通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ

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1章: 聖女追放

処刑の日

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 牢獄で過ごすこととなったセシルに、とうとう刑執行の日が訪れた。何日ぶりに太陽の下に出られた彼女を見送りながら牢番が呟く。
「せいぜい向こうで親子仲良く暮らすんだな」
「え? それって・・・・・・」
 セシルにはその真意を聞かされる間も与えられず、馬車を乗せられた籠に押し込められた。
「おい! 偽聖女のお通りだぞ!」
「今までよくも俺達を騙してくれたな!」
「何よ、かわいい娘って聞いていたのに、とんでもない悪党ね!」
 口さがない罵言の数々と共に浴びせられるのは、馬車に向かって投げられる石礫だ。籠の目は粗雑な作りとなっていて、投げ込まれた石の多くがすり抜けて飛んでくる。外の空気にほとんど触れてこなかったセシルの柔肌に突き刺さる鋭い痛み。身体や顔には無数の打ち傷が増えていった。
「ええい、道を開けろ!」
 衛兵達は激怒する民衆の人払いをしているように見えるが、そもそもこの馬車の進路自体、王都をわざと遠回りしているのである。一人でも多くの目に罪人の醜態を晒させ、セシルを辱めている意図があるに違いなかった。
 ようやく王都を抜けた馬車はつづら折りの道をのろのろと進んでいた。その遥か先にはやや小高い丘陵が見える。通称、『嘆きの丘』だ。エレスト神聖国で最も忌み嫌われる土地とされ、古来より盗人から政治犯までがこの丘で処刑されてきた。以来、罪人の怨霊が夜中に徘徊するという噂も広がり、その地へ近づこうとする者はまずいない。
「あれが見えるか? どうだ? 怖いだろう?」
 馬車の御者が嗜虐心に満ちた笑みでセシルに向かって振り返った。歯がもう何本も抜けてしまっている蓬髪の白髪の老人だった。籠の隅で縮みこまっているセシルは彼から視線をそらした。
「いえ」
「ほう、強情なお嬢ちゃんだ。俺は今まで何人もあの丘に送り出す仕事を続けてきたけど、大概の奴は丘を見た途端に泣き喚いたり正気を失ったりするものさ」
「あなたは、そんなことをしていて楽しいのですか?」
「楽しいとも。死にゆく奴を見ると、自分はまだ生きているんだって、実感できるものさ」
「私には、わかりません」
「だろうな。王宮で何一つ苦労せずに育てられた聖女様に、下々の苦労なんかわかるはずもねえよな」
「他人の不幸を見ることで、自分の何が変わるっていうんですか? 誰かが不幸せな分、それであなたが幸せになれるのですか?」
 セシルの指摘が御者の思わぬ逆鱗に触れた。
「お高くとまっているんじゃねえぞ! 詐欺師女が!」
 御者は手綱を外し、セシルを閉じ込めていた籠を勢いよく蹴った。
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