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3章: 新しい聖女

勅命

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 偶然流れ着いた村とはいえ、穏健で屈託のない村の雰囲気はセシルの肌になじみがよかった。ところが数日ぶりに戻って来た村では何やら、大勢の人々のざわつく声が響いていた。
「何だ? やけに村の様子が騒がしいようだが?」
 ヤルスもまた、村に入るなり得体の知れない違和感を覚えていた。
「あそこに皆、集まっていませんか? 行ってみましょう」
 セシルは遠目に見える人だかりを見つけて近づいた。そこは村の中央に作られた広場で、子供の遊び場所や農具の整備、村人達の交流に使われる一種の多目的施設である。
「真ん中に何かあるようですが」
 村人達の頭の上に大きな木板が立て掛けられていて、そこに何やら文字が書かれている。村を出発した時、そんなものを見た覚えはない。最近作られたもののようだ。
「あの、これは何ですか?」
 人だかりの最後尾にいた村人にセシルが尋ねた。
「王都からの勅令だよ。それも全領内に向けての通達って役人様が作って置いてきなすった」
「へぇ、それはまた異例だな。全領民に向けての勅命なんて、聖女様が交代するくらいじゃないか?」
「いやそれが、実際そうだよ」
「は!? 本当に聖女様が交代したのかよ! だって今の聖女様はまだ十何歳だっただろ? 今が天空暦の十三年だから」
 この国の暦は聖女の交代によって新しい元号に変わる仕組みになっている。言い換えれば、暦の年号がそのまま聖女の年齢と等しくなる。
「えっと、ちなみにどうして交代を?」
 セシルが一番事情を知りながらも、敢えて知らないふりをする。
「それが驚いたことに、今までの聖女は偽物だったんだと」
「偽物!?」
「ああ、道理で国内が荒れて治安もよくならないわけだ。この村も畑泥棒に遭う始末だしな」
――だからそれは、私のせいじゃないと言っているのに。少なくとも、畑泥棒の問題は自分で解決したし
「それで、どうなったんだよ!」
「今度から新しい聖女様、アリエッタ=エレスティーノ様が後任となりあそばされたってよ。もとは穀物相のクラウディス卿の三女だってさ。前の聖女は確か農村から選出されたんだよな。やっぱり育ちが違うのかな?」
「いや、育ちとかそういうのは関係ないだろ」
 いつも剽軽なヤルスがなぜかそれだけは真顔で否定した。
「どっちにしても、今度の新しい聖女様は早速国王に助言をなされた。問題はそれだが・・・・・・」
 村人の口調が沈む。セシルを除いて国にとっては祝い事のはずなのに、どうしてみんな浮かない表情をするのだろう。
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