18 / 33
2章: 流れ着いた村にて
完成式
しおりを挟む
灌漑工事が始まって六日後。村人を総動員して作り直した水路が遂に完成した。
「よし、堰を開くぞ」
誰もが緊張感をもって見守る中、工事のために一時堰き止められていた壁が木槌で取り壊される。この村に来た時より三倍も狭くなった取水口から勢いよく水が流れ込んできた。
「おお!!」
村人達が歓声を上げるほど、流れる水は新しい水路をたちまち満たしていくのだった。水路に行き渡った水は乾燥した畑にまんべんなく広がる。遂には工事の成否を決める最も川から遠い畑の隅に立っていた村人が手を大きく振った。そこまで十分な水が行き着いたという合図である。
「やったぞぉ!!」
十分に潤った畑の上で、村人達は躍った。最初から成功を疑わなかったセシルだけがすました顔で彼らを見守っていた。
「宴だ! 今日は宴を開くぞ!」
「喜んでもらえて何よりです。ではもう私は、上流の村に戻ってもよろしいですか?」
「ああ、これでこの村の畑は生き返る! ありがとよ! それと今まで疑って悪かった!」
「なあ、アンタも宴に来ないか! せめて感謝の意味を込めて」
「いえ・・・・・・私は別に」
「そんな堅いこと言うなって! アンタは村の恩人だからさ」
セシルは別の意味で強引に宴の席へと駆り出されることになった。村人達は昼夜を問わずはしゃぎ、こうしてまた一つ夜が明けた。
結局セシルは出立から数えて一週間村に逗留することになった。村の外で様子を窺っていたヤルスが心配していたのは言うまでもない。
「大丈夫だったのか?」
「ええ、これで下流の村は自活できるようになりました」
「いや、俺が心配したのは君の方だったんだが・・・・・・って、今何か言ったか?」
「ですから、灌漑設備を改良して村の畑は生き返りました。これで畑泥棒がこちらに差し向けられることはありません」
「何だって! お前そんな凄いこと、よく平然といえるな! それより村の灌漑を直すって、よく連中が許したものだな」
「ええ、失敗したら私を煮るなり焼くなり好きにする条件でと言ったら」
「え?」
ヤルスの反応がそこで硬直した。
「あの・・・・・・私何か変なことを言いましたか?」
「・・・・・・いや、別に。結構度胸あるんだなって思って」
「別に、私一人がどうこうなるというだけの話ですが」
「いや、だからって君・・・・・・まあ、いいか。エミリが心配しているし、もう帰ろうか」
「そうですね」
セシルは自らの提示した条件の真意を知らされぬまま、エミリの村へと戻った。彼女はただ、これでしばらくは穏やかに村に滞在できるものと安堵していた。だが世間事情を知らない聖女には、これがまだ新しい世界で生きるための序章に過ぎないことを知らなかった。
「よし、堰を開くぞ」
誰もが緊張感をもって見守る中、工事のために一時堰き止められていた壁が木槌で取り壊される。この村に来た時より三倍も狭くなった取水口から勢いよく水が流れ込んできた。
「おお!!」
村人達が歓声を上げるほど、流れる水は新しい水路をたちまち満たしていくのだった。水路に行き渡った水は乾燥した畑にまんべんなく広がる。遂には工事の成否を決める最も川から遠い畑の隅に立っていた村人が手を大きく振った。そこまで十分な水が行き着いたという合図である。
「やったぞぉ!!」
十分に潤った畑の上で、村人達は躍った。最初から成功を疑わなかったセシルだけがすました顔で彼らを見守っていた。
「宴だ! 今日は宴を開くぞ!」
「喜んでもらえて何よりです。ではもう私は、上流の村に戻ってもよろしいですか?」
「ああ、これでこの村の畑は生き返る! ありがとよ! それと今まで疑って悪かった!」
「なあ、アンタも宴に来ないか! せめて感謝の意味を込めて」
「いえ・・・・・・私は別に」
「そんな堅いこと言うなって! アンタは村の恩人だからさ」
セシルは別の意味で強引に宴の席へと駆り出されることになった。村人達は昼夜を問わずはしゃぎ、こうしてまた一つ夜が明けた。
結局セシルは出立から数えて一週間村に逗留することになった。村の外で様子を窺っていたヤルスが心配していたのは言うまでもない。
「大丈夫だったのか?」
「ええ、これで下流の村は自活できるようになりました」
「いや、俺が心配したのは君の方だったんだが・・・・・・って、今何か言ったか?」
「ですから、灌漑設備を改良して村の畑は生き返りました。これで畑泥棒がこちらに差し向けられることはありません」
「何だって! お前そんな凄いこと、よく平然といえるな! それより村の灌漑を直すって、よく連中が許したものだな」
「ええ、失敗したら私を煮るなり焼くなり好きにする条件でと言ったら」
「え?」
ヤルスの反応がそこで硬直した。
「あの・・・・・・私何か変なことを言いましたか?」
「・・・・・・いや、別に。結構度胸あるんだなって思って」
「別に、私一人がどうこうなるというだけの話ですが」
「いや、だからって君・・・・・・まあ、いいか。エミリが心配しているし、もう帰ろうか」
「そうですね」
セシルは自らの提示した条件の真意を知らされぬまま、エミリの村へと戻った。彼女はただ、これでしばらくは穏やかに村に滞在できるものと安堵していた。だが世間事情を知らない聖女には、これがまだ新しい世界で生きるための序章に過ぎないことを知らなかった。
13
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました
柚木ゆず
ファンタジー
――次の人生では恋をしたい!!――
前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。
100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。
だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。
――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。
婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。
((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり
竹井ゴールド
ファンタジー
森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、
「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」
と殺されそうになる。
だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり·······
【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました
佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。
ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。
それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。
義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。
指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。
どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。
異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。
かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。
(※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)
隣国は魔法世界
各務みづほ
ファンタジー
【魔法なんてあり得ないーー理系女子ライサ、魔法世界へ行く】
隣接する二つの国、科学技術の発達した国と、魔法使いの住む国。
この相反する二つの世界は、古来より敵対し、戦争を繰り返し、そして領土を分断した後に現在休戦していた。
科学世界メルレーン王国の少女ライサは、人々の間で禁断とされているこの境界の壁を越え、隣国の魔法世界オスフォード王国に足を踏み入れる。
それは再び始まる戦乱の幕開けであった。
⚫︎恋愛要素ありの王国ファンタジーです。科学vs魔法。三部構成で、第一部は冒険編から始まります。
⚫︎異世界ですが転生、転移ではありません。
⚫︎挿絵のあるお話に◆をつけています。
⚫︎外伝「隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー」もよろしくお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
きっと幸せな異世界生活
スノウ
ファンタジー
神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。
そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。
時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。
異世界レメイアの女神メティスアメルの導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?
毎日12時頃に投稿します。
─────────────────
いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる