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2章: 流れ着いた村にて

村が抱える問題

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 村で共用する井戸の縁でのこと。あと少しで水桶が上がってくる。セシルは全身を踏ん張らせて縄を掴み上げようとしていた。
「頑張れ! お姉ちゃん!」
 エミリの声援もむなしく、セシルはあと少しというところで縄から手を放してしまう。水を一杯に汲んだ木桶は再び奈落の底へと逆戻りだ。
「あ~、また落としちゃった」
「これで三回目なのに・・・・・・」
 井戸の水くみを命じられたセシルだが、未だに一杯の水も汲めずにいた。しびれを切らしたエミリの母親が呆れたように言う。
「仕方ないね。水汲みは私がやるから、エミリの面倒を見てくれる?」
「はい・・・・・・すいませんでした」
「じゃあ、エミリが村を案内してあげる」
「え? 今からですか?」
 セシルはふと疑問に思った。
「うん、そうだよ!」
「いい機会じゃないか。そんなに広い村じゃないし、二人で行ってきなよ」
「でもこれからもうすぐ、雨が降りますけど?」
「え?」
 エミリの母は驚いて空を見上げた。今の空に雲は一片もない。むしろ灼けるように日差しの強い一日だった。
「こんな天気のいい日に、どうして雨なんか降るのさ?」
「え、だって、それは・・・・・・」
 霊感を通してセシルは水の精の動きを感じ取っていたからだ。ただ、それができるのは聖女に限られる。
「なんとなく、そう思っただけです」
「心配のし過ぎだよ。大丈夫だから行っておいで」
 村は全世帯二十戸ほどの小規模村で、セシルが流れ着いた川と山の斜面に挟まれるように立地していた。村の両側に開かれた洲には畑が作られており、村民の大部分は農作業に従事しているというが、セシル達が訪れた時、畑に人はいなかった。
「誰も居ませんね」
 周りを見回すと、農夫と思しき男達は畑に近い軒下に集まっていた。今は休憩しているようだが、彼らの表情はなぜか暗い。何より、いつまで経っても休憩は終わらなかった。
「あの人達はどうして畑に入ろうとしないのですか?」
「えっと、それはね・・・・・・」
 エミリが答えにくそうにしている間に、後ろから声がした。
「また荒らされたんだよ、泥棒に」
 若い男だった。ただ、農夫ではないらしく、着ているものは少し上物だった。どちらかと言えば王都でよく見かける格好だ。体格も細身の方で、畑仕事が向いていないことはセシルの素人目からも明らかだった。
「おや、見かけない顔だな? どこの嬢ちゃん?」
「えっと、私は・・・・・・」
「このお姉ちゃん、名前がわからないんだよ!」
「記憶喪失、とでもいうのか? 本当は素性を隠したいどこかの貴族の令嬢だったりしてな」
――ギクッ
「あ、あなたは?」
「俺はヤルス、この村一番の長者さ」
「長者? 畑仕事をサボってばかりの人のことを、長者って言うの?」
 首を傾げたエミリがセシルに尋ねた。
「いえ、それは言葉の用法が間違っていると思いますが」
「サボっているんじゃねえ! 俺には土いじり以外に仕事があるんだ! いいか、王都には畑を耕さなくてももっと効率的に金を集める方法があってだな!」
「でも結局何もしてないじゃん」
「いや、だからこれからなんだよ! 俺は将来の有望株なんだ。実際、内緒の儲け話があって・・・・・・」
「ええ、わかりましたから、ところでその、泥棒って・・・・・・」
「ああ、この川を下流に行った所にも別の村があってさ。どうやらそこの連中がここらの作物をちょくちょく盗みに来ているらしくてね」
「そんな、わかっているのになぜ・・・・・・」
「中々泥棒が捕まらないんだよ。どういうわけか」
 ヤルスは他人事のように頭を掻いた。
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