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2章: 流れ着いた村にて
完成式
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灌漑工事が始まって六日後。村人を総動員して作り直した水路が遂に完成した。
「よし、堰を開くぞ」
誰もが緊張感をもって見守る中、工事のために一時堰き止められていた壁が木槌で取り壊される。この村に来た時より三倍も狭くなった取水口から勢いよく水が流れ込んできた。
「おお!!」
村人達が歓声を上げるほど、流れる水は新しい水路をたちまち満たしていくのだった。水路に行き渡った水は乾燥した畑にまんべんなく広がる。遂には工事の成否を決める最も川から遠い畑の隅に立っていた村人が手を大きく振った。そこまで十分な水が行き着いたという合図である。
「やったぞぉ!!」
十分に潤った畑の上で、村人達は躍った。最初から成功を疑わなかったセシルだけがすました顔で彼らを見守っていた。
「宴だ! 今日は宴を開くぞ!」
「喜んでもらえて何よりです。ではもう私は、上流の村に戻ってもよろしいですか?」
「ああ、これでこの村の畑は生き返る! ありがとよ! それと今まで疑って悪かった!」
「なあ、アンタも宴に来ないか! せめて感謝の意味を込めて」
「いえ・・・・・・私は別に」
「そんな堅いこと言うなって! アンタは村の恩人だからさ」
セシルは別の意味で強引に宴の席へと駆り出されることになった。村人達は昼夜を問わずはしゃぎ、こうしてまた一つ夜が明けた。
結局セシルは出立から数えて一週間村に逗留することになった。村の外で様子を窺っていたヤルスが心配していたのは言うまでもない。
「大丈夫だったのか?」
「ええ、これで下流の村は自活できるようになりました」
「いや、俺が心配したのは君の方だったんだが・・・・・・って、今何か言ったか?」
「ですから、灌漑設備を改良して村の畑は生き返りました。これで畑泥棒がこちらに差し向けられることはありません」
「何だって! お前そんな凄いこと、よく平然といえるな! それより村の灌漑を直すって、よく連中が許したものだな」
「ええ、失敗したら私を煮るなり焼くなり好きにする条件でと言ったら」
「え?」
ヤルスの反応がそこで硬直した。
「あの・・・・・・私何か変なことを言いましたか?」
「・・・・・・いや、別に。結構度胸あるんだなって思って」
「別に、私一人がどうこうなるというだけの話ですが」
「いや、だからって君・・・・・・まあ、いいか。エミリが心配しているし、もう帰ろうか」
「そうですね」
セシルは自らの提示した条件の真意を知らされぬまま、エミリの村へと戻った。彼女はただ、これでしばらくは穏やかに村に滞在できるものと安堵していた。だが世間事情を知らない聖女には、これがまだ新しい世界で生きるための序章に過ぎないことを知らなかった。
「よし、堰を開くぞ」
誰もが緊張感をもって見守る中、工事のために一時堰き止められていた壁が木槌で取り壊される。この村に来た時より三倍も狭くなった取水口から勢いよく水が流れ込んできた。
「おお!!」
村人達が歓声を上げるほど、流れる水は新しい水路をたちまち満たしていくのだった。水路に行き渡った水は乾燥した畑にまんべんなく広がる。遂には工事の成否を決める最も川から遠い畑の隅に立っていた村人が手を大きく振った。そこまで十分な水が行き着いたという合図である。
「やったぞぉ!!」
十分に潤った畑の上で、村人達は躍った。最初から成功を疑わなかったセシルだけがすました顔で彼らを見守っていた。
「宴だ! 今日は宴を開くぞ!」
「喜んでもらえて何よりです。ではもう私は、上流の村に戻ってもよろしいですか?」
「ああ、これでこの村の畑は生き返る! ありがとよ! それと今まで疑って悪かった!」
「なあ、アンタも宴に来ないか! せめて感謝の意味を込めて」
「いえ・・・・・・私は別に」
「そんな堅いこと言うなって! アンタは村の恩人だからさ」
セシルは別の意味で強引に宴の席へと駆り出されることになった。村人達は昼夜を問わずはしゃぎ、こうしてまた一つ夜が明けた。
結局セシルは出立から数えて一週間村に逗留することになった。村の外で様子を窺っていたヤルスが心配していたのは言うまでもない。
「大丈夫だったのか?」
「ええ、これで下流の村は自活できるようになりました」
「いや、俺が心配したのは君の方だったんだが・・・・・・って、今何か言ったか?」
「ですから、灌漑設備を改良して村の畑は生き返りました。これで畑泥棒がこちらに差し向けられることはありません」
「何だって! お前そんな凄いこと、よく平然といえるな! それより村の灌漑を直すって、よく連中が許したものだな」
「ええ、失敗したら私を煮るなり焼くなり好きにする条件でと言ったら」
「え?」
ヤルスの反応がそこで硬直した。
「あの・・・・・・私何か変なことを言いましたか?」
「・・・・・・いや、別に。結構度胸あるんだなって思って」
「別に、私一人がどうこうなるというだけの話ですが」
「いや、だからって君・・・・・・まあ、いいか。エミリが心配しているし、もう帰ろうか」
「そうですね」
セシルは自らの提示した条件の真意を知らされぬまま、エミリの村へと戻った。彼女はただ、これでしばらくは穏やかに村に滞在できるものと安堵していた。だが世間事情を知らない聖女には、これがまだ新しい世界で生きるための序章に過ぎないことを知らなかった。
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