通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ

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3章: 新しい聖女

宝探しの果てに

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 洞窟の方からエリーチェが歩いてくる。二人の無事を確かめると、彼女もほっと胸を撫で下ろした。
「やりましたよ、エリーチェさん! 私達、ドラゴンを倒したんです!」
「本当に、私が?」
 横たわるドラゴンの死骸を前にしてもまだ信じられないという顔つきで、エリーチェは魔法を放った自分の手を見つめた。
「何はともあれ、命だけは助かってよかった。魔晶石は結局、見つからなかったけどな」
 目の前の危難が過ぎ去ったことで、三人はようやく当初の目的を思い出した。
「いえ、そうでもないみたいですよ」
 セシルがある一点を見据えながら言った。それは丁度洞窟とドラゴンを結ぶ延長線だった。
「え? もう俺はとりあえず村に帰りたい気分だが・・・・・・」
 同じ方向を見つめた途端、ヤルスもそれまでの厭戦気分が一転した。
「あれは・・・・・・何だ?」
 彼らの先には巨大な断崖が聳えていた。そこにエリーチェの魔法が直撃したことで一郭に穴が開いている。その穴に、怪しく光る緑色の光が見えた。近づいてみると、それは石の輝きだった。それも単に石が光を照り返しているのではなく、明らかに石自体が発光していた。
「これは、魔晶石?」
 エリーチェが武者震いしながら足元に落ちていた石の一欠けらを手に取った。彼女の言葉が真実ならば、持っている欠片だけで金貨何百枚という相当の価値がある。
「嘘だろ? これ、全部かよ?」
 ヤルスが見据える先には、穴の中の魔晶石が壁や天井一面に張り付いて結晶の様に成長していた。一握りの魔晶石さえ貴重だというのに、それが三人でも持ち出せないほどの量で見つかった。俄かには信じがたい話だが、それが放つ魔力をセシルもエリーチェも感じ取っていた。
「やったぜ! こんなことなら荷車でも持ってくればよかったぜ!」
「待って!」
 飛び上がるヤルスの横で、エリーチェは用心深く構えた。
「何だよ? 俺達は今お宝を前にしているんだぜ」
「おかしいとは思わない? これだけの魔晶石があるっていうのに、どうして辺りに魔物がいないの?」
「魔物なら散々出会ってきたじゃないか。あの巨大な虫に、ドラゴンにまで」
「でも、これだけの魔晶石があれば、もっと多くの魔物を誘引してもおかしくないはずよ」
「あの、多分私の仮説ですけど」
 セシルがドラゴンの死骸を指しながら言った。
「あのドラゴンが、他の魔物を駆逐してこの縄張りを独占していたのではないでしょうか?」
 その考えにエリーチェもはっとしたようだ。
「そうか・・・・・・現にあれは私達の前でも共食いを」
「それで頭目だったドラゴンは俺達が倒した。ってことは・・・・・・」
「ここの魔晶石はもう私達の独占状態ってこと?」
 今度はエリーチェも一緒になって沸いた。
「さて、これで俺達は山分けしても三人で一生遊べるだけの財産を儲けたわけだ」
「その話ですが、いいですか?」
「どうした?」
「実はその、魔晶石の使い道のことでお二人に提案があるのですけど」
 セシルは自信の考えを二人に明かした。
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