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6章:凱旋の先に
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礼服を着た大臣や将軍が整然と並ぶ中、ラスタ達は赤絨毯に導かれるように広間の奥へ通された。
「よくぞ参った。面を上げよ」
数段高くなった玉座の上から、片膝をつくラスタ達に言葉が降りかかる。先頭にはラスタとアデリル、その後ろにはクルネット渓谷で分隊長を務めたダクライアとベルニアの兵士達が続いていた。ただ生き残った三分隊の体調のうち、一人だけは怪我の回復が芳しくなく、リュシアが代理で出席することになった。
「此度の戦役におけるそなたたちの活躍、誠に見事であった。この功績は、未来永劫に渡り英雄伝として語り継がれるだろう」
ベルニアの国王というのは、二十歳を迎えたばかりの若い男だった。他の王家と違って宝石と黄金を着飾ることもなく、絹の衣の下は剛健な体つきだ。武勇によって建国した初代王の末裔というのもうなずける。
「ありがたきお言葉にございます」
アデリルが礼を言った。
「アデリル=クラマハートよ。そなたの采配、実に見事であった。この場をもってそなたを将軍に任ずる」
「私を、将軍に?」
「ダクライアからの援軍の者ども。国の英雄であるそなた達には、相応の褒美をもって報いよう。何が望みだ?」
王との謁見の内容は予めラスタ達に知らされている。もちろん、金銀財宝をたんまり寄越せなど、俗世じみた答えは許されない。遠慮がちに褒美を辞退しつつ、それなりの金一封で手を打つというのがこの場合の正解だ。
「恐れ入りながら、国王様に一つお答えいただきたく存じ上げます」
「何と!」
大臣達の顔は蒼白だ。アデリルもまた、思わず髪が揺れるほどの勢いでラスタに振り向いた。謁見の内容にこんな質問の予定はなかったからだ。
「申してみよ」
「この度の戦役は、帝国の枢機卿、ハンス=リクトルが暗殺されたことに端を発しております。噂によると、ハンス=リクトルは【水晶化魔法】により殺されたとのこと。そこであえてこの場でお尋ねしたい。国王陛下は、本当にハンス=リクトルの暗殺を企てられたのですか?」
「ちょっとラスタ! 何てことを」
リュシアが慌てて止めに入るが遅かった。
「ラスタ殿、陛下に向かって無礼でありますぞ!」
「第一、陛下はずっと宮中におられたのだ!」
大臣達が忠実な番犬のように横合いから吠える。儀仗兵達はすぐにでもラスタを取り押さえる命令を待つかのように身構えていた。
「静まれ!」
ベルニア国王の一喝に一同は静まり返った。大勢の人間が散々にわめいた余韻だけが玉座に反響する。
「大臣、あれを持て」
「あ、あれをでございますか?」
大臣はしばらく席を外した後、黄金の縁取りがついた木箱を大事そうに抱えて戻ってきた。ベルニア国王は玉座から腰を上げると、自身の首に下がった黄金の鍵をその手に握りしめた。どうやら大臣の持つ箱を開ける鍵らしい。小さな金属音が聞こえて箱は開かれた。ベルニア国王は箱の中から古びた書物を全員に示すように掲げた。
「ラスタ殿、先祖代々の魔導書に誓って言おう。これは我がベルニア王国の建国伝説に語り継がれた【水晶化魔法】の魔導書である。予は断じて、エクレナダ帝国のハンス=リクトル卿を騙し討ちになどせぬ。それでもラスタ殿は、予の言葉を信じられぬか?」
ラスタはそれ以上追及しなかった。彼の目的は暗殺事件の犯人を割り出すことではなかったからだ。
「いいえ。ただ、ここにいない仲間達にそのお答えを聞かせたかっただけです」
国王には随分無礼なことを言ってしまったが、ラスタ達は結局のところ救国の英雄である。しかも、隣国ダクライアから駆け付けてくれた恩人である。玉座の間に集まったベルニア人達はそれを忘れるはずはなかった。後は当初の予定通りのやり取りを交わして、ラスタ達はダクライアに帰国することになった。
「よくぞ参った。面を上げよ」
数段高くなった玉座の上から、片膝をつくラスタ達に言葉が降りかかる。先頭にはラスタとアデリル、その後ろにはクルネット渓谷で分隊長を務めたダクライアとベルニアの兵士達が続いていた。ただ生き残った三分隊の体調のうち、一人だけは怪我の回復が芳しくなく、リュシアが代理で出席することになった。
「此度の戦役におけるそなたたちの活躍、誠に見事であった。この功績は、未来永劫に渡り英雄伝として語り継がれるだろう」
ベルニアの国王というのは、二十歳を迎えたばかりの若い男だった。他の王家と違って宝石と黄金を着飾ることもなく、絹の衣の下は剛健な体つきだ。武勇によって建国した初代王の末裔というのもうなずける。
「ありがたきお言葉にございます」
アデリルが礼を言った。
「アデリル=クラマハートよ。そなたの采配、実に見事であった。この場をもってそなたを将軍に任ずる」
「私を、将軍に?」
「ダクライアからの援軍の者ども。国の英雄であるそなた達には、相応の褒美をもって報いよう。何が望みだ?」
王との謁見の内容は予めラスタ達に知らされている。もちろん、金銀財宝をたんまり寄越せなど、俗世じみた答えは許されない。遠慮がちに褒美を辞退しつつ、それなりの金一封で手を打つというのがこの場合の正解だ。
「恐れ入りながら、国王様に一つお答えいただきたく存じ上げます」
「何と!」
大臣達の顔は蒼白だ。アデリルもまた、思わず髪が揺れるほどの勢