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1章: 聖女追放
不当裁判
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絹の法衣を奪われ、手足には荒縄を縛られた状態でセシルは壇上に立たされていた。正面遥か上からは国王が見下ろし、その周囲を枢機卿の大臣達が取り囲んでいる。
今、セシルと同じ目線に立つのは彼女を監視する衛兵だけだ。
騒然とする会場内で、廷吏が咳払いの後に宣言する。
「ではこれより、セシル=エレスティーノの国家背任罪に関する裁判を行う。被告人、セシルは先の来世節において聖女選出の折、不正を働いて自らを聖女の地位に就け、エレスト神聖国の権威を著しく失墜させたとする告発文があります。事実、セシルが聖女になってからの十三年間、不作や飢饉は収まらず、地方では野盗勢力が跋扈しつつあります」
「え? それは私のせい?」
「聞きましたか! 今の無責任な言葉を! 聖女様がこのような言葉を仰いますでしょうか? いや、仰るはずがない!」
「だって、私の聖女としての力はあくまで世間の諍いには・・・・・・」
「口答えもするというのか! やはり貴様は聖女の贅沢な待遇が欲しくて・・・・・・」
「待て、それはおかしいではないか」
真っ先に反論したのは国王だ。
「と、仰いますのは?」
「来世節は先代の聖女ミカディラ様の没後、十二日以内に生まれた女児が次の聖女となるのであろう? つまり、セシル様はまだ生まれて間もない赤子だったわけで、その間にこの国の則を理解して聖女の座を簒奪しようなどと思うはずがない」
「ご指摘の通りでございますが、それは私から説明致しましょう」
大臣の席から一人、立ち上がる者があった。五十を超えたと思われる老人だ。王宮の行事で一度、挨拶を交わしたことがあるのをセシルは覚えていた。確かクラウディスという穀物相を務める貴族だ。
「おい、例の罪人をここへ」
クラウディスが命じると、法廷内の扉が開かれ、外から二人の男女が連れて来られた。どちらもみすぼらしい恰好をしており、強制的に捉えられたのか、どちらの顔にも生々しい痣があった。
「この者達は?」
「セシル=エレスティーノの父母にございます」
クラウディスの言葉に、セシルの背筋に衝撃が走った。
「私の? お父さんとお母さん・・・・・・」
セシルを前に、両親達は悲しげな視線を向けていた。
「この者達はこともあろうに娘の出生日を偽り、ミカディラ様の命日より以前に生まれていたセシルを聖女選びの候補者として王宮に届け出たのであります! 彼らの住む村から、娘の出産を手伝ったと申す者が、しかと証言をしております」
「出生日を偽るだと? それはまことか?」
「左様でございます。つまり本来ならば、セシルは聖女選びの候補者ですら該当しないのです。この者達は娘を聖女に選ばれることで払われる恩賞金を目当てに偽りを申したのです」
「何かの間違いだ! セシルは確かに、ミカディラ様の身罷られた後に生まれたんです!」
セシルの父が抗議した。
「そうです! 来世節が始まってから三日後のことです! 私はお腹を痛めたのだから、はっきりと覚えています」
「罪人は黙っていろ!」
衛兵達が抗議の声を上げる両親を抑え込みにかかり、法廷内は騒然とした。
今、セシルと同じ目線に立つのは彼女を監視する衛兵だけだ。
騒然とする会場内で、廷吏が咳払いの後に宣言する。
「ではこれより、セシル=エレスティーノの国家背任罪に関する裁判を行う。被告人、セシルは先の来世節において聖女選出の折、不正を働いて自らを聖女の地位に就け、エレスト神聖国の権威を著しく失墜させたとする告発文があります。事実、セシルが聖女になってからの十三年間、不作や飢饉は収まらず、地方では野盗勢力が跋扈しつつあります」
「え? それは私のせい?」
「聞きましたか! 今の無責任な言葉を! 聖女様がこのような言葉を仰いますでしょうか? いや、仰るはずがない!」
「だって、私の聖女としての力はあくまで世間の諍いには・・・・・・」
「口答えもするというのか! やはり貴様は聖女の贅沢な待遇が欲しくて・・・・・・」
「待て、それはおかしいではないか」
真っ先に反論したのは国王だ。
「と、仰いますのは?」
「来世節は先代の聖女ミカディラ様の没後、十二日以内に生まれた女児が次の聖女となるのであろう? つまり、セシル様はまだ生まれて間もない赤子だったわけで、その間にこの国の則を理解して聖女の座を簒奪しようなどと思うはずがない」
「ご指摘の通りでございますが、それは私から説明致しましょう」
大臣の席から一人、立ち上がる者があった。五十を超えたと思われる老人だ。王宮の行事で一度、挨拶を交わしたことがあるのをセシルは覚えていた。確かクラウディスという穀物相を務める貴族だ。
「おい、例の罪人をここへ」
クラウディスが命じると、法廷内の扉が開かれ、外から二人の男女が連れて来られた。どちらもみすぼらしい恰好をしており、強制的に捉えられたのか、どちらの顔にも生々しい痣があった。
「この者達は?」
「セシル=エレスティーノの父母にございます」
クラウディスの言葉に、セシルの背筋に衝撃が走った。
「私の? お父さんとお母さん・・・・・・」
セシルを前に、両親達は悲しげな視線を向けていた。
「この者達はこともあろうに娘の出生日を偽り、ミカディラ様の命日より以前に生まれていたセシルを聖女選びの候補者として王宮に届け出たのであります! 彼らの住む村から、娘の出産を手伝ったと申す者が、しかと証言をしております」
「出生日を偽るだと? それはまことか?」
「左様でございます。つまり本来ならば、セシルは聖女選びの候補者ですら該当しないのです。この者達は娘を聖女に選ばれることで払われる恩賞金を目当てに偽りを申したのです」
「何かの間違いだ! セシルは確かに、ミカディラ様の身罷られた後に生まれたんです!」
セシルの父が抗議した。
「そうです! 来世節が始まってから三日後のことです! 私はお腹を痛めたのだから、はっきりと覚えています」
「罪人は黙っていろ!」
衛兵達が抗議の声を上げる両親を抑え込みにかかり、法廷内は騒然とした。
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