上 下
4 / 31

3-1

しおりを挟む

「死んでくれてよかったっつったんだよ。耳も悪いのかよ。移民族が」

 そう言葉を吐き捨てられた。

 そこで、俺の忍耐力という名の糸は、ブチリと音を立てて千切れさった。

「…………こんの……クソ騎士が……」

 心の声が俺の口から漏れ出て、俺の我慢は限界に達してしまった。

「あ? 今なんつった?」

 騎士がこちらに向き直して怖い顔で睨んでくる。こっちも負けずにギッと睨み返した。

「クソ騎士っつったんだよ!」

「おいお前、誰にもの言ってんのかわかってんのか?」

 座っていた騎士は、立ち上がり腕を組んで俺を脅すように上から目線で見下してしきた。

「あんた……あんた最低だな。確かに、俺は東の民の血が流れてるし、財布をすられたのは浮かれ過ぎていた俺にも落ち度があったかもしれない。けど、俺のじいちゃんが死んでよかっただなんて……そんなこと言われる筋合いねえんだよこの…………クソ騎士がっ!!!」

 何度だって言ってやるさ。

 たとえ身分の高い騎士だったとしても言っていいことと悪いことがある。
 俺のことを色々と言われるのはなんとか耐えてきたが、じいちゃんが死んでくれて良かっただなんて言われて頭に一気に血が上った。
 

 じいちゃんの悪口だけは絶対に許せない!
 

「お前……いい度胸じゃねえか。こっちは真摯に対応してやろうとしてんのによぉ」

 真摯な対応には程遠いお粗末な扱いしかされてなかったけど?
 ふざけんのも大概にしろよな。

「何が真摯にだよ。俺を東の民だと差別してろくに話も聞いてなかったくせに。無能かよ。お前こそ騎士辞めた方がいいんじゃねえのかよ!」

「無能……だと……!東の民のくせに生意気言いやがって! 暴言に恐喝……お前は騎士への公務執行妨害の罪で牢屋行きにしてやるからな!」

「望むところだこのヤロー!」

 白髪の騎士に胸ぐらをぐいっと掴まれた。その掴まれている腕を俺も掴みかかる。

 どっちも譲らない! という強い意志で互いを睨みつけ合っていた。
 
 そんな俺たちの後ろから突然声がかかった。

「おいお前たち! 何をしているんだ?」

 今にも殴り合いをし出しそうな雰囲気の俺たちに割って入ってきたのは、これまた騎士様だった。

 (ちくしょう、援護かよ)

 このクソ騎士のお仲間が来てしまったと思った俺は、自分の置かれた状況がさらに悪化すると思って舌打ちをしたくなった。

 (これまたデカくて強そうな騎士様だ)

 掴みかかられている目の前の騎士に意識を向けながらも、新しく来た騎士様を横目で見た。

 長い薄茶の髪をなびかせながら颯爽と現れた大男。その体躯は鍛え上げられており、きっちりと着こなした騎士服では隠しきれないほどの筋肉の盛り上がりを見せていた。
 穏やかそうな雰囲気を持ちながらも、こちらを目を細めながら見つめてくる表情がなんとも怪しさ満点だ。

 (なんか、腹黒そう……)

 穏やかに微笑みながらも、腹の中は真っ黒な感情を抱えてそうだ、と一瞬見ただけでそんな印象をこの新しく現れた騎士様に持った。
 
「スウィッツァラルド団長!」

 驚いた様子で白髪の騎士がそう叫んだ。

 (へー、この人団長なんだ。そんでもってめっちゃ舌噛みそうな名前……)

 現れた騎士団長に焦ったような表情を目の前の騎士は浮かべ、俺の胸ぐらを掴む手が緩んだ。
 俺も警戒を少しだけ緩めて意識を大きな長髪の騎士団長様へと移した。
 
「私は何をしている、と聞いたんだけど?」

「い、いや……これは……こいつが!」

 しどろもどろになりながら、騎士は答えようとするが、突然のことで言葉が出てこないようだった。

 騎士は、ハッと気づいて、掴んでいた俺の胸ぐらを離した。俺は胸ぐらが解放されて呼吸が楽になる。
 
「それで……リオ……いや、リィゥオル・パルドゥスト。見たところ相手は一般市民のようだが、一体何をしていたんだい?」

 細められた目がこれでもかというほどまた細められた。口元がほんのりと笑っているのになぜか怖い。
 俺が責められてるわけじゃないのに、ゾクゾクと体に悪寒が走る。

 (そしてまた舌を絶対に噛みそうな名前)

「こ、これは……その……っ」

「答えられないと?」

「こ、こいつが……いきなり掴みかかってきてっ」

 いやいや、何言ってんだよ。掴みかかってきたのはお前じゃん。
 明らかな嘘をつくこいつに俺は呆れ返った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...