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6章:凱旋の先に
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「わかっているとは思うが、そんな魔法の存在自体が有り得ないのだ」
「俺だって、そう思いたいですよ。でも、あの魔導書にはどうやらそれだけの力があるようです。そんなにあの忌まわしき力の秘密を知りたいならば、貴方達が魔導書を解読すればいいじゃないですか!」
「君の魔導書は既に押収している」
魔導書管理局の職員は一冊の本を片手に持った。ラスタの祖父が書いた『チート魔法の魔導書』だった。
「だが、ここに書かれている文字は何だ? こんな文字は、大陸のどの民族や国でも使われていないぞ」
「でしょうね」
それは祖父だけが知る文字だ。今となっては、読める人間はラスタしかいない。ここまで来ると、ラスタにも話の先が読めてきた。
「貴方達の目的は、チート魔法ですか?」
「チート魔法とは?」
「その魔導書に書かれている専属魔法の名前です。意味は分かりませんが」
「チート魔法か。恐らくこんな魔法は、大陸全土の魔導書を集めても二つと見つからないだろう。それを君が手にしている。しかも、魔導書に書かれている文字は誰にも読めん。つまり、この専属魔法を使えるのは君だけということになる」
「チート魔法を、貴方達に渡せというのですか?」
「我々の管理下にあれば、少なくとも君よりは有益な使い方ができると信じている。武力に用いなくとも、この専属魔法の存在を知らしめておくだけで、他国から有利な交易条件を引き出せるだろう。我が国はベルニア王国との同盟なくして、エクレナダ帝国に代わる覇権国となるのだ」
「覇権国・・・・・・都合のいい時はベルニアとべったりだったくせに、自分達が力を持ち始めたらお払い箱というわけですか?」
「ラスタ君、口が過ぎるぞ」
周囲からラスタを宥めるような声が上がる。それでもラスタは彼らの方を振り向きさえもせずに続けた。
「第一、俺がその魔法を教える義務はあるのでしょうか?」
「どういう意味だね?」
「この国も含めて、世界の中心に立っているのは魔導書を持つ《所有者》ですよ。つまり、魔導書を手にした時点で俺もその仲間入りを果たしたことになるわけです。それがどうして、せっかく手に入れた魔導書を譲渡さなければならなのですか? この場にふんぞり返っている貴方達の権威の源が魔導書だとすれば、どうして俺にそれが認められないんですか!」
ラスタの言葉に会場は沈黙した。やがて正面の審議官が苦虫を噛みしめるようにして顔を上げた。
「君は・・・・・・一国の王にでもなったつもりでいるのかね?」
「俺は貴方達と違います。自分の出世欲のために専属魔法を濫用したりはしない。あの魔法は二度と誰にも使わせない。あんな人殺しの魔法は、使ってはいけないんだ」
「よく考えたまえ、ラスタ君」
「考えましたよ。でも忘れられないんです。自分がチート魔法を使った時の身を焦がすような熱が、巻き込まれた人々の阿鼻叫喚が。あの魔法を使えば必ず後悔します」
「先ほども言ったように、我々は必ずしも武力で事を決するつもりはない。君の魔法はそれだけで他国の牽制になるのだ」
「でも、脅しに従わない国はどうなるんですか? 見せしめにされない保証はどこにあるんですか?」
「君は一つ思い違いをしているようだ」
別の席から声が上がる。どこから発せられたのかわからないラスタは周囲を見回した。
「勘違い? 俺が?」
「君は既にチート魔法とやらで帝国軍を壊滅させている。その報せは既に帝国にも届いているはずだ。だとすれば、帝国軍がこんな強力な魔法を持つダクライアをいつまでも放置するはずがない。自らの覇権を危ぶむ危険因子として、次はダクライアに宣戦布告するだろう。そんな時、誰がこの国を守るというのだね?」
「それは・・・・・・」
「先の戦争では、我が公国軍も多数の将兵を失った。だが次はその比ではないぞ。友人や家族を守りたいならば、チート魔法を使って帝国軍を撃退する以外に策はない。私はそう思うな」
これにはラスタもすぐには言い返せなかった。確かに今の帝国軍はダクライアを以前にも増して危険視しているだろう。
「少し冷静になって考えてみるといい。これは、君自身のためでもあるのだ」
