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7章:黒幕の影
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「まさか、アデリルさんが」
最悪の状況を考えたくなどなかった。それでもベルニアがラスタの専属魔法を狙っている可能性はまだ、十分にあり得るのだ。
「こんにちは!」
「えっ」
剣の柄に手を掛けたリュシアは驚き、手を止めた。半開きの扉から顔を出したのは桃色のショートカットの少女だった。厳密には少女というより幼女だった。侍女見習いにしても若すぎる。その背丈はラスタ達の半分を少し超えた程度だ。
「あなたがラスタさん?」
まるでラスタ達の事情を把握しているような口調で少女は訊いた。
「あ、ああ」
「へえ、君が!」
納得した少女は全身をラスタ達の前に露わにする。着せ替え人形のようなフリルやリボンのついた衣装を翻し、部屋に入るなりラスタ達の前でソファに堂々と腰掛けた。
「あの、あなた何なの?」
リュシアは剣を収めて少女に尋ねる。少女は机に置かれていたクッキーを頬張りながら答えた。
「ボクはキュエル=リンミット。ベルニア王国に住む唯一の魔導士さ」
「魔導士? この子が?」
ラスタもリュシアもおいそれと少女の言葉を信じる気にはなれない。魔法の研究に人生の大半を費やし、専属魔法を開発する頃には人生の黄昏に差し掛かっているのが魔導士だ。然るにラスタ達の印象からすれば、魔導士とは老人ないし老婆の姿をしているのが当然だった。
「ラスタ君、ここにキュエル様は・・・・・・」
程なくして、外を見回すようにアデリルが入ってきた。
「キュエル様、すでにこちらにおいででしたか」
ソファの上のキュエルを視野に収めるなり、アデリルは粛然として片膝をつく。
「アデリル。ご苦労様」
「ええ、やっぱりこの子が!」
「ダクライアからわざわざ足を運んでくれてありがとうね。早速君達も全ての真相を知りたいところだろうけど、まずは話をするのにそれが邪魔だね」
キュエルはラスタの手枷に手を置いた。集中した様に目を閉じた彼女は何か一言呟く。どんな鍵や魔法、武器をもってしても外れないはずの手枷はあっけないほど簡単に外れた。
「あ、ありがとう」
「ラスタ君」
アデリルは手で合図した。少し耳を貸せと。
(言葉遣いに気を付けたまえ。キュエル様はあれで、私達よりずっと年上なのだ)
(年上? 一体幾つなんです?)
(わからない。少なくとも私が物心ついた時から、あのお姿だ)
「アデリル、何の話をしているの?」
「な、何でもございません」
それでもキュエルは訊きたがっているような顔をする。まるで子供が何かに関心を持ち始めたような表情だ。アデリルは当惑したまま視線を右に左に寄せた。
「あの、それで俺達の話というのは?」
ここでラスタが話題の転換を試みる。
「そうだね。本題に入ろうか」
アデリルは安堵の溜息をついた。
「さて、どこから話そうか」
「全てを仕組んだ元凶が、俺の専属魔法を狙っていると聞きましたが」
「そうか、そこまではもう伝わっているんだね」
「ですが、俺にはこの戦争のきっかけそのものが疑問です。あのベルニア王は、本当にハンス=リクトルの暗殺に無関係と考えていいのですか?」
「その通りだ。ハンス=リクトルの暗殺に、ベルニア王は関与していない。第一、そんな事をして一番損をするのは、ベルニア王だからね」
「でも、ハンス=リクトルを殺したのは【水晶化魔法】と聞いています。ベルニアの【水晶化魔法】は他に誰も使えないはずでは?」
リュシアが横で尋ねた。
「いや、一つだけ使う方法がある。ベルニア王でなくても、【水晶化魔法】を使う方法があるのさ」
最悪の状況を考えたくなどなかった。それでもベルニアがラスタの専属魔法を狙っている可能性はまだ、十分にあり得るのだ。
「こんにちは!」
「えっ」
剣の柄に手を掛けたリュシアは驚き、手を止めた。半開きの扉から顔を出したのは桃色のショートカットの少女だった。厳密には少女というより幼女だった。侍女見習いにしても若すぎる。その背丈はラスタ達の半分を少し超えた程度だ。
「あなたがラスタさん?」
まるでラスタ達の事情を把握しているような口調で少女は訊いた。
「あ、ああ」
「へえ、君が!」
納得した少女は全身をラスタ達の前に露わにする。着せ替え人形のようなフリルやリボンのついた衣装を翻し、部屋に入るなりラスタ達の前でソファに堂々と腰掛けた。
「あの、あなた何なの?」
リュシアは剣を収めて少女に尋ねる。少女は机に置かれていたクッキーを頬張りながら答えた。
「ボクはキュエル=リンミット。ベルニア王国に住む唯一の魔導士さ」
「魔導士? この子が?」
ラスタもリュシアもおいそれと少女の言葉を信じる気にはなれない。魔法の研究に人生の大半を費やし、専属魔法を開発する頃には人生の黄昏に差し掛かっているのが魔導士だ。然るにラスタ達の印象からすれば、魔導士とは老人ないし老婆の姿をしているのが当然だった。
「ラスタ君、ここにキュエル様は・・・・・・」
程なくして、外を見回すようにアデリルが入ってきた。
「キュエル様、すでにこちらにおいででしたか」
ソファの上のキュエルを視野に収めるなり、アデリルは粛然として片膝をつく。
「アデリル。ご苦労様」
「ええ、やっぱりこの子が!」
「ダクライアからわざわざ足を運んでくれてありがとうね。早速君達も全ての真相を知りたいところだろうけど、まずは話をするのにそれが邪魔だね」
キュエルはラスタの手枷に手を置いた。集中した様に目を閉じた彼女は何か一言呟く。どんな鍵や魔法、武器をもってしても外れないはずの手枷はあっけないほど簡単に外れた。
「あ、ありがとう」
「ラスタ君」
アデリルは手で合図した。少し耳を貸せと。
(言葉遣いに気を付けたまえ。キュエル様はあれで、私達よりずっと年上なのだ)
(年上? 一体幾つなんです?)
(わからない。少なくとも私が物心ついた時から、あのお姿だ)
「アデリル、何の話をしているの?」
「な、何でもございません」
それでもキュエルは訊きたがっているような顔をする。まるで子供が何かに関心を持ち始めたような表情だ。アデリルは当惑したまま視線を右に左に寄せた。
「あの、それで俺達の話というのは?」
ここでラスタが話題の転換を試みる。
「そうだね。本題に入ろうか」
アデリルは安堵の溜息をついた。
「さて、どこから話そうか」
「全てを仕組んだ元凶が、俺の専属魔法を狙っていると聞きましたが」
「そうか、そこまではもう伝わっているんだね」
「ですが、俺にはこの戦争のきっかけそのものが疑問です。あのベルニア王は、本当にハンス=リクトルの暗殺に無関係と考えていいのですか?」
「その通りだ。ハンス=リクトルの暗殺に、ベルニア王は関与していない。第一、そんな事をして一番損をするのは、ベルニア王だからね」
「でも、ハンス=リクトルを殺したのは【水晶化魔法】と聞いています。ベルニアの【水晶化魔法】は他に誰も使えないはずでは?」
リュシアが横で尋ねた。
「いや、一つだけ使う方法がある。ベルニア王でなくても、【水晶化魔法】を使う方法があるのさ」
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