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1章: 聖女追放
突然の別れ
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金属がこすれ、時にぶつかり合う耳障りな音だ。それも音は一つではなく幾つもの音源が重なり合っている。セシルには向こうで何があるのか予想がつかなかったが、音は徐々に近づいてきて、咄嗟にハイデルが前に進み出た。聖女の前を歩いてはならない掟を今まで忠実に守ってきた彼にとって、初めての行動だった。
「セシル様、お下がりください!」
他の神官達にもいつの間にか緊張が伝播している。彼らはまるで、セシルの四方八方を守るように輪を作っていた。そんな彼らの周りを、廊下の向こうから現れたおびただしい数の衛兵が取り囲む。彼らの前には各々の武器の鋭鋒があった。
「衛兵が、どうして?」
ハイデルが衛兵達を恫喝するように叫んだ。
「衛兵よ、セシル様の御前であるぞ! 控えられよ!」
普段ならば言葉などなくとも道を開ける衛兵達は、この時ばかりは一歩も引かなかった。
「貴様らこそ退くのだ。その小娘、セシル=エレスティーノには逮捕命令が出ている」
衛兵の小隊長らしき男が侮蔑的な笑いを浮かべながら答えた。
怒りのせいだろうか。ハイデルは持っていた儀仗を床に打ちつけた。
「血迷ったか! 神聖なるエレストの聖女であらせられるぞ! そのセシル様にいかなる罪状があろうか!」
「ハイデル、下がりなさい。この人達は何か誤解をしているようです。争いで誤解は解決するものではありません」
セシルが小声で訴えるが、ハイデルと衛兵達の対立はもう止まらない。
「罪状だと? それは国家背任罪よ。セシル=エレスティーノは生まれてからの十三年間、このエレスト神聖国を騙し続けたのだ」
「無礼者め! 十三年も国家を騙すだと!? 私は先の来世節よりセシル様が聖女に選任されてからずっと、お傍で世話役を仕っておる! その間に国家背任罪の容疑などいかがわしき行いは・・・・・・」
「ハイデル、もう――」
セシルがハイデルの背中から法衣をつかもうとしたが、その手は何も捕まえられなかった。セシルの前で、大きなハイデル身体が突然前に崩れたのだ。そのままハイデルは廊下の床に倒れ込み、真っ二つに折れた儀仗が廊下に転がった。
「ハイデル?」
セシルが呼びかけても、ハイデルは起き上がらない。よく見ると、その向こうで衛兵の一人が血糊を帯びた剣を握りしめていた。
「え? どうして?」
「おっと、言い忘れていた。セシル=エレスティーノの逮捕命令を妨害する者は斬殺もやむなしとの命令が出ているのだ」
「そんな、ハイデル! ハイデル! 嘘だと言って!!」
セシルはハイデルの身体を揺さぶる。やがてその手は赤く染まっていた。
「・・・・・・セシル様」
微かに開きかけたハイデルの唇からは鮮血が滲んでいた。
「ハイデル、しっかりして。今私が・・・・・・」
「いえ・・・・・・もう私は助かりませぬ」
「そんなことない! だって私には!」
「それが、ならぬのです・・・・・・あなたは紛れもなく真の聖女様。なればこそ、聖女としての掟を破ることは許されませぬ」
「でも・・・・・・」
「ご安心下され。たとえ・・・・・・この身が滅びようとも・・・・・・私はセシル様の」
言い終えないうちに、ハイデルの顔から生気が引いた。
「そんな、何でこんなことに」
「セシル様、お下がりください!」
他の神官達にもいつの間にか緊張が伝播している。彼らはまるで、セシルの四方八方を守るように輪を作っていた。そんな彼らの周りを、廊下の向こうから現れたおびただしい数の衛兵が取り囲む。彼らの前には各々の武器の鋭鋒があった。
「衛兵が、どうして?」
ハイデルが衛兵達を恫喝するように叫んだ。
「衛兵よ、セシル様の御前であるぞ! 控えられよ!」
普段ならば言葉などなくとも道を開ける衛兵達は、この時ばかりは一歩も引かなかった。
「貴様らこそ退くのだ。その小娘、セシル=エレスティーノには逮捕命令が出ている」
衛兵の小隊長らしき男が侮蔑的な笑いを浮かべながら答えた。
怒りのせいだろうか。ハイデルは持っていた儀仗を床に打ちつけた。
「血迷ったか! 神聖なるエレストの聖女であらせられるぞ! そのセシル様にいかなる罪状があろうか!」
「ハイデル、下がりなさい。この人達は何か誤解をしているようです。争いで誤解は解決するものではありません」
セシルが小声で訴えるが、ハイデルと衛兵達の対立はもう止まらない。
「罪状だと? それは国家背任罪よ。セシル=エレスティーノは生まれてからの十三年間、このエレスト神聖国を騙し続けたのだ」
「無礼者め! 十三年も国家を騙すだと!? 私は先の来世節よりセシル様が聖女に選任されてからずっと、お傍で世話役を仕っておる! その間に国家背任罪の容疑などいかがわしき行いは・・・・・・」
「ハイデル、もう――」
セシルがハイデルの背中から法衣をつかもうとしたが、その手は何も捕まえられなかった。セシルの前で、大きなハイデル身体が突然前に崩れたのだ。そのままハイデルは廊下の床に倒れ込み、真っ二つに折れた儀仗が廊下に転がった。
「ハイデル?」
セシルが呼びかけても、ハイデルは起き上がらない。よく見ると、その向こうで衛兵の一人が血糊を帯びた剣を握りしめていた。
「え? どうして?」
「おっと、言い忘れていた。セシル=エレスティーノの逮捕命令を妨害する者は斬殺もやむなしとの命令が出ているのだ」
「そんな、ハイデル! ハイデル! 嘘だと言って!!」
セシルはハイデルの身体を揺さぶる。やがてその手は赤く染まっていた。
「・・・・・・セシル様」
微かに開きかけたハイデルの唇からは鮮血が滲んでいた。
「ハイデル、しっかりして。今私が・・・・・・」
「いえ・・・・・・もう私は助かりませぬ」
「そんなことない! だって私には!」
「それが、ならぬのです・・・・・・あなたは紛れもなく真の聖女様。なればこそ、聖女としての掟を破ることは許されませぬ」
「でも・・・・・・」
「ご安心下され。たとえ・・・・・・この身が滅びようとも・・・・・・私はセシル様の」
言い終えないうちに、ハイデルの顔から生気が引いた。
「そんな、何でこんなことに」
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