通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ

文字の大きさ
上 下
32 / 33
終章: 便利屋始めました

次の商売

しおりを挟む
 領主の館が見えなくなった路上、ヤルスがいよいよ堪えきれなくって噴き出した。
「ハハハハハハハ!! 見たかよ、あの役人の面! 俺達には身代金の金貨なんて逆立ちしたって調達できないと思い込んでいたらしい!」
「これで、民が戦争に行かずに済みましたね」
「本当に、君のお陰だよ。俺はあの村にさしてゆかりがあるわけでもないが、ぜひとも礼を言わせてほしい」
「私は――エリーチェさんの魔力とヤルスさんの情報力がなければ、今回の一件は解決しませんでした」
「それにしてもエリーチェの態度は意外だったなぁ」
 セシルが魔晶石の巨額な売却資金を使って他の農民達を救おうと提案した時、エリーチェはただ短い旅の期間に相当する報酬だけを受け取って風のように去っていった。最後に見た彼女は不思議なほど満足そうな表情だったと記憶している。
「きっと、お金よりも大事な何かを得られたのかもしれません。エリーチェさんも協力してくれたのですから、私達も欲張ってはいけませんよね?」
「う・・・・・・」
 ヤルスだけが大金を手放すことを惜しんでいた。
「でもさ、もう少し手元に残しておいても罰は当たらないと思ったんだがなぁ」
「駄目です」
 そういうわけでセシル達も当面の生活資金しか持ち合わせていない。
「だけどさ、もう魔晶石の儲け話はなくなったわけだし、これからどうすればいいんだ?」
「安心してください。私は何でもやりますよ」
「おう、それなんだが」
 ヤルスが急に立ち止まった。
「君、俺と便利屋を開業する気はないか?」
「便利屋、ですか?」
「ああ、要するにその、何でもやる仕事だ。君ほどの知識と経験があれば、色々役立てようもあるだろう。ただ君は、商売のやり方はあまり得意じゃないみたいだから、俺に補佐を務めさせてほしい。悪い話じゃないだろ?」
「いいですよ。どのみち私にも、これから行く所があるわけでもありませんので」
「よし、決まりだ! よろしくな!」
 世間から偽聖女と貶められ、全てを奪われたセシルに初めて何かが得られた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

聖女召喚に巻き込まれた私はスキル【手】と【種】を使ってスローライフを満喫しています

白雪の雫
ファンタジー
某アニメの長編映画を見て思い付きで書いたので設定はガバガバ、矛盾がある、ご都合主義、深く考えたら負け、主人公による語りである事だけは先に言っておきます。 エステで働いている有栖川 早紀は何の前触れもなく擦れ違った女子高生と共に異世界に召喚された。 早紀に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された早紀は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...