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3章: 新しい聖女
志願者皆無
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「ただし、一人につき金貨二十枚の軍資金提供により、兵役を免除出来るものとする、とも書いてあったはずだぜ?」
隣にいた若い男が自ら広めた勅命の後半部分を口にした。その様子からして、彼も素直に兵役に従事しに来たわけではないのだろう。
「そ、それはそうだが・・・・・・お前らのようなみすぼらしい連中にそれだけの大金が払えるわけがなかろう。しかもそれを領内の貧民共が一斉に払うとは、あり得ぬ」
金貨二十枚とは、すなわちバークレイの一年分の稼ぎに相当する額だ。下等な農民にそれだけの稼ぎがあるはずがないと考えるのも無理はない。
「そう思うなら館の正門に行ってみることだな。金貨をどっさり積んだ馬車が続々とこちらに到着している頃だろう」
「何だと!?」
バークレイは驚きのあまり声を裏返した。程なくして彼の従者が、それが真実だったことを伝えた。もちろんそれは、セシル達が命懸けで手に入れた大量の魔晶石の売却資金である。各々必要な分だけ手元に残し、彼らは大半を自身の村に限らず領内全ての兵役対象者に無償で提供したのだ。
「というわけで、私達は此度の戦で軍資金だけを供出することに決めました。だから誰も、危険な戦地には赴きません」
「そんな、そんなことが・・・・・・」
「軍資金があれば傭兵を雇える。そういう話だったよな?」
確かにバークレイ自身がまさにその口実を使って拝金主義的な匂いのする勅命を正当化していた。ところが口実はあくまで口実であり、もし仮に軍資金ばかりが集まったとしたらそれを有効に利用する手段を、彼は何一つ考えていなかったのである。金持ちだけを上手く逃がす穴によって、まさか農民までもがごっそり流出してしまうとは。
「そういうわけで、俺達はこれで失礼させてもらうぜ」
擱座したバークレイを尻目に、二人の男女は館を去った。彼の手元に残されたのはうんざりするほどの金貨の山だけ。軍資金が必要なのは言うまでもないことだが、かといって金貨だけで敵とは戦えない。
「ま、待ってくれ!」
バークレイの呼び止めに二人の男女は振り返った。だが彼にはそこから先何を言えばいいのかを全く考えていなかった。沈黙しているうちに、彼らは用がないと判断したようで再び歩き始めた。
「バークレイ様! 運び込まれた金貨はいかがいたしましょう? バークレイ様?」
「バークレイ様! 領主様が今回の募兵の件で説明せよと至急お呼びでございます」
バークレイにはもう、集まった軍資金を金庫に納めるだけのマンパワーさえ残っていなかった。
隣にいた若い男が自ら広めた勅命の後半部分を口にした。その様子からして、彼も素直に兵役に従事しに来たわけではないのだろう。
「そ、それはそうだが・・・・・・お前らのようなみすぼらしい連中にそれだけの大金が払えるわけがなかろう。しかもそれを領内の貧民共が一斉に払うとは、あり得ぬ」
金貨二十枚とは、すなわちバークレイの一年分の稼ぎに相当する額だ。下等な農民にそれだけの稼ぎがあるはずがないと考えるのも無理はない。
「そう思うなら館の正門に行ってみることだな。金貨をどっさり積んだ馬車が続々とこちらに到着している頃だろう」
「何だと!?」
バークレイは驚きのあまり声を裏返した。程なくして彼の従者が、それが真実だったことを伝えた。もちろんそれは、セシル達が命懸けで手に入れた大量の魔晶石の売却資金である。各々必要な分だけ手元に残し、彼らは大半を自身の村に限らず領内全ての兵役対象者に無償で提供したのだ。
「というわけで、私達は此度の戦で軍資金だけを供出することに決めました。だから誰も、危険な戦地には赴きません」
「そんな、そんなことが・・・・・・」
「軍資金があれば傭兵を雇える。そういう話だったよな?」
確かにバークレイ自身がまさにその口実を使って拝金主義的な匂いのする勅命を正当化していた。ところが口実はあくまで口実であり、もし仮に軍資金ばかりが集まったとしたらそれを有効に利用する手段を、彼は何一つ考えていなかったのである。金持ちだけを上手く逃がす穴によって、まさか農民までもがごっそり流出してしまうとは。
「そういうわけで、俺達はこれで失礼させてもらうぜ」
擱座したバークレイを尻目に、二人の男女は館を去った。彼の手元に残されたのはうんざりするほどの金貨の山だけ。軍資金が必要なのは言うまでもないことだが、かといって金貨だけで敵とは戦えない。
「ま、待ってくれ!」
バークレイの呼び止めに二人の男女は振り返った。だが彼にはそこから先何を言えばいいのかを全く考えていなかった。沈黙しているうちに、彼らは用がないと判断したようで再び歩き始めた。
「バークレイ様! 運び込まれた金貨はいかがいたしましょう? バークレイ様?」
「バークレイ様! 領主様が今回の募兵の件で説明せよと至急お呼びでございます」
バークレイにはもう、集まった軍資金を金庫に納めるだけのマンパワーさえ残っていなかった。
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