19 / 33
3章: 新しい聖女
勅命
しおりを挟む
偶然流れ着いた村とはいえ、穏健で屈託のない村の雰囲気はセシルの肌になじみがよかった。ところが数日ぶりに戻って来た村では何やら、大勢の人々のざわつく声が響いていた。
「何だ? やけに村の様子が騒がしいようだが?」
ヤルスもまた、村に入るなり得体の知れない違和感を覚えていた。
「あそこに皆、集まっていませんか? 行ってみましょう」
セシルは遠目に見える人だかりを見つけて近づいた。そこは村の中央に作られた広場で、子供の遊び場所や農具の整備、村人達の交流に使われる一種の多目的施設である。
「真ん中に何かあるようですが」
村人達の頭の上に大きな木板が立て掛けられていて、そこに何やら文字が書かれている。村を出発した時、そんなものを見た覚えはない。最近作られたもののようだ。
「あの、これは何ですか?」
人だかりの最後尾にいた村人にセシルが尋ねた。
「王都からの勅令だよ。それも全領内に向けての通達って役人様が作って置いてきなすった」
「へぇ、それはまた異例だな。全領民に向けての勅命なんて、聖女様が交代するくらいじゃないか?」
「いやそれが、実際そうだよ」
「は!? 本当に聖女様が交代したのかよ! だって今の聖女様はまだ十何歳だっただろ? 今が天空暦の十三年だから」
この国の暦は聖女の交代によって新しい元号に変わる仕組みになっている。言い換えれば、暦の年号がそのまま聖女の年齢と等しくなる。
「えっと、ちなみにどうして交代を?」
セシルが一番事情を知りながらも、敢えて知らないふりをする。
「それが驚いたことに、今までの聖女は偽物だったんだと」
「偽物!?」
「ああ、道理で国内が荒れて治安もよくならないわけだ。この村も畑泥棒に遭う始末だしな」
――だからそれは、私のせいじゃないと言っているのに。少なくとも、畑泥棒の問題は自分で解決したし
「それで、どうなったんだよ!」
「今度から新しい聖女様、アリエッタ=エレスティーノ様が後任となりあそばされたってよ。もとは穀物相のクラウディス卿の三女だってさ。前の聖女は確か農村から選出されたんだよな。やっぱり育ちが違うのかな?」
「いや、育ちとかそういうのは関係ないだろ」
いつも剽軽なヤルスがなぜかそれだけは真顔で否定した。
「どっちにしても、今度の新しい聖女様は早速国王に助言をなされた。問題はそれだが・・・・・・」
村人の口調が沈む。セシルを除いて国にとっては祝い事のはずなのに、どうしてみんな浮かない表情をするのだろう。
「何だ? やけに村の様子が騒がしいようだが?」
ヤルスもまた、村に入るなり得体の知れない違和感を覚えていた。
「あそこに皆、集まっていませんか? 行ってみましょう」
セシルは遠目に見える人だかりを見つけて近づいた。そこは村の中央に作られた広場で、子供の遊び場所や農具の整備、村人達の交流に使われる一種の多目的施設である。
「真ん中に何かあるようですが」
村人達の頭の上に大きな木板が立て掛けられていて、そこに何やら文字が書かれている。村を出発した時、そんなものを見た覚えはない。最近作られたもののようだ。
「あの、これは何ですか?」
人だかりの最後尾にいた村人にセシルが尋ねた。
「王都からの勅令だよ。それも全領内に向けての通達って役人様が作って置いてきなすった」
「へぇ、それはまた異例だな。全領民に向けての勅命なんて、聖女様が交代するくらいじゃないか?」
「いやそれが、実際そうだよ」
「は!? 本当に聖女様が交代したのかよ! だって今の聖女様はまだ十何歳だっただろ? 今が天空暦の十三年だから」
この国の暦は聖女の交代によって新しい元号に変わる仕組みになっている。言い換えれば、暦の年号がそのまま聖女の年齢と等しくなる。
「えっと、ちなみにどうして交代を?」
セシルが一番事情を知りながらも、敢えて知らないふりをする。
「それが驚いたことに、今までの聖女は偽物だったんだと」
「偽物!?」
「ああ、道理で国内が荒れて治安もよくならないわけだ。この村も畑泥棒に遭う始末だしな」
――だからそれは、私のせいじゃないと言っているのに。少なくとも、畑泥棒の問題は自分で解決したし
「それで、どうなったんだよ!」
「今度から新しい聖女様、アリエッタ=エレスティーノ様が後任となりあそばされたってよ。もとは穀物相のクラウディス卿の三女だってさ。前の聖女は確か農村から選出されたんだよな。やっぱり育ちが違うのかな?」
「いや、育ちとかそういうのは関係ないだろ」
いつも剽軽なヤルスがなぜかそれだけは真顔で否定した。
「どっちにしても、今度の新しい聖女様は早速国王に助言をなされた。問題はそれだが・・・・・・」
村人の口調が沈む。セシルを除いて国にとっては祝い事のはずなのに、どうしてみんな浮かない表情をするのだろう。
14
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり
竹井ゴールド
ファンタジー
森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、
「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」
と殺されそうになる。
だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり·······
【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
ギフト【ズッコケ】の軽剣士は「もうウンザリだ」と追放されるが、実はズッコケる度に幸運が舞い込むギフトだった。一方、敵意を向けた者達は秒で
竹井ゴールド
ファンタジー
軽剣士のギフトは【ズッコケ】だった。
その為、本当にズッコケる。
何もないところや魔物を発見して奇襲する時も。
遂には仲間達からも見放され・・・
【2023/1/19、出版申請、2/3、慰めメール】
【2023/1/28、24hポイント2万5900pt突破】
【2023/2/3、お気に入り数620突破】
【2023/2/10、出版申請(2回目)、3/9、慰めメール】
【2023/3/4、出版申請(3回目)】
【未完】
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる