上 下
9 / 33
1章: 聖女追放

真の聖女

しおりを挟む
「者ども静まれ!」
 収拾を取り戻したのは国王の一喝だった。裁く者も、裁かれる者も、はたまたそれを傍観する者も一斉に動きを止めた。
「もし、セシルが聖女でないとするならば、真の聖女はどこにいるのだ? 聖女なれば、人智を超えた魔力を身に着け、予言の力によって未来を見据えているはずだろう?」
「全く仰る通りにございます。であればこそ、セシルはやはり聖女ではないということでございましょう。こうなる事態を予見できていなかったわけですから」
 法廷内に失笑の声が湧き上がる。それでも国王の表情だけは真剣だ。今の彼が求めているのはセシルではない本物の聖女ということだ。
「そういえばクラウディス卿、確か三女は来世節の折にご生誕でしたな?」
 折に触れて誰かがそんなことを口走った。
「いかにも。丁度聖女と同い年である」
「おお! そういえば私も聞いたことがあるぞ。クラウディス卿の三女殿は、よく天候や家の禍福を言い当てるそうではないか」
 突然飛び出した情報に全員の姿勢が前のめりに傾いた。
「それはまことか?」
「魔術の嗜みもあると伺いましたぞ」
「何より、気品の優れた御仁だそうな」
 同調の意見が各所から上がった。クラウディスはそれを鼻にかけるかのように、椅子の背もたれに身体を沈める。
「クラウディスよ。皆がそこまで噂する程の評判とすれば、一度聖女としての適性を鑑みる必要があるな?」
「身に余る光栄にございます」
「クラウディス卿。私が求めているのは、どうすればエレストの民全てを救えるかという答えだ。それを教えてくれる者こそ、聖女としてこの国を導いて欲しいと考えている」
「国王様の御期待をむげには致しませぬ。では我が娘をここへ呼んで参るとしましょう。それと判決ですが、セシルの国家背任罪に関する処遇はいかがいたしましょう」
 国王はもう一度セシルを見下ろした。
「誰か、告訴文に異議のある者は?」
 上段の席からは誰も声を上げなかった。
「では、国家背任罪によりセシル=エレスティーノの聖女職は解任。罰則はこの国の法典に定める通りとする」
「待ってくれ! 聖女じゃなかったとしても、娘だけでも助けてやってください!」
 衛兵の制止を振り切って逃れようとしたセシルの父は警棒に叩き伏せられた。
「黙れ! 国家背任罪などと大罪を犯した者は容赦されるはずがないぞ! 死刑一択のみ」
「娘だけは本当に無関係なんですよ! どうか御慈悲を」
「国王様! 国王様! 罰ならば私一人で受けます! あの人達は助けて下さい」
 あれだけセシルの言葉を求めていたはずの国王はもう、何度呼び掛けても応じようとはしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ身分制度の恩恵を受けていて、平等こそ理想だと罵るのか?

紫月夜宵
ファンタジー
相変わらずn番煎じのファンタジーというか軽いざまぁ系。 悪役令嬢の逆ざまぁとか虐げられていた方が正当に自分を守って、相手をやり込める話好きなんですよね。 今回は悪役令嬢は出てきません。 ただ愚か者達が自分のしでかした事に対する罰を受けているだけです。 仕出かした内容はご想像にお任せします。 問題を起こした後からのものです。 基本的に軽いざまぁ?程度しかないです。 ざまぁ と言ってもお仕置き程度で、拷問だとか瀕死だとか人死にだとか物騒なものは出てきません。 平等とは本当に幸せなのか? それが今回の命題ですかね。 生まれが高貴だったとしても、何の功績もなければただの子供ですよね。 生まれがラッキーだっただけの。 似たような話はいっぱいでしょうが、オマージュと思って下さい。 なんちゃってファンタジーです。 時折書きたくなる愚かな者のざまぁ系です。 設定ガバガバの状態なので、適当にフィルターかけて読んで頂けると有り難いです。 読んだ後のクレームは受け付けませんので、ご了承下さい。 上記の事が大丈夫でしたらどうぞ。 別のサイトにも投稿中。

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

自称マッチョな伯爵令息に婚約破棄された侯爵令嬢は、冒険者になります

みこと
ファンタジー
「ディアナ、貴様との婚約は破棄する!」まさにテンプレな婚約破棄宣言をしたのはヴォルフ伯爵家嫡男、カール。残念ながら、彼は私、シュナイダー侯爵家次女、ディアナの婚約者です。 実は私、元日本人の転生者です。 少し、いやかなり残念なカールはマッチョを自称し、何でも「真実の愛」を見つけたらしいです。 まぁ「ふ〜ん」って感じです。 マッチョって言うより肥満でしょう...私は細マッチョがいいです。むふ♡ 晴れて自由になった私は冒険者になろうと思います。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

ちょっっっっっと早かった!〜婚約破棄されたらリアクションは慎重に!〜

オリハルコン陸
ファンタジー
王子から婚約破棄を告げられた令嬢。 ちょっっっっっと反応をミスってしまい……

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...