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序章: 聖夜の陰謀

深夜の来客

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「これは・・・・・・今日は随分と袖の下を積んだのだな。よほどのお願いがあると見える。して、要件とは?」
「今年もまた、全国的な不作が続いておりまする。特に小麦の流通においては深刻で、私をはじめ多くの業者が昨年の貯蔵分を放出しておりますが、どうやらそれも底をつきかけるほどの窮状」
「そんなことは言われなくともわかっておる。そのため、今日の参議で国家貯蔵の備蓄分をも民に分け与えることが閣議決定されたことは知っておろう?」
「もちろん存じてございます。それでお願いというのは、その国家貯蔵分の備蓄をいつ解放されるかということでありますが」
「早い方がよかろう。今は冬ゆえ、遅くとも今月以内には蔵を開ける必要がある」
「ではその開放を一月ほど、遅らせて頂くことは可能でしょうか?」
「何だと?」
 トーレスの嫌味な笑みを見た瞬間、クラウディスは直感した。この男との腐れ縁が続いてからの十年間、考えそうなことは大体察しが付く。
「さては貴公、まだ小麦を隠し持っておるな?」
 ご名答、とでも言うかのようにトーレスは唇を歪めた。
「手塩にかけて安く買い叩いた大事な小麦でございます。それなりの価値で買い取ってもらうのが筋というもの」
「ほう、筋とは・・・・・・そんなものが貴公にあったのか。それで、国庫の小麦を流通されては破格に高い小麦が売れなくなると憂いてここまで駆け込んできたわけか」
「左様でございます。備蓄分にはあと一月ほど、王都の民を飢えさせない分がございます故、何卒・・・・・・」
「だが量は確保できても、急騰した小麦を買う余裕のない下層市民は飢えることになるぞ」
「私は商人でございます。商人は金のない人間のことなど、全く考える必要はないわけでございます」
「だが国政を担う私もそういうわけにはいかぬ・・・・・・さて、どうしたものかな」
 機嫌の悪かったクラウディスはわざとトーレスの譲歩を引き出してみたくなった。ところが狡猾な彼は目の前に積んだ金貨を中々上乗せしようとはせず、妙なことを口走った。
「ところで、今日は随分と屋敷内が騒がしいようにお見受けしますが?」
「妻がこの度女児を出産してな。屋敷中が喜びと洗礼の準備で駆け回っておる」
「ほう・・・・・・ご息女でいらっしゃいますか!」
 トーレスが細い目つきを見開いて鼻の穴を膨らませた。この男が金以外の話題でこんな顔を作るのを、クラウディスは初めて見た。
「何だ? さては貴公、その年で我が娘を手籠めにしようなどと考えてはおらぬな? 一商人の分際が無礼であるぞ」
「とんでもない、恐れ多いことでございます! ただ・・・・・・」
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