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しおりを挟む「死んでくれてよかったっつったんだよ。耳も悪いのかよ。移民族が」
そう言葉を吐き捨てられた。
そこで、俺の忍耐力という名の糸は、ブチリと音を立てて千切れさった。
「…………こんの……クソ騎士が……」
心の声が俺の口から漏れ出て、俺の我慢は限界に達してしまった。
「あ? 今なんつった?」
騎士がこちらに向き直して怖い顔で睨んでくる。こっちも負けずにギッと睨み返した。
「クソ騎士っつったんだよ!」
「おいお前、誰にもの言ってんのかわかってんのか?」
座っていた騎士は、立ち上がり腕を組んで俺を脅すように上から目線で見下してしきた。
「あんた……あんた最低だな。確かに、俺は東の民の血が流れてるし、財布をすられたのは浮かれ過ぎていた俺にも落ち度があったかもしれない。けど、俺のじいちゃんが死んでよかっただなんて……そんなこと言われる筋合いねえんだよこの…………クソ騎士がっ!!!」
何度だって言ってやるさ。
たとえ身分の高い騎士だったとしても言っていいことと悪いことがある。
俺のことを色々と言われるのはなんとか耐えてきたが、じいちゃんが死んでくれて良かっただなんて言われて頭に一気に血が上った。
じいちゃんの悪口だけは絶対に許せない!
「お前……いい度胸じゃねえか。こっちは真摯に対応してやろうとしてんのによぉ」
真摯な対応には程遠いお粗末な扱いしかされてなかったけど?
ふざけんのも大概にしろよな。
「何が真摯にだよ。俺を東の民だと差別してろくに話も聞いてなかったくせに。無能かよ。お前こそ騎士辞めた方がいいんじゃねえのかよ!」
「無能……だと……!東の民のくせに生意気言いやがって! 暴言に恐喝……お前は騎士への公務執行妨害の罪で牢屋行きにしてやるからな!」
「望むところだこのヤロー!」
白髪の騎士に胸ぐらをぐいっと掴まれた。その掴まれている腕を俺も掴みかかる。
どっちも譲らない! という強い意志で互いを睨みつけ合っていた。
そんな俺たちの後ろから突然声がかかった。
「おいお前たち! 何をしているんだ?」
今にも殴り合いをし出しそうな雰囲気の俺たちに割って入ってきたのは、これまた騎士様だった。
(ちくしょう、援護かよ)
このクソ騎士のお仲間が来てしまったと思った俺は、自分の置かれた状況がさらに悪化すると思って舌打ちをしたくなった。
(これまたデカくて強そうな騎士様だ)
掴みかかられている目の前の騎士に意識を向けながらも、新しく来た騎士様を横目で見た。
長い薄茶の髪をなびかせながら颯爽と現れた大男。その体躯は鍛え上げられており、きっちりと着こなした騎士服では隠しきれないほどの筋肉の盛り上がりを見せていた。
穏やかそうな雰囲気を持ちながらも、こちらを目を細めながら見つめてくる表情がなんとも怪しさ満点だ。
(なんか、腹黒そう……)
穏やかに微笑みながらも、腹の中は真っ黒な感情を抱えてそうだ、と一瞬見ただけでそんな印象をこの新しく現れた騎士様に持った。
「スウィッツァラルド団長!」
驚いた様子で白髪の騎士がそう叫んだ。
(へー、この人団長なんだ。そんでもってめっちゃ舌噛みそうな名前……)
現れた騎士団長に焦ったような表情を目の前の騎士は浮かべ、俺の胸ぐらを掴む手が緩んだ。
俺も警戒を少しだけ緩めて意識を大きな長髪の騎士団長様へと移した。
「私は何をしている、と聞いたんだけど?」
「い、いや……これは……こいつが!」
しどろもどろになりながら、騎士は答えようとするが、突然のことで言葉が出てこないようだった。
騎士は、ハッと気づいて、掴んでいた俺の胸ぐらを離した。俺は胸ぐらが解放されて呼吸が楽になる。
「それで……リオ……いや、リィゥオル・パルドゥスト。見たところ相手は一般市民のようだが、一体何をしていたんだい?」
細められた目がこれでもかというほどまた細められた。口元がほんのりと笑っているのになぜか怖い。
俺が責められてるわけじゃないのに、ゾクゾクと体に悪寒が走る。
(そしてまた舌を絶対に噛みそうな名前)
「こ、これは……その……っ」
「答えられないと?」
「こ、こいつが……いきなり掴みかかってきてっ」
いやいや、何言ってんだよ。掴みかかってきたのはお前じゃん。
明らかな嘘をつくこいつに俺は呆れ返った。
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