チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

文字の大きさ
上 下
44 / 56
6章:凱旋の先に

10

しおりを挟む
「この炎は一体? ラスタ、これがあなたの専属魔法ですか?」
 火柱の向こうで目を丸くしたイリスの顔が照らされる。しかし、ラスタの手枷は解かれていない。それにこの炎には見覚えがある。
「これは、【火焔祓剣】?」
「何とか間に合ったようだな」
 イリスの背後でその声がした。はっと振り返るイリスだったが、時既に遅し。うなじをしたたかに打たれていた。
「な、あなたは・・・・・・」
 無念そうな表情を浮かべたイリスはそのまま地面に倒れる。
「久しぶりだな。ラスタ君、リュシアさん」
 それは約一ヵ月ぶりに再会するアデリルだった。
「アデリルさん? どうしてここに?」
 全く思いがけない再会に、リュシアもラスタも挨拶を返すことさえ忘れていた。
「済まないが、君達にはダクライアから亡命してもらう」
「ちょっと待って下さい。一体、何がどうなっているんですか?」
 リュシアがアデリルの前に立ち塞がる。ベルニアもまた、ラスタのチート魔法を狙っている可能性は十分にあった。そのためにアデリルをダクライアに潜入させたのかもしれない。《所有者》の力を持ち、ラスタと面識のある彼女を。
「時間がないから手短に言おう。ラスタ君、君の力が狙われている。私と一緒にベルニアに来て欲しい」
 アデリルは剣を鞘に収めながら言った。
「そんなことわかっていますよ。でも、ベルニアだけがあの魔法を使わないと約束できますか?」
「そういう意味ではないんだ、ラスタ君。このままでは、君の専属魔法は君の意志と無関係に使われてしまうかもしれない」
「どういうことです?」
「詳しい話をしている場合か? 今はここを離れるべきだ」
「そうやって、ラスタを連れ出そうとして!」
 リュシアが食って掛かる。今度はラスタがそれを制した。
「行きます。とにかく今は、進むしかない」
「ラスタ!」
「ただし、これだけは約束して欲しい。リュシアは全くの無関係だ。俺にどんな要求を突き付けるにしろ、リュシアの安全だけは保障して欲しい」
「もちろん、約束しよう」
「ちょっと、アンタはどうなるんだよ!」
「これは俺に対する試練だ。不可抗力とはいえ、あの魔法で大勢の命を奪った。だから自分のした事には最後まで責任を持ちたい。それにリュシアのことを考えても、今はダクライアよりベルニアにいた方が安全だ」
「けど・・・・・・」
「行こう。お前のことも、俺が最後まで責任を持つから」
 ラスタはリュシアの手を取り、アデリルの背中を追った。しばらくして、イリスが目を覚ますのと同時に近くで燃え盛る炎が一斉に消えた。取り残された兵士達は夢でも見ていたかのようにその場に立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

捨てられ令嬢、皇女に成り上がる 追放された薔薇は隣国で深く愛される

冬野月子
恋愛
旧題:追放された薔薇は深く愛される 婚約破棄され、国から追放された侯爵令嬢ローゼリア。 母親の母国へと辿り着いた彼女を待っていたのは、彼女を溺愛する者達だった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

処理中です...