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迷走の弾丸

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茅の答えなど、聞くまでもなかった。
「あなた達の言葉には従えません。やるなら堂々と、己の腕で戦えばいいでしょ?」
「・・・・・・決まりだな」
 手裏剣遣いが掌で遊ばせている十字手裏剣をいよいよ投擲しようとした時、茅の前を白刃の光が走った。
「なぬっ!!」
 坊主の握る槍が柄で真っ二つに折られ、その刃の余波は彼の巨躯にまで及んでいた。
 たった一撃で、槍遣いは見事に葬られた。
「やはりなぁ。集めた人選がまずかったか」
 六兵衛の落胆する声がした。
「な、旦那!! どうしてここに?」
「お前達こそ、狙う相手を間違えていないか?」
「これは、その、腕試しで・・・・・・助っ!!」
 手裏剣遣いが腰砕けになった瞬間を、六兵衛は逃さなかった。
 銃弾のごとく飛び出した速さで距離を詰め、逃げ出そうとする手裏剣遣いの背中から太刀を浴びせた。
「どうやら、こういうやり方が間違っていたらしい」
「あの、助けてくれてありがとうございました。すいません。私のせいで三人も」
「いや、そもそも刺客に頼ろうとするのが間違っていたのかもしれない。明日、殿には考えを改めてもらうとしよう。だからお前も帰って、今日の話は忘れろ」
「それではあなた方が・・・・・・」
「俺はこれでも武士さ。勝ち目がないから逃げる、というわけにはいかない。それに、娘一人だけに御家の将来を託すわけにもいかぬ」
 六兵衛は刀を鞘に納めた。
「もう、侍を狙い続けるのは止めろ。妹を悲しませるな」
「・・・・・・だから侍は嫌いなんです。みんな自分勝手で、でもあなただけは、他の侍と違うのですね」
 六兵衛と別れた茅は家に戻る。妹の出迎えを受けた彼女は、金輪際銃を使うことはなかったと云われている。

(了)
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2021.09.09 ユーザー名の登録がありません

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