チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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6章:凱旋の先に

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 ラスタが前に出たところをリュシアが遮った。ラスタを背に、小声で呟く。
(出来るだけ時間を稼ぐから、それまで逃げて)
「リュシア? 何を」
「言い忘れていたけど。ヒシュマー城で介抱してくれて、ありがとう。それから――」
 リュシアは双眸に涙をたくわえて振り返る。
「私の生きる意味になってくれて、ありがとう」
 言い終えたところで、リュシアは走り始めた。
「イリス=フェランデ!!」
 イリスはまだ、【物質制御魔法】を使っていない。魔法で制御した武器を自在に操るのが彼女の戦い方だ。その準備が整わないうちに、リュシアはイリスめがけて肉迫する。
「雑魚が。身の程を知りなさい」
「な、何だ!」
 兵卒達の武器が突然、彼らの手を離れてリュシアへと向かって行った。月夜に照る幾筋もの刃が残像を描いてリュシアの下へと降り注ぐ。
「くっ」
 降り注ぐ武器をやり過ごすリュシアをイリスがせせら笑う。リュシアは篠突く雨を避けるほどの細心の注意を払ったが、それでも全てを切り抜けることはできなかった。太腿を、腕を数本の刃がかすめる。
「あら、生き残ったのですか」
 呑気な物言いのイリスに対して、リュシアは甲高い声で叫ぶ。だがそれは、敵を詰る言葉ではなかった。
「何しているんだよ! ラスタ! 早く逃げろ!」
 強敵イリスを背にしてもなお、リュシアは立ち止まったままのラスタを叱咤した。
「置いて行けるかよ! リュシア!」
 意を決したラスタは走り出した。リュシアが望む方向とは全く反対の方へ。突撃を敢行するリュシアの背中を追いかけ、降り注いだ武器の林を駆け抜けた。
「ラスタ、今日はあなたと勝負するつもりはありませんのよ」
 地に突き刺さった武器が再び持ち上がり、リュシアの方を向いた。
「ラスタ! 来るな!」
「リュシア!」
「そこまでです」
 武器が閃光となってリュシアを狙う。手枷を嵌められたまま走るラスタには到底追いつけないほどの速度だった。
 絶望的な状況の中、リュシアは手を前に出す。その動作は迫りくる死から逃れる人間とは思えないほど、落ち着いていた。自分の命を諦めていたのだ。
「アンタはここで止める」
 リュシアの手の前に火の玉が生じる。刺し違えてでも、イリスに反撃するらしい。
「間に合え、間に合え!!」
 ラスタは想いに引きずられながら懸命に走る。だがイリスに制御された武器は、既に眼前にあった。
「二等騎士を――なめるな!! 【火球砲】!」
 リュシアが魔法を発動。発射された火の玉がイリスに一矢報いるのかと思いきや、突然の大爆発が起こった。
「何だ!」
 汎用魔法とは到底思えぬほどの火勢がリュシアの前に展開する。遂にはそれが彼女の周囲を取り囲み、リュシアを狙っていた武器は尽く焼き尽くされた。炎はそれだけではとどまらない。イリスの戦いを見物していた兵卒達までも取り囲む。魔法を使えない彼らにその場から逃れる術はなかった。
「一体何が?」
 リュシアは炎の中で呆然と立ちすくむ。
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