をなすりつけているという報告も上がってきていた。

 いきなりのことで、言葉を準備していなかったらしい。言いたい言い訳が上手くまとまらず、言葉に詰まっている。

 リオは、ハッとして、少年の胸ぐらを掴んでいた手を離した。
 
「それで……リオ……いや、リィゥオル・パルドゥスト? 見たところ相手は一般市民のようだが、一体何をしていたんだい?」

 深く微笑んでリオを見下ろした。真っ青になっていくリオの顔を冷たく見据えた。

「こ、これは……その……っ」

「答えられないと?」

「こ、こいつが……いきなり掴みかかってきてっ」

 きっとこれも嘘だろうな。

「ほう? それでさらにこの善良そうな一般市民にリオ、お前は掴みかかったと? そういうことかい?」

「あ、ぅ……それは……」

 下を向いて表情は見えないが、焦りながらも頭がフル回転させて言い訳や嘘を捻り出しているのがわかる。

「ぜ、善良な市民なんかじゃありません団長!こいつは……東の民で……み、身分を証明する物を所持していなかったんです! 財布をすられたからって逆上して掴みかかってきて……」

「ふぅん、なるほど……」

 こんな短時間で、もっともらしい言い訳を思いつくリオはこういった場面に遭遇することが多かったのかもしれない。
 とんだ特技だな。

 リオの言い分を聞いたら、今度は少年の言い分を聞こうとそちらに目を向ける。

「それじゃあ、君の言い分を聞こうか」

「え……えっと?」

 いきなり話しかけられてびっくりしているようだ。
 目がくりくりとしている。

 (あー、可愛い……)

 語彙力が崩壊して可愛いしか言えなくなっている。だが事実、可愛いのだから仕方ない。

「身分証を持たない君がこの若騎士のリィゥオルに最初に掴みかかり、彼が応戦した、そう言うことでいいのかい?」

 リオの主張を再度述べる。ギロリとリオが彼に圧をかけたのがわかった。

 はぁ、と面倒くさそうに彼はため息を吐いた。従順そうにも見える彼の幼さを残す顔。だがその小さな口からは、全く予想外の言葉が吐き出された。
 

「いいえ、全く違います」
 

 こちらを見据えてキッパリと断言する彼に、ますます興味を惹かれた。

「ほう? どう違うんだい?」

「おい! お前……っ!」

 リオが少年の口を塞ごうと手を伸ばす。その手首を私は掴み、捻り返した。

「リオ、今はこちらに言い分を聞いている。お前は黙って聞いてろ」

 彼とリオの間に体を入れ込んで、リオの体を押し出した。

「っ……ぃっ!」

 リオは私にさらに手首を捻られて痛そうに顔が歪んだ。

 中断された話の続きを促すように、私は彼に視線を向ける。彼は続きを話し始めた。

「このリオ? という騎士様は、最初から俺の財布盗難被害の調書を取る気がなかったようで、ずっと偉そうな態度でした。俺が東の民であるとわかると、差別的な対応でこの王国から出ていけと言われました。俺だけじゃなくて、育ての親のじいちゃんのことまで悪く言われて……それで俺が感情的になって抗議したら、胸ぐらを掴まれました。俺が騎士様の胸ぐらを掴んだ事実はありません。

 それに、その机の上の調書を見て貰えばわかると思いますが、落書きばっかりしています。」

「んなっ……!」

 机の上の調書をぺらぺらとめくると、ずっと下手くそな落書きが続いていた。

「ふむ。確かに、落書きばっかりのようだね」

 詰め所の仕事は退屈ではあるが、調書くらいは取っていると思っていた。思ったよりもリオは使えない存在なのかもしれない。
 騎士団に入団したのだって、家のコネか何かだと聞いている。
 こういった存在はなるべく早く排除していきたいが、こういう輩こそ失態を隠すのが上手い。 

「リオ、君は調書もろくに取れないのかい。君には期待しているのに、残念だよ」

「……くっ!」

 リオはギリギリと歯軋りしながら血走った目で彼を射殺さんとしていた。

「このことは本部にも報告させてもらうよ。リオ、君には1週間の謹慎処分を課す。このまま寮の自室に戻るように」

 この報告だけでは、リオを首にはできないだろうが、小さな処分が積み重なっていけばいつかは……。
 というのは私の希望的観測で、やはり何か尻尾を掴まないと排除するのは難しいだろう。

「……っ、はい……わかりました」

 わかったとは言いながらも納得がいかなそうだ。
 リオはずっと少年を恨みがましく睨みつける。

 少年の方は怯えた様子もなく、むしろ好戦的な表情だ。いざとなったら戦ってやる、という意思を感じた。

「さあ、行け」

 リオはようやっと立ち去った。
 
「さぁ、君、こちらへ来なさい。盗難の調書を取るからね」

「え? いや、俺はもう……」

 戸惑う彼に構わず、強引に肩を掴んだ。
 
 言葉の続きを言わせずに、攫うように私のお気に入りのカフェに連れて行った。

 この機会を逃せば二度とイチゴに会えなくなるかもしれなかったから、逃さないようにがっちりと肩を掴んで離さなかった。
 

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...