上 下
7 / 33
1章: 聖女追放

捕縛

しおりを挟む
 セシルにはまだ認められなかった。物心ついたころから、実際には自分が聖女に選ばれてからずっと、傍にいたハイデルが、こんなことでいなくなってしまうなんて。勉強や修行が嫌で逃げ出す度、半泣きする自分を強制的に連れ戻したハイデルが、木登りに挑戦して降りられなくなった自分を真っ先に助けてくれたハイデルが、もういない。
「セシル様! お逃げく・・・・・・ごわっ!!」
 セシルを庇おうとした神官がもう一人、衛兵に後ろから槍で突かれた。他の衛兵達も、無抵抗の神官や巫女を容赦なく手に掛けようとする気炎が伝わってくる。
「税金を喰い荒らす神殿の豚共め! ここで一網打尽にしてやれ」
「止めて下さい!」
 逃げ惑う神官達に襲い掛かろうとする衛兵の前に、セシルが躍り出た。さすがに聖女は手打ちに出来ないらしく、衛兵達はぴたりと剣を引っ込めた。
「斬殺は・・・・・・私の捕縛を妨げた者に限られるのでしょ? あなた達の言う通り、出頭します。だからもう、これ以上人を傷つけないで」
「ほう、ただのメスガキだと思っていたら度胸のある真似をしてくれるじゃないか」
 小隊長らしき男は剣を鞘に納め、セシルの前に立った。手足の震えを隠すセシルに向かって彼は微笑むと、手甲をはめた手でセシルの腹部を強打した。
「な、何か?」
「おら!!」
「うっ!!」
 強烈な痛みのすぐ後に目眩が襲ってきて、セシルは縮みこみながら床に倒れ込んだ。
「な・・・・・・何を」
「前から思っていたんだけどよ、お前のその透かしたような目つきがずっと癪だったんだ」
 悶えるセシルの身体に、小隊長は片足をかけた。
「俺はな、貧しい農民の家からやっと王宮の衛兵にのし上がってきたんだよ。苦労も知らねえ小娘が! 安心しろ! 殺す手前の加減は心得ているからよ!」
 セシルの小さな体は何度も軍靴に踏みつけられた。度重なる衝撃に耐えていたセシルは、倒れたハイデルの傍らでやがて意識を失った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

ギフト【ズッコケ】の軽剣士は「もうウンザリだ」と追放されるが、実はズッコケる度に幸運が舞い込むギフトだった。一方、敵意を向けた者達は秒で

竹井ゴールド
ファンタジー
 軽剣士のギフトは【ズッコケ】だった。  その為、本当にズッコケる。  何もないところや魔物を発見して奇襲する時も。  遂には仲間達からも見放され・・・ 【2023/1/19、出版申請、2/3、慰めメール】 【2023/1/28、24hポイント2万5900pt突破】 【2023/2/3、お気に入り数620突破】 【2023/2/10、出版申請(2回目)、3/9、慰めメール】 【2023/3/4、出版申請(3回目)】 【未完】

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...