閉会後、ラスタは暗い地下牢に送られる。文字通り、頭を冷やせということらしい。昼夜の区別も曖昧なまま、何日かが過ぎて行った。
「俺だって、そう思いたいですよ。でも、あの魔導書にはどうやらそれだけの力があるようです。そんなにあの忌まわしき力の秘密を知りたいならば、貴方達が魔導書を解読すればいいじゃないですか!」
「君の魔導書は既に押収している」
魔導書管理局の職員は一冊の本を片手に持った。ラスタの祖父が書いた『チート魔法の魔導書』だった。
「だが、ここに書かれている文字は何だ? こんな文字は、大陸のどの民族や国でも使われていないぞ」
「でしょうね」
それは祖父だけが知る文字だ。今となっては、読める人間はラスタしかいない。ここまで来ると、ラスタにも話の先が読めてきた。
「貴方達の目的は、チート魔法ですか?」
「チート魔法とは?」
「その魔導書に書かれている専属魔法の名前です。意味は分かりませんが」
「チート魔法か。恐らくこんな魔法は、大陸全土の魔導書を集めても二つと見つからないだろう。それを君が手にしている。しかも、魔導書に書かれている文字は誰にも読めん。つまり、この専属魔法を使えるのは君だけということになる」
「チート魔法を、貴方達に渡せというのですか?」
「我々の管理下にあれば、少なくとも君よりは有益な使い方ができると信じている。武力に用いなくとも、この専属魔法の存在を知らしめておくだけで、他国から有利な交易条件を引き出せるだろう。我が国はベルニア王国との同盟なくして、エクレナダ帝国に代わる覇権国となるのだ」
「覇権国・・・・・・都合のいい時はベルニアとべったりだったくせに、自分達が力を持ち始めたらお払い箱というわけですか?」
「ラスタ君、口が過ぎるぞ」
周囲からラスタを宥めるような声が上がる。それでもラスタは彼らの方を振り向きさえもせずに続けた。
「第一、俺がその魔法を教える義務はあるのでしょうか?」
「どういう意味だね?」
「この国も含めて、世界の中心に立っているのは魔導書を持つ《所有者》ですよ。つまり、魔導書を手にした時点で俺もその仲間入りを果たしたことになるわけです。それがどうして、せっかく手に入れた魔導書を譲渡さなければならなのですか? この場にふんぞり返っている貴方達の権威の源が魔導書だとすれば、どうして俺にそれが認められないんですか!」
ラスタの言葉に会場は沈黙した。やがて正面の審議官が苦虫を噛みしめるようにして顔を上げた。
「君は・・・・・・一国の王にでもなったつもりでいるのかね?」
「俺は貴方達と違います。自分の出世欲のために専属魔法を濫用したりはしない。あの魔法は二度と誰にも使わせない。あんな人殺しの魔法は、使ってはいけないんだ」
「よく考えたまえ、ラスタ君」
「考えましたよ。でも忘れられないんです。自分がチート魔法を使った時の身を焦がすような熱が、巻き込まれた人々の阿鼻叫喚が。あの魔法を使えば必ず後悔します」
「先ほども言ったように、我々は必ずしも武力で事を決するつもりはない。君の魔法はそれだけで他国の牽制になるのだ」
「でも、脅しに従わない国はどうなるんですか? 見せしめにされない保証はどこにあるんですか?」
「君は一つ思い違いをしているようだ」
別の席から声が上がる。どこから発せられたのかわからないラスタは周囲を見回した。
「勘違い? 俺が?」
「君は既にチート魔法とやらで帝国軍を壊滅させている。その報せは既に帝国にも届いているはずだ。だとすれば、帝国軍がこんな強力な魔法を持つダクライアをいつまでも放置するはずがない。自らの覇権を危ぶむ危険因子として、次はダクライアに宣戦布告するだろう。そんな時、誰がこの国を守るというのだね?」
「それは・・・・・・」
「先の戦争では、我が公国軍も多数の将兵を失った。だが次はその比ではないぞ。友人や家族を守りたいならば、チート魔法を使って帝国軍を撃退する以外に策はない。私はそう思うな」
これにはラスタもすぐには言い返せなかった。確かに今の帝国軍はダクライアを以前にも増して危険視しているだろう。
「少し冷静になって考えてみるといい。これは、君自身のためでもあるのだ」
閉会後、ラスタは暗い地下牢に送られる。文字通り、頭を冷やせということらしい。昼夜の区別も曖昧なまま、何日かが過ぎて行った。
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