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1章: 聖女追放

間違ったこと

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 翌日、海賊の一件はどこかで立ち消えになったのか、国王と面会したセシルには別の議題がもたらされていた。面会と言っても、上座に座るのは国王ではなくセシルの方だ。
「セシル様、今年の穀物生産量も昨年ほどではないとはいえ、あまり芳しくない状況です。この不作はあと、何年ほど続くのでしょうか」
「そうですね・・・・・・」
セシルはその場所から天井を見上げ、白い繊手をかざした。
「不作の原因は、日照り続きが原因でしょうか?」
「いえ、雨は例年通り降っておりますが」
「そうでしょうね。風の精も水の精も、これといって異常を警告している様子はありません」
「ですがなぜか、王都に小麦が入ってこないのです」
「ただ、地の精は最近、荒れた土地の広がりを憂いているようです」
「荒れた土地・・・・・・」
「一度耕作を放棄した土地には雑草が生い茂り、他の植物の生育を脅かすばかりか田畑を荒らす虫やネズミの巣窟と化します。そんな荒れた土地が最近、この辺りで増えているようですが」
「それは恐らく、都市部に出稼ぎに出た農民が急増しているためでしょう」
「え? そうなんですか?」
「実は、昨年納税を増額し、農業を離れて稼ぎの良い都市部への出稼ぎが増えているのです」
「だったら、今すぐ減税をすればいいだけのことで」
「それができないのです」
「なぜですか?」
「ある外交筋によると、北のドルガと東のベルクランドで軍備増強の気配があるようです。どちらも強国で、この両国が同時に宣戦布告した場合、いかに我が国と言えど、防ぎきれる保証はありません。そこで国境線防衛力強化のため、両地方に要塞を計五つ、築城することを決定いたしました。税収の増額分は、その建造費に充てられます」
「そんな城塞なんか、作らなければいいのに・・・・・・」
「お言葉ですがセシル様、国の防備なくして民の幸福はありえません」
「でも、そのために重税に苦しんでいるのでしょ?」
「それはそうですが」
「そもそも、私にはなぜそれほどまでに争う必要があるのかがわかりません。皆が収穫を分け合い、仲良く暮らせばそれで済むことなのに」
「・・・・・・今日はこれで失礼させて頂きます」
 国王は少し機嫌を損ねたような顔をしてセシルの前から辞去した。国王の姿が見えなくなったのに合わせて、ハイデルが心配そうな表情でこちらへ駆け寄ってくる。
「セシル様。国王様へのあのようなお言葉は」
「あれ? 私何か、失礼なことを言いましたか?」
「いえ、失礼とは申しませんが、国王様はセシル様の先見の明に多大なる期待を抱かれております。他国との戦争をしなければいいなどという無理難題を仰るなど、もっての外にございます!」
「事実ではありませんか。ただでさえ不作や治安悪化がはびこるこの国で、軍備にお金を割く余裕があるなら、他に民のためになすべきことがあるはずです。私、何か間違ったことを言っていますか?」
「・・・・・・いえ、間違ってはおりません。ですが・・・・・・出過ぎた真似を致しました。お許し下さいませ」
「気にすることはありません。さて、神殿に戻りましょうか」
「御意に」
 セシルがハイデルを引き連れて神殿の自室に戻ろうとした途中、廊下の向こうから騒がしい物音がしていた。
「あれは何の音ですか?」
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