そのままの君が

フルーツパフェ

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序章: だって僕は

美男募集中

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 机に置かれた空白だらけの履歴書を見た面接官は溜息をついた。
「前の会社、どうして二ヶ月で辞めたの?」
「その・・・・・・雰囲気が合わなくて」
「え? 何だって? 声が小さくて聞こえないよ」
「いえ、雰囲気があまり、向いていなかったというか」
「どういう会社だったの?」
「その、結構荒っぽい性格の人とかが多くて」
「そうだろうね。君あんまり、そういうタイプじゃなさそうだもんね」
「はい」
「だとすると、うちの会社でも難しいだろうな」
「え・・・・・・そうですか」
「何というか君、もっと堂々とした方がいいよ。ただでさえ小柄で痩せていて、それで結構大人しそうな性格だから」
「いえ、これは昔からで」
 そう、もう既に二十歳を迎えてなお、未だに中学生に見間違えられる僕が今更男らしく生まれ変わることなどもう不可能だ。
「それじゃ、面接の結果は一両日中に伝えるから。来週になっても連絡が来なかったら今回は縁がなかったと思って」
「・・・・・・わかりました」
 既に結果をもったいぶることなどないだろうに。僕は俯きながら帰宅した。
 ここは都心に近いとあるベッドタウンの玄関口となる繁華街。駅には五本もの路線が入り乱れ、通勤ラッシュ時は特に人通りが多い。
 傲岸に歩く一流サラリーマン達を避けながら、僕は目的のプラットホームにたどり着き、閉まりかけていた電車の自動ドアの合間をすり抜ける。
 ドア窓の向こうで流される気色には目もくれず、僕は駅前に置かれていた求人誌をめくっていた。
「大卒以上、貿易事務経験者、電気工事資格保持者・・・・・・」
 条件のよさそうな仕事には必ずと言っていいほど縁のない条件を付けてくる。
 その中でかろうじて僕は次の応募先を絞り込み、リュックサックに求人誌を押し込む。
「何だろう?」
 漆黒の繁華街にふと、「美男募集中」と書かれた看板を僕は見つけた。
 ホストクラブだろうか。それにしては店の周囲には男性客の姿が目立つ。
 店そのものはテナントビルの一フロアを借りており、ブラインダーとスモークガラスのせいで中の様子は見通せない。
 多分、危ない夜の店だろう。何せここは退勤時のサラリーマン達のために開かれた居酒屋だけでなく、それで飽き足らない客達を満足させるための風俗店もあるくらいだ。
 当然、二十歳を少し超えただけの僕にはもっと多くの働き口が用意されているはずで、その世界に足を踏み入れるつもりはなかった。
 だからその時はまだ、その店で本気で働こうなどと僕はまだ考えていなかった。
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