【BL】「私のミルクを飲んでくれないか」と騎士団長様が真剣な顔で迫ってきますが、もう俺は田舎に帰ります

ノルジャン

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「ここの宝石ベリーのタルトと王都オリジナルカーフィーはとても美味しいんだ。私のおすすめだよ」

「はぁ……」

 

 俺は今、騎士団長様と一緒に調書を取ってもらう、はずだったんだけど。

 (なぜ俺たちはオシャレなカフェにいるのか)

 テラス席の端っこに向かい合って座っている騎士服の団長様と、着古した服を着る俺。
 なんというミスマッチな光景だろうか。

 メニューを開きながら楽しそうに頬を緩ませながら、何にしようか、と迷っている様子がメニュー越しに見えた。
 手慣れた様子でメニューをめくる。

 厳つい体つきのくせに、団長様はこんなに女性ばかりのオシャレなカフェに、オシャレなスイーツ食べに来るんだ。
 でもなんか可愛い、なんて立派な男の人相手に思ってしまった。
 

 少し離れた隣の女性客の席に、食事が運ばれていった。
 店員さんが俺の横を通っていく瞬間に熱々に焼かれたチーズの匂いと、焼きたてのパンの香ばしい香りが鼻を刺激した。

 その直後、ぐううぅッ、と俺に住み着いている腹の虫が盛大にないてしまった。

「うぅっ……」

 音を少しでも消したくて腹を抑えるが無駄だった。

 団長様はポカンとした顔をした後にクスクスと笑い出した。

「君はスイーツの前にランチメニューを頼んだ方が良さそうだ」

 俺は恥ずかしすぎて顔を真っ赤にした。腹と顔を隠しても、俺の存在を隠せはしない。

「育ち盛りの君にはがっつりめのドラゴンのステーキセットがいいかもね」

「育ち盛りって、……もう20歳でとっくに成人してますよ」

 俺の顔ってそんなに幼く見えるもんなのか?
 周りに同年代すらいなくて、じじばばしかいない田舎だったからわからない。
 ちょっとムッとした。

「はは、そっか。ごめんね。でもお肉は好き?」

「まぁ、好きですけど……」

「じゃあそれにしようか。私はコカトリス肉のサラダにしようかな。後でケーキを楽しみたいから軽めにするよ」

 団長様は甘いものが大好きなんだな。

「てかあの、俺……お金が……」

 スられたからお金がない。しかも全財産。
 これからどうしたらいいのかわからない。そんな状況である。

「もちろん、私のおごりだから気にしないで。君のスられた財布は私の方で探し出すし、身分証の件も私の方で何とかするから、今は安心して食事を楽しもうじゃないか」

「なんとかって……」

 どうやって、と聞く前に団長様は店員さんに声をかけて注文し出した。

 2人分のケーキセットも忘れずにだ。


「改めて自己紹介させてもらおう。この王都の騎士団の団長を勤めている、スウィッツァラルド・ブラウンだ。よろしくね」

「す、スウィーツぁ、……ラルド様……?」

 ダメだ。全然言えない。
 しかも甘いもの好きってことでスイーツって言葉に引きずられた。

「ス、スィ……スウィッ」

 むず過ぎる。めちゃ舌を噛む。かみかみだ。

「やっぱり発音が難しいよね。スミスでいいよ」

 スミス団長様はニコニコと楽しそうに笑いかけてくる。

「スミス団長様」

「様なんてつけなくて大丈夫さ。そんな堅苦しい呼び方はやめて気軽に呼んで」

 いや、団長様なんだから気軽には呼べない。でもスミスって呼んでいいのは助かった。本名は一生呼べる気がしないよ。

「スミスさん」

「んー、まぁそれでいいか」

「俺は、東の村から今日初めて王都に来ました。イチゴと言います」

「イチゴね。よろしく」

「あのー、早速なんですが、さっき言ってた俺の財布と身分証、なんとかなるって」

「うん、財布は探すツテがあるから。金目のものは戻ってこないとは思うけど、何か大切なものが入ってた?」

「財布には金と住民移動手続きに必要な書類が入ってて、その書類がないと身分証が作れないですよね?」

 東の村はど田舎なのでギルドなんてない。だから、隣町、といっても大分距離があるが、そこで移住に必要な書類を出してもらっていたのだ。

 小さく折りたたんで財布に入れていたのに、まさか丸ごと盗られてしまうなんて思わなかった。

「時間はかかるかもしれないけど、私が一緒にギルドに行って掛け合うから作れないことはないよ」

「え……なんでそんな」

 初対面の俺なんかのために、騎士団長様とあろうお人がそんなことまでしてくれるなんて。

「これも、善良な市民のためだよ」

 穏やかに笑う目が、一瞬だが細まった。
 その瞳の奥が怪しい雰囲気を出したのを俺は見逃さなかった。

 (一体なんだ? 何が目的なんだ?)

「なんでそんなにしてくれるんですか?」

 警戒心が高まってきた。
 何か裏があるのかもしれない。

 少しの動きも見逃さないようにじっと彼を見つめた。

「ああ、そんなに警戒しないでくれ」

 怪しすぎて警戒しないでと言われても無理だ。

 (ますます怪しい……)

 今度はこっちが目を細めてスミスさんを見つめた。

「いやね、……さっきのリオの様子から、きっと君は逆恨みをされると思うんだ」

「え?」

 とても申し訳なさそうな顔をしながら、運ばれてきたコカトリス肉のサラダをつついている。
 
「本当に君には申し訳ないのだが、リオが君に逆恨みをして、どんな目に遭わされるかと心配になったんだ。彼はとても執念深い奴でね」

「さ、逆恨みするってなんで! 俺はなんもしてないのに」

「彼は特に移民族を嫌っていて、問題行動も多い、要注意な人物なんだ」

「なんでそんなヤツが騎士団に……」

「彼の家は名家でね。クビにしたくても中々できない。今必死で彼の動向を探っている最中ではあるんだ」

「俺……ヤツに一体何されるっていうんですか」

 確かにあの血走った目はやばかった。
 イっちゃったヤツの目だった。
 ちょっと不安になってきたよ。

「うーん、それは私にもわからない。そこでだ、提案があるんだが、一つ聞いてくれるかい?」

「なんです? 勿体ぶらないで言ってくださいよ」

 不安な気持ちにさせられて、早く解決法を聞きたくて仕方なくなった俺は、焦りながら早口で聞き返した。

 


「私と一緒に暮らさないかい?」
 



 
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