上 下
16 / 33
2章: 流れ着いた村にて

下流の村へ

しおりを挟む
「だからって、このままでは争いの火種を残しかねません!」
「わかっている。いざとなったらやるさ」
「そんな・・・・・・」
「あ、えっと、皆さん、いいですかね?」
 魔導士の少女が呼びかけた。どうやら自分が忘れられているように感じていたらしい。
「何だよ? 便所か?」
「違う! 違う! もう畑泥棒はしないからさ、この縄を解いてくれない? もちろんもう、向こうの村には戻らないからさ」
 村人達は疑いの視線を向けたままだ。
「信用できるかよ」
「じゃあ、一ついいことを教えてあげるよ。アタシが戻らなかったら、あっちは総力を挙げてこの村を襲いにかかるよ。向こうはそこまで逼迫しているからね。アタシはそんな争いに巻き込まれるのは御免なんだ」
 女魔導士が嘘をついているようには見えなかった。
「あなた、そうやって仲間を売って・・・・・・」
「仕方ないだろ! そうやって昔から生きてきたんだよ!」
「・・・・・・そうですか」
「それで、どうする? 争いになったら村の柵を強化しないと」
「見張りの数も増やす必要があるな」
「武器になりそうなものはどれくらい残っている?」
 次第に村人達から物騒な言葉が囁かれるようになっていた。女魔導士の気持ちもわからないでもない。
 セシルは畑泥棒を閉じ込めた納屋を出て、そのまま村の出口へと向かった。
「おい、アンタどこへ行くんだよ!」
 不審に思ったヤルスが見とがめる。セシルは川下に沿って歩こうとしていた。
「いえ、このままでは村同士で争いが勃発するようなので、向こうの村に話を付けようかと」
「正気か?? アンタ!」
 ヤルスは両手を広げてセシルの行く手を阻んだ。
「行ったところで、今度はアンタが締上げられるぞ? あの魔導士みたいに」
「大丈夫です。私はこの村の人間ではありません」
「第三者だったらなおさらだ! さっきの魔導士の女の話を聞いただろ? 部外者ではどうにもならない問題だと思わないか?」
「いえ、逆に話を聞いたことで双方の利害を把握することができました。それで解決策があれば、この諍いは止まるはずです」
「解決策って? 水がないのにどうやって争いを収めるんだよ?」
「それを見出すために、下流の村という場所の様子を見に行くんです」
「ああ、もう心配だから俺もついて行くよ。ただし下流の村の外までだ」
「ええ、大丈夫ですよ。ところで、下流の村はどこにあるのですか?」
「今、それを聞くのかよ?」
 ヤルスは溜息をついた。仕方なくセシルを村の入り口まで送り届けることを申し出てくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ身分制度の恩恵を受けていて、平等こそ理想だと罵るのか?

紫月夜宵
ファンタジー
相変わらずn番煎じのファンタジーというか軽いざまぁ系。 悪役令嬢の逆ざまぁとか虐げられていた方が正当に自分を守って、相手をやり込める話好きなんですよね。 今回は悪役令嬢は出てきません。 ただ愚か者達が自分のしでかした事に対する罰を受けているだけです。 仕出かした内容はご想像にお任せします。 問題を起こした後からのものです。 基本的に軽いざまぁ?程度しかないです。 ざまぁ と言ってもお仕置き程度で、拷問だとか瀕死だとか人死にだとか物騒なものは出てきません。 平等とは本当に幸せなのか? それが今回の命題ですかね。 生まれが高貴だったとしても、何の功績もなければただの子供ですよね。 生まれがラッキーだっただけの。 似たような話はいっぱいでしょうが、オマージュと思って下さい。 なんちゃってファンタジーです。 時折書きたくなる愚かな者のざまぁ系です。 設定ガバガバの状態なので、適当にフィルターかけて読んで頂けると有り難いです。 読んだ後のクレームは受け付けませんので、ご了承下さい。 上記の事が大丈夫でしたらどうぞ。 別のサイトにも投稿中。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。

ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。 呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。 そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。 異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。 パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画! 異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。 ※他サイトにも掲載中。 ※基本は異世界ファンタジーです。 ※恋愛要素もガッツリ入ります。 ※シリアスとは無縁です。 ※第二章構想中!

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

処理中です...