12 / 33
2章: 流れ着いた村にて
名もなき村
しおりを挟む
身体中を包む温かい衣の感覚と共にセシルは目覚めた。そこは丸太材を組んで作られた小さな部屋だった。神殿のような豪華な装飾の代わりに、壁には農具や冬用の上着などが掛けられていた。
「えっと、私は・・・・・・」
まだ痛む頭を抱えながらセシルはここに至る経緯を想起した。処刑のために嘆きの丘まで連行されていた途中、馬が暴走して崖から身を投げ出された、所までは覚えている。
「あっ、気が付いたの?」
ふと部屋の隅を見ると、半開きになった扉の向こうからセシルより一回り位幼い少女がこちらを窺っている。
「よかった。身体が物凄く冷たくなっていたから、死んじゃったかと思っていたよ」
「あの、ここはどこですか?」
「エミリのうちだよ!」
「エミリ? あなたの名前、ですか?」
「そうだよ」
「えっと、この家はどこにあるのですか?」
「村、だけど」
「何という村ですか?」
「え? 村は村だよ。私達の村。そういえば、わかる?」
どうやら名もない辺境の村に流れ着いたところを助けられたらしい。ということは、衛兵達はまだ自分を追っているのだろうか。
「ねえ、どうして川なんかにいたの? あそこは行っちゃいけない場所だよ」
「それは・・・・・・」
「あら、目が覚めたのね?」
話声を聞きつけたのか、今度は中年の女が部屋に入ってきた。
「アンタの服、かなり汚れたから捨てちゃった。悪いけど、しばらくはそれを着て我慢してくれるかな?」
気が付くとセシルにはボロ布同然の囚人服の代わりに彼らと同じ農民の服が着せられていた。
「いえ、ありがとうございます」
「まあ、行儀のいいこと。どこの町の人?」
「・・・・・・えっと」
セシルは自分の出自を言うべきか戸惑った。
「もしかして、思い出せないのかい?」
「ええ、まぁ」
女が都合のいい勘違いをしてくれたことでセシルは助かった。
「大変だねえ。それじゃ、助けが来るまでこの村に居てはどうかい?」
「え? でも、それでは・・・・・・」
セシルは戸惑った。自分を庇って斬られたハイデルの姿が脳裏をよぎったからだ。ここに留まれば村中が偽聖女をかくまった共犯となり、村そのものが取り潰しにされかねない。
ただ、彼らの援助を断ったところで自分には頼りになるものは何もなかった。今まで暮らしてきた神殿との繋がりは消え、実の両親でさえ再会して間もなく処刑されたのだ。
「遠慮することはないよ。こんな村だから、まともなもてなしができるわけでもないんだしさ」
「すいません」
「もちろん、その間それなりの手伝いはしてもらうけどね」
「え・・・・・・」
庶民的な生業を何一つ知らないセシルは口ごもった。
「そんな顔しないでよ。こき使おうとは思っていないから」
女はバンバンとセシルの背中を叩くが、セシルは何をさせられるのかと不安でたまらなかった。
「えっと、私は・・・・・・」
まだ痛む頭を抱えながらセシルはここに至る経緯を想起した。処刑のために嘆きの丘まで連行されていた途中、馬が暴走して崖から身を投げ出された、所までは覚えている。
「あっ、気が付いたの?」
ふと部屋の隅を見ると、半開きになった扉の向こうからセシルより一回り位幼い少女がこちらを窺っている。
「よかった。身体が物凄く冷たくなっていたから、死んじゃったかと思っていたよ」
「あの、ここはどこですか?」
「エミリのうちだよ!」
「エミリ? あなたの名前、ですか?」
「そうだよ」
「えっと、この家はどこにあるのですか?」
「村、だけど」
「何という村ですか?」
「え? 村は村だよ。私達の村。そういえば、わかる?」
どうやら名もない辺境の村に流れ着いたところを助けられたらしい。ということは、衛兵達はまだ自分を追っているのだろうか。
「ねえ、どうして川なんかにいたの? あそこは行っちゃいけない場所だよ」
「それは・・・・・・」
「あら、目が覚めたのね?」
話声を聞きつけたのか、今度は中年の女が部屋に入ってきた。
「アンタの服、かなり汚れたから捨てちゃった。悪いけど、しばらくはそれを着て我慢してくれるかな?」
気が付くとセシルにはボロ布同然の囚人服の代わりに彼らと同じ農民の服が着せられていた。
「いえ、ありがとうございます」
「まあ、行儀のいいこと。どこの町の人?」
「・・・・・・えっと」
セシルは自分の出自を言うべきか戸惑った。
「もしかして、思い出せないのかい?」
「ええ、まぁ」
女が都合のいい勘違いをしてくれたことでセシルは助かった。
「大変だねえ。それじゃ、助けが来るまでこの村に居てはどうかい?」
「え? でも、それでは・・・・・・」
セシルは戸惑った。自分を庇って斬られたハイデルの姿が脳裏をよぎったからだ。ここに留まれば村中が偽聖女をかくまった共犯となり、村そのものが取り潰しにされかねない。
ただ、彼らの援助を断ったところで自分には頼りになるものは何もなかった。今まで暮らしてきた神殿との繋がりは消え、実の両親でさえ再会して間もなく処刑されたのだ。
「遠慮することはないよ。こんな村だから、まともなもてなしができるわけでもないんだしさ」
「すいません」
「もちろん、その間それなりの手伝いはしてもらうけどね」
「え・・・・・・」
庶民的な生業を何一つ知らないセシルは口ごもった。
「そんな顔しないでよ。こき使おうとは思っていないから」
女はバンバンとセシルの背中を叩くが、セシルは何をさせられるのかと不安でたまらなかった。
13
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。

品がないと婚約破棄されたので、品のないお返しをすることにしました
斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
品がないという理由で婚約破棄されたメリエラの頭は真っ白になった。そして脳内にはリズミカルな音楽が流れ、華美な羽根を背負った女性達が次々に踊りながら登場する。太鼓を叩く愉快な男性とジョッキ片手にフ~と歓声をあげるお客も加わり、まさにお祭り状態である。
だが現実の観衆達はといえば、メリエラの脳内とは正反対。まさか卒業式という晴れの場で、第二王子のダイキアがいきなり婚約破棄宣言なんてするとは思いもしなかったのだろう。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。
まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」
ええよく言われますわ…。
でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。
この国では、13歳になると学校へ入学する。
そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。
☆この国での世界観です。

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり
竹井ゴールド
ファンタジー
森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、
「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」
と殺されそうになる。
だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり·······
【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる