通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ

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3章: 新しい聖女

聖女の魔法

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 セシルを背負ったヤルスが外へ飛び出した。何かをするまでもなく、ドラゴンは突然現れた二人に反応した。セシルを背負ったヤルスがドラゴンの真正面を素通りして洞窟から反対方向へ疾走する中、折りたたんでいた足を前後させて二人を追いかけ始める。
「で、どうやって凌ぐんだ?」
「とにかくできるだけ遠くまで逃げて下さい!」
「その様子だと、考えてないわけだな!」
 元々期待していなかったのか、ヤルスはそれほど驚く様子はなかった。それよりも気掛かりだったのはドラゴンだ。急に追撃を止めたかと思えば、何かを喉に詰まらせたように首を上下にもたげている。長いその顎から徐々に炎が揺らめくのが見えた。
「おい! アイツ、俺達を焼き殺すつもりだぞ!」
「止まってください! ヤルスさん」
「どうするんだよ!」
 ヤルスが言われた通りに立ち止まると、セシルは背中で詠唱を始めた。ドラゴンが大声を発するように身を震わせたと同時に、真っ直ぐに伸びる炎が二人を襲った。
「おわあぁ!!」
 ヤルスが叫んだと同時に、セシルの詠唱が完了し、二人の前に光でできた六角形の図形のようなオブジェが出現する。炎の前に立ち塞がったそのオブジェにより、紅蓮の炎はしぶきを上げながらも確実に防がれていた。
「すげえ!!」
 鉄をも簡単に溶かし飛ばしてしまうと恐れられるドラゴンの炎に臨みながら、ヤルスはその身に少しも熱さを感じていない。聖女の魔力を源とする強力な魔法障壁によって炎は完全に遮断されているのだ。
「このまま引き付ければ」
 炎を噴き続けるという大技はドラゴンにとっても相当の労力を要するらしい。目の前の魔法障壁を崩そうと試みるドラゴンは、完全にエリーチェの存在を見過ごしている。力比べの様にがむしゃらに炎をぶつけてくるドラゴンと、それを必死で受け止めるセシルの攻防はしばらく続いた。
「まだ攻撃魔法は出ないのかよ! まさかアイツ、俺達が囮になったのをいいことに自分だけ逃げだしたんじゃないか?」
 かつて村で出会った時、日和見主義で上手く立ち回っていたエリーチェの振舞いを、ヤルスは思い出したようだった。
「大丈夫です。向こうから湧き上がる魔力を感じます。エリーチェさんは必ず助けてくれます」
 ただ、そう信じ続けるセシルの表情にも余裕は残っていない。よく見ると、二人の正面で炎を受け続ける魔法障壁が一回り小さくなったように思える。
 ヤルスが身に迫る炎をたじたじと見つめていたある時、背後から一筋の光が閃いた。それは魔法障壁とは対照的にまっすぐで歪みのない一筋の直線。あたかも剣のような光の帯が洞窟の方角からドラゴンの背中を照らした。青白く眩い光に、ドラゴンは噴き出す炎を止めて首だけを後ろに向ける。その瞬間にもう一段強烈な光の筋が同じ軌跡をたどって今度は照らしていたドラゴンの背中を貫いたのだった。
 背骨を断ち切られ、胸甲を穿かれたドラゴンは悲痛な咆哮を上げた。光が収束し、再び外が夜闇に戻ったが、ドラゴンの身体にはそこだけがくり抜かれたような丸穴が開いている。無論、それだけの手傷を負えばドラゴンにとっても致命傷であることは間違いない。鍵爪で地面をえぐり、口から炎ではなく鮮血を滾らせて、悶えていたドラゴンは遂に倒れた。
「・・・・・・やったのか?」
 ヤルスがセシルを背負ったままその場に座り込む。
「はい、やりました」
 セシルはいつも通りのすまし顔で応えた。
「助かった、助かったぞ!!」
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