チート魔法の魔導書

7章：黒幕の影

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「いいえ。それは決戦を先延ばしにしたに過ぎません」
「ヘンリマン。いずれにしても貴様は、我が国の領土を侵し、国民を殺害した張本人だ。生きてこの屋敷から出られると思うなよ」
「貴方達がそれを言いますか？」
　ヘンリマンはアデリルの言葉に破顔した。
「貴方方こそ、消えてもらう。専属魔法は頂いておきますがね」
「気を付けて。どんな魔法を持っているかまだ分からないから」
「逃げても無駄だ。【火焔祓剣】！」
　ヘンリマンは腰の剣を抜くと同時に炎の尾を引いた。炎の渦が正面に立つアデリルに向かって驀進する。
「【火焔祓剣】！」
　アデリルは咄嗟に同じ専属魔法で迫りくる炎を相殺した。辺り地面の地面が水分を失って褐色に変わった。
「さすが、自分の魔法では倒せませんか」
「貴様、いつの間に私の専属魔法を・・・・・・」
「これだけで驚いてはいけない。【真空断斬】！」
　ヘンリマンの剣がもう一閃すると、今度は衝撃波がアデリルに襲い掛かる。全く不意の攻撃にアデリルは吹き飛ばされ、屋敷の窓を突き破った。
「アデリル！」
「他人の心配をしている場合ですか？　キュエル＝リンミット」
　ヘンリマンが振り返ると同時にキュエルの足元から何かが地面を覆した。それはツタのように曲線を描く植物の蔓だった。蔓は驚くべき速度で成長を遂げると同時に、キュエルの短い脚を絡め捕り、それがすぐに全身に回った。
「こんなもの！」
　キュエルが杖に光を灯すと、蔓は木っ端微塵になって地面に落ちる。
「今のは、ゲクリニカの【豹変魔法】だね？」
「その通り、私は既に帝国中の《所有者》に出会い、その専属魔法を会得しております。今の私は、帝国軍全軍に匹敵する戦力を保持しているのです」
「まるで専属魔法を兵器みたいに言うのだね」
「同じことでしょう。それは、権力者達の間では常識です」
「専属魔法は、確かに人間の歴史を変えてきた。だけどそれは、魔導士達の願いではないんだよ。魔導士達はただ、自分の一生を意味あるものとして、研究の成果と魔法に対する信念を後世に伝えたかったんだ。それを書き残したのが魔導書だ。ボクが何より腹を立てているのは、君がそんな魔導士達の願いを土足で踏みにじったからだ！」
　キュエルが杖を振り下ろすと、無数の光の柱がヘンリマンを囲みながらその輪を縮めていく。光の柱には膨大な熱がこもり、その通った後の地面は草一本残らない焦土と化した。