チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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6章:凱旋の先に

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――何で俺がこんな目に
 来る日も来る日も、考えることと言えばそればかりだった。戦争が始まって、戦えと言われて戦って、行き着いた先がこの場所だ。幸い、魔導書管理局の連中はラスタを殺すつもりはないようだ。食事は三度運んでくれるし、そのつもりがあれば今すぐにでも断頭台に送られているからだ。だが、裏を返せば彼らはラスタの専属魔法を狙い続けているという意味だ。このまま話を平行線のままにしておくわけにはいくまい。ラスタがチート魔法の秘密を教えるか、秘密を抱えて墓場に行くかを迫られる時は必ずやって来る。
「誰だ?」
 岩壁に照らされた影が揺れている。何やら争うような音がして、暫く外が静かになった。
「何だ?」
 ラスタは鉄格子の隙間から外の様子を眺める。一人の足音がこちらへ近づいてきていた。
「おい!」
 途端、ラスタは叫びそうになった。外の人物は口に指を当てて様子を伺いながら鍵を探す。
「静かに。今開けるから」
 外からやって来たのはリュシアだった。許可を得て面会に来たわけではなさそうだ。
「リュシア、お前何をしている?」
 リュシアが握るのは沢山の鍵がつけられた鉄の輪だった。それは本来、監守のみが持つことを許されるものだ。
「決まっているでしょ? ここから連れ出す」
「しかしお前は」
 軍への配属を目指すリュシアにとって、罪人の逃亡ほう助は重大な汚点だった。これまでの彼女の努力を否定し得る行為であるにも関わらず、カイルの独房の鍵を探すリュシアには少しのためらいもない。
「言ったでしょ。私、追いつかなきゃならないって。実を言うとね、それは一等騎士に追いつくっていう意味じゃない。アンタに追いつくためなの」
「俺に?」
「二等騎士の皆が将来を諦める中で、アンタだけは違っていた。いつも一等騎士に挑んで、勝つために全力を尽くした。私、そういうアンタの傍にずっと居たいと思ったの。だからアンタが軍に入る時に、私も一緒にはいろうと思って努力してきたの」
「だが俺は、専属魔法の力を借りてこの場にいる」
「違うよ」
 手際よく鍵を開けたリュシアは、煌々とした明かりを背に手を差し出す。
「専属魔法の力だけで私達はここにいるんじゃない。皆が力を合わせて戦ったからだよ」
「ああ、そうだな」
 ラスタは手を出そうとした。だが彼の手にはまだ手枷がはめられている。リュシアが外そうにも、この手枷を外す汎用魔法は存在しない。
「とにかく、外へ」
仕方なくラスタは手枷のまま外に出ることになった。途中、倒れた数人の看守を超えて行った。
 ラスタは数日ぶりに外の空気を吸った。真夜中の風が頬に当たる。
「いたぞ!」
 警笛音と怒鳴り声がどこからともなく聞こえてくる。松明を掲げた数人の影がこちらへ迫ってきている。
「ちっ、もう来たか」
 リュシアが走ろうとした矢先、正面からも足音が聞こえてくる。やむなくリュシアは剣を抜いた。
「ごめん、もしもの時はアンタだけでも逃げて」
「そんなこと、出来るかよ」
「そんな状態で戦えないでしょ?」
 手枷に視線を落とすと、ラスタは何も言えなくなった。
「大丈夫。私、強いから」
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