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意地悪な客
それは高校の同級生
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店に務めてから一年。僕はこれまでにいろいろなお客さんにお付き合いさせて頂いた。
お客さんの描く妄想はまさに千差万別で、それらを身をもって叩き込まれた僕にはシナリオライターの才能が芽生えたのではないかと自負する程だった。
そんな僕の前に、これまでとは違う客が現れた。
「店長! 次はどれを着ればいいですか?」
店の営業スタイルではまず、店長が客の趣向を聞き出し、それに見合った衣装を選ぶ。そして着替えた僕が奥の部屋で彼の願望を叶える。だから僕はまず、山ほど用意された衣装の中から髪型、下着も含めて店長の指示にあったものを身につけなければならない。
「それがね」
店長は少し困った顔をしていた。もしかすると物凄くマニアックな趣味の持ち主で、この店と言えどもそのジャンルの小道具を用意しきれていないのかもしれない。だが、多少は衣装の組み合わせを変えれば何とでもなる。
「どういうのが好みで?」
「それが、選べないのよ」
「どういうことですか?」
「一番出したいと思うものを出してくれって依頼でさ」
何と自分の拵えた妄想を店に演じさせるのではなく、店自らが客をもてなすサービスを主体的に提供しろという逆の発想というわけだ。
「つまり、衣装とシチュエーションをこちらで考えろと」
「どうする? 何かいい考えはあるかしら」
「ちなみにそれ、どこのお客さんのリクエストですか?」
店長は一番奥の席で一人静かに座る客を顎でしゃくった。明るい色調のスーツを着た、二十代前半の好青年だ。僕が驚いたのは、この店に来る珍しい客層だったからという理由だけではない。
「あれって・・・・・・」
それは高校時代の同級生、手島一也に他ならなかった。
成績優秀だった彼は有名国立大に進学し、その後の消息は聞いていないが、僕と違って立派な就職を遂げたのは想像に難くない。高校時代から女子にも相当人気のあった彼とここで再会するなど、全くもって想像していなかった。
「どうしたの?」
「あ、いえ・・・・・・それで、衣装の件ですけど」
僕はこれまでの経験を基に、自分なりの発想で勝負に出た。
お客さんの描く妄想はまさに千差万別で、それらを身をもって叩き込まれた僕にはシナリオライターの才能が芽生えたのではないかと自負する程だった。
そんな僕の前に、これまでとは違う客が現れた。
「店長! 次はどれを着ればいいですか?」
店の営業スタイルではまず、店長が客の趣向を聞き出し、それに見合った衣装を選ぶ。そして着替えた僕が奥の部屋で彼の願望を叶える。だから僕はまず、山ほど用意された衣装の中から髪型、下着も含めて店長の指示にあったものを身につけなければならない。
「それがね」
店長は少し困った顔をしていた。もしかすると物凄くマニアックな趣味の持ち主で、この店と言えどもそのジャンルの小道具を用意しきれていないのかもしれない。だが、多少は衣装の組み合わせを変えれば何とでもなる。
「どういうのが好みで?」
「それが、選べないのよ」
「どういうことですか?」
「一番出したいと思うものを出してくれって依頼でさ」
何と自分の拵えた妄想を店に演じさせるのではなく、店自らが客をもてなすサービスを主体的に提供しろという逆の発想というわけだ。
「つまり、衣装とシチュエーションをこちらで考えろと」
「どうする? 何かいい考えはあるかしら」
「ちなみにそれ、どこのお客さんのリクエストですか?」
店長は一番奥の席で一人静かに座る客を顎でしゃくった。明るい色調のスーツを着た、二十代前半の好青年だ。僕が驚いたのは、この店に来る珍しい客層だったからという理由だけではない。
「あれって・・・・・・」
それは高校時代の同級生、手島一也に他ならなかった。
成績優秀だった彼は有名国立大に進学し、その後の消息は聞いていないが、僕と違って立派な就職を遂げたのは想像に難くない。高校時代から女子にも相当人気のあった彼とここで再会するなど、全くもって想像していなかった。
「どうしたの?」
「あ、いえ・・・・・・それで、衣装の件ですけど」
僕はこれまでの経験を基に、自分なりの発想で勝負に出た。
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