通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ

文字の大きさ
上 下
28 / 33
3章: 新しい聖女

聖女の魔法

しおりを挟む
 セシルを背負ったヤルスが外へ飛び出した。何かをするまでもなく、ドラゴンは突然現れた二人に反応した。セシルを背負ったヤルスがドラゴンの真正面を素通りして洞窟から反対方向へ疾走する中、折りたたんでいた足を前後させて二人を追いかけ始める。
「で、どうやって凌ぐんだ?」
「とにかくできるだけ遠くまで逃げて下さい!」
「その様子だと、考えてないわけだな!」
 元々期待していなかったのか、ヤルスはそれほど驚く様子はなかった。それよりも気掛かりだったのはドラゴンだ。急に追撃を止めたかと思えば、何かを喉に詰まらせたように首を上下にもたげている。長いその顎から徐々に炎が揺らめくのが見えた。
「おい! アイツ、俺達を焼き殺すつもりだぞ!」
「止まってください! ヤルスさん」
「どうするんだよ!」
 ヤルスが言われた通りに立ち止まると、セシルは背中で詠唱を始めた。ドラゴンが大声を発するように身を震わせたと同時に、真っ直ぐに伸びる炎が二人を襲った。
「おわあぁ!!」
 ヤルスが叫んだと同時に、セシルの詠唱が完了し、二人の前に光でできた六角形の図形のようなオブジェが出現する。炎の前に立ち塞がったそのオブジェにより、紅蓮の炎はしぶきを上げながらも確実に防がれていた。
「すげえ!!」
 鉄をも簡単に溶かし飛ばしてしまうと恐れられるドラゴンの炎に臨みながら、ヤルスはその身に少しも熱さを感じていない。聖女の魔力を源とする強力な魔法障壁によって炎は完全に遮断されているのだ。
「このまま引き付ければ」
 炎を噴き続けるという大技はドラゴンにとっても相当の労力を要するらしい。目の前の魔法障壁を崩そうと試みるドラゴンは、完全にエリーチェの存在を見過ごしている。力比べの様にがむしゃらに炎をぶつけてくるドラゴンと、それを必死で受け止めるセシルの攻防はしばらく続いた。
「まだ攻撃魔法は出ないのかよ! まさかアイツ、俺達が囮になったのをいいことに自分だけ逃げだしたんじゃないか?」
 かつて村で出会った時、日和見主義で上手く立ち回っていたエリーチェの振舞いを、ヤルスは思い出したようだった。
「大丈夫です。向こうから湧き上がる魔力を感じます。エリーチェさんは必ず助けてくれます」
 ただ、そう信じ続けるセシルの表情にも余裕は残っていない。よく見ると、二人の正面で炎を受け続ける魔法障壁が一回り小さくなったように思える。
 ヤルスが身に迫る炎をたじたじと見つめていたある時、背後から一筋の光が閃いた。それは魔法障壁とは対照的にまっすぐで歪みのない一筋の直線。あたかも剣のような光の帯が洞窟の方角からドラゴンの背中を照らした。青白く眩い光に、ドラゴンは噴き出す炎を止めて首だけを後ろに向ける。その瞬間にもう一段強烈な光の筋が同じ軌跡をたどって今度は照らしていたドラゴンの背中を貫いたのだった。
 背骨を断ち切られ、胸甲を穿かれたドラゴンは悲痛な咆哮を上げた。光が収束し、再び外が夜闇に戻ったが、ドラゴンの身体にはそこだけがくり抜かれたような丸穴が開いている。無論、それだけの手傷を負えばドラゴンにとっても致命傷であることは間違いない。鍵爪で地面をえぐり、口から炎ではなく鮮血を滾らせて、悶えていたドラゴンは遂に倒れた。
「・・・・・・やったのか?」
 ヤルスがセシルを背負ったままその場に座り込む。
「はい、やりました」
 セシルはいつも通りのすまし顔で応えた。
「助かった、助かったぞ!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。 「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」 理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。 どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。 何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。 両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。 しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。 「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...