【BL】「私のミルクを飲んでくれないか」と騎士団長様が真剣な顔で迫ってきますが、もう俺は田舎に帰ります

ノルジャン

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『私と一緒に暮らさないかい?』

 その言葉を受けてから、ぽかん、とした顔をどれほどの時間続けていたのだろう。

 (一緒に暮らすって、俺と? スミスさんが?)
 
 いつのまにか目の前にはオーダーしていたドラゴンのステーキが置かれていた。熱い鉄板にじゅうじゅうと音を立てて美味しそうに焼けている。

 セットでついてきたこんがりと焼けた小麦色のパンも美味しそう。

 いつまでも食べ出さない俺に、スミスさんは、自分のフォークですでに一口大に切られていた俺のドラゴンステーキを一切れ取った。

 そのまま自分で食べるのかと思いきや、俺の目の前にステーキを差し出した。

「はい、あーん」

 ずい、とフォークが口の前に来て、肉のいい香りに思わず俺はそれを口に入れた。

 パクリ。
 もぐもぐ。

 う、こ……これはっ!

「うまぁ……っ」

 ミディアムレアに焼けた柔らかい肉の肉汁が、噛むたびにジュワッと口の中に広がっていく。

 二口目からは、もきゅもきゅと自ら残りを平らげていった。

 ステーキにかけられたブラウンの玉ねぎソースがこれまた肉と合う。

「ここのドラゴンステーキはすごく美味しいよね。油もしつこくなくて、そんなに食べた後も重たくなくて女性に人気なんだ」

「めちゃくちゃ美味しいです! こんな美味しいものがあっただなんて……」

 幸せを噛み締めながらステーキを堪能する俺。

 副菜の野菜のソテーも甘味が強くて美味しい。

 ランチに夢中になってしまい、衝撃的な言葉についてはもう忘れてしまっていた。

「それで、どうだい? 私と一緒に暮らさないかい?」

 はっ、そうだった。
 その重大なお誘いの返事がまだだった。

「いや、なんでいきなり一緒に暮らすとかになっちゃうんです?」

「それが一番都合がいいかと思って」

「都合がいい……?」

「だって、君は住むところはまだ決まっていないだろう? 私と一緒に住めば住むところに困ることはないし、私も君のことをリオから守りやすくなると思ってね。一石二鳥じゃないかい?」

「それは……」

 確かにそうだけど。
 見ず知らずの俺なんかを住まわせてもらっていいのかな。

「それに、無一文の君を養ってあげられるしね」

 無一文……そう言われるとなんだか悲しい。
 現実を突きつけられてしまって、心にグサリとナイフが刺さる。

「養うとかは……俺は別に働くつもりだし」

「もちろん、働くつもりの君を止めるつもりはないよ。ただ、働かなくても支障はないと言いたかっただけなんだ。どうかな?」

「……そう、ですね……すごくありがたいお話ですが、いきなり俺みたいなのが騎士団の団長様のお世話になるのは家の人たちも納得いかないのでは……」

 ちょっといきなりすぎて無理があるんじゃないかと思う。
 俺は田舎者だし、作法とかわかんないし、こんな偉い人のお世話になるのは彼の家の人たちも嫌がるだろうと思う。
 それに、俺は東の民の血が流れてる。移民族の俺を嫌がる人はリオの他にもこの王都に大勢いそうだ。

「騎士団長と言っても、私は孤児の成り上がりだからね。そんなに気負わなくても大丈夫だから」

「ぅええ?! スミスさん、孤児……だったんですか? 騎士団長様だから、貴族が何かかと思ってました! それに、所作も綺麗だし、言葉遣いだって!」

 スミスさんからは常人ではないオーラが出ているし、身のこなしや言葉遣いに品がある。孤児だったなんて信じられない。

「騎士団に入る時に相当勉強したよ。どうしても上に行きたかったからね」

「すごい……ですね」

「そうでもないよ」

 きっと、相当な努力の賜物だ。
 
 スミスさんは食後のデザートセットのカーフィーカップをゆっくりと口に運ぶ。
 その動きでさえ、洗練されていてきれいだ。

「……迷惑じゃなければ、スミスさんのところで厄介になってもいいですか」

 孤児だった、ということで一気にスミスさんに親近感が湧いた。
 
 俺も孤児みたいなものだ。
 生まれてすぐに両親に捨てられて、東の果ての村でじいちゃんに育てられた。
 じいちゃんと俺は血のつながりはなかったから。

「もちろん」

 嬉しそうに笑うスミスさんの笑顔を、俺はもう胡散臭そうなんて思わなくなっていた。
 むしろ、ちょっと頬が赤くなっていて可愛いや。なぜか耳もちょっと赤いし。
 

 店員さんがデザートの宝石ベリーのタルトを俺たちの目の前にそれぞれ置いてくれた。

「うわぁ、すごくきれい……!」

 俺は思わず子供みたいにはしゃいだ声を出して感動してしまった。
 キラキラと宝石のように輝いている美しいデザート。色とりどりのベリーが宝石の形ををしている。

「そうだろう? 見た目も綺麗だが、味も抜群だよ」

 なにか、表面にキラキラとしたものがコーティングされている。砂糖か、それともゼリーかな?

 食べるのがもったいないくらい。
 このケーキにフォークを入れるのを戸惑ってしまう。

 スミスさんを見ると、フォークとナイフを器用に使って硬いタルト部分を切って一口大にしていた。

 目をつぶって、もぐもぐと満足そうに口を動かしている。タルトの味を堪能しているらしい。

 俺も意を決してナイフとフォークをこの美しいケーキに入れた。
 中々下の生地のタルトが硬い……!
 フン! と力を込めたら無惨にボロボロになってしまった。

 見た目が素敵なせっかくのケーキが……。
 でも味は変わらないから……、と自分に言い聞かせた。

 ちょっと涙目になりながらボロボロになってしまったケーキを頬張る。

 ベリーの甘酸っぱい味と、中に隠れていたカスタードのフィリングの甘さがマッチしていてすっごく美味しい。
 カスタード自体も甘くて美味しいのに、ベリーの味を際立たせている。

「しあわせぇ……」

 ふにゃふにゃと顔がほころぶ。

 そんな俺を、スミスさんがまた怪しげな細目で見ていることなんて気づかずに、呑気にこの極上のスイーツを楽しんでいた。

「ほんと、美味しそうだ……」

 ペロリ、と舌なめずりしながらスミスさんは俺に聞こえないくらいの声で呟いていた。

 俺の意識はこの宝石ベリーのタルトに釘付けで、周りはもちろん、スミスさんのことも何も見えてなかった。
 

 

 
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