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2章: 流れ着いた村にて

争いの火種

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 雨は夕方までに上がり、村は夜までに静まり返っていた。
 そんな中、セシル達は物陰に隠れて畑を見守っている。
「いざというときにはお願いできますか? ヤルスさん」
「わかっているけど、本当に畑泥棒を捕まえられるのか?」
「大丈夫です。もうすぐ来ますから」
 セシルは確信していた。畑泥棒はもうすぐ近くまで来ている。
「合図したら、仕掛けた罠を作動させて下さい」
「誰も居なくても、か?」
「いえ、もちろん泥棒が来た瞬間です」
「それじゃあ、泥棒は目に見えないって言うのか? つくづく君は変なことを言う奴だな」
「今です! 引いて下さい!」
「いきなりかよ!」
 ヤルスは半信半疑で縄を切った。斬られた縄が連動して畑の前でテンションを変え、地面に寝かせていた輪が犯人の足をすくった。
「ウソッ!! マジで!」
 どこからともなく甲高い女の声が上がったかと思えば、ヤルスが仕掛けた罠によって逆さ吊りにされていた。
「何だ! この女! どこから」
「いえ、彼女はずっとここに居ましたよ」
「姿が見えなかったのに?」
 正確には魔法で姿を消していたのだ。ただ、魔法を使えば魔力の流れが動いて精霊達が怯える。セシルは犯行現場でそれを感じ取っていただけのことだ。
「しくじったよ。まさかアタシの魔法を見破る奴がいるなんて」
 捕まったのはセシルと同い年くらいの少女だった。橙色の短い髪を後ろで縛り、いかにも勝気な目つきをしていた。彼女の周囲には盗んできた農作物が散らばっている。
「これは何の騒ぎだ?」
「誰か畑にいるぞ」
 騒ぎを聞きつけた農夫が次々と家から出てくる。
「参ったね。これはキツイお仕置きになりそうだ」
 畑泥棒の少女は農夫達の顔を見回しながら苦笑いした。
「で、どこの者だね?」
 村の長老が椅子でがんじがらめに縛られている畑泥棒に向かって訊いた。
「どこの者でもないよ。放浪の魔導士さ。ただ、今はここより下流の村に雇われているだけ。そうじゃなきゃ、私もくいっぱぐれるからね」
「それで畑泥棒をしたって言うのか!」
「だって向こうの村じゃ食べる物がないんだよ。それも、アンタらのせいで」
「どういう意味だ?」
「この村が使う灌漑のせいで、下流が干上がっちまっているんだよ。だから向こうにしてみれば、この村で育った作物は自分達から奪われた水で育った作物ってわけさ」
「いい加減なことをぬかしやがって! 小娘だからって手加減しねえぞ!」
「待って下さい!」
 畑泥棒に襲い掛かろうとする村人達をセシルが止めた。
「部外者は引っ込んでいてくれないか?」
「そういうわけにはいきません。下流の村が干上がっているのにあなた達は、自分達の作物が無事ならそれでいいんですか?」
「そうは言わないが、水の奪い合いなんて大概そんなものさ。俺がいた前の村でも似たような争いはあったさ」
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