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1章: 聖女追放
真の聖女
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「者ども静まれ!」
収拾を取り戻したのは国王の一喝だった。裁く者も、裁かれる者も、はたまたそれを傍観する者も一斉に動きを止めた。
「もし、セシルが聖女でないとするならば、真の聖女はどこにいるのだ? 聖女なれば、人智を超えた魔力を身に着け、予言の力によって未来を見据えているはずだろう?」
「全く仰る通りにございます。であればこそ、セシルはやはり聖女ではないということでございましょう。こうなる事態を予見できていなかったわけですから」
法廷内に失笑の声が湧き上がる。それでも国王の表情だけは真剣だ。今の彼が求めているのはセシルではない本物の聖女ということだ。
「そういえばクラウディス卿、確か三女は来世節の折にご生誕でしたな?」
折に触れて誰かがそんなことを口走った。
「いかにも。丁度聖女と同い年である」
「おお! そういえば私も聞いたことがあるぞ。クラウディス卿の三女殿は、よく天候や家の禍福を言い当てるそうではないか」
突然飛び出した情報に全員の姿勢が前のめりに傾いた。
「それはまことか?」
「魔術の嗜みもあると伺いましたぞ」
「何より、気品の優れた御仁だそうな」
同調の意見が各所から上がった。クラウディスはそれを鼻にかけるかのように、椅子の背もたれに身体を沈める。
「クラウディスよ。皆がそこまで噂する程の評判とすれば、一度聖女としての適性を鑑みる必要があるな?」
「身に余る光栄にございます」
「クラウディス卿。私が求めているのは、どうすればエレストの民全てを救えるかという答えだ。それを教えてくれる者こそ、聖女としてこの国を導いて欲しいと考えている」
「国王様の御期待をむげには致しませぬ。では我が娘をここへ呼んで参るとしましょう。それと判決ですが、セシルの国家背任罪に関する処遇はいかがいたしましょう」
国王はもう一度セシルを見下ろした。
「誰か、告訴文に異議のある者は?」
上段の席からは誰も声を上げなかった。
「では、国家背任罪によりセシル=エレスティーノの聖女職は解任。罰則はこの国の法典に定める通りとする」
「待ってくれ! 聖女じゃなかったとしても、娘だけでも助けてやってください!」
衛兵の制止を振り切って逃れようとしたセシルの父は警棒に叩き伏せられた。
「黙れ! 国家背任罪などと大罪を犯した者は容赦されるはずがないぞ! 死刑一択のみ」
「娘だけは本当に無関係なんですよ! どうか御慈悲を」
「国王様! 国王様! 罰ならば私一人で受けます! あの人達は助けて下さい」
あれだけセシルの言葉を求めていたはずの国王はもう、何度呼び掛けても応じようとはしなかった。
収拾を取り戻したのは国王の一喝だった。裁く者も、裁かれる者も、はたまたそれを傍観する者も一斉に動きを止めた。
「もし、セシルが聖女でないとするならば、真の聖女はどこにいるのだ? 聖女なれば、人智を超えた魔力を身に着け、予言の力によって未来を見据えているはずだろう?」
「全く仰る通りにございます。であればこそ、セシルはやはり聖女ではないということでございましょう。こうなる事態を予見できていなかったわけですから」
法廷内に失笑の声が湧き上がる。それでも国王の表情だけは真剣だ。今の彼が求めているのはセシルではない本物の聖女ということだ。
「そういえばクラウディス卿、確か三女は来世節の折にご生誕でしたな?」
折に触れて誰かがそんなことを口走った。
「いかにも。丁度聖女と同い年である」
「おお! そういえば私も聞いたことがあるぞ。クラウディス卿の三女殿は、よく天候や家の禍福を言い当てるそうではないか」
突然飛び出した情報に全員の姿勢が前のめりに傾いた。
「それはまことか?」
「魔術の嗜みもあると伺いましたぞ」
「何より、気品の優れた御仁だそうな」
同調の意見が各所から上がった。クラウディスはそれを鼻にかけるかのように、椅子の背もたれに身体を沈める。
「クラウディスよ。皆がそこまで噂する程の評判とすれば、一度聖女としての適性を鑑みる必要があるな?」
「身に余る光栄にございます」
「クラウディス卿。私が求めているのは、どうすればエレストの民全てを救えるかという答えだ。それを教えてくれる者こそ、聖女としてこの国を導いて欲しいと考えている」
「国王様の御期待をむげには致しませぬ。では我が娘をここへ呼んで参るとしましょう。それと判決ですが、セシルの国家背任罪に関する処遇はいかがいたしましょう」
国王はもう一度セシルを見下ろした。
「誰か、告訴文に異議のある者は?」
上段の席からは誰も声を上げなかった。
「では、国家背任罪によりセシル=エレスティーノの聖女職は解任。罰則はこの国の法典に定める通りとする」
「待ってくれ! 聖女じゃなかったとしても、娘だけでも助けてやってください!」
衛兵の制止を振り切って逃れようとしたセシルの父は警棒に叩き伏せられた。
「黙れ! 国家背任罪などと大罪を犯した者は容赦されるはずがないぞ! 死刑一択のみ」
「娘だけは本当に無関係なんですよ! どうか御慈悲を」
「国王様! 国王様! 罰ならば私一人で受けます! あの人達は助けて下さい」
あれだけセシルの言葉を求めていたはずの国王はもう、何度呼び掛けても応じようとはしなかった。
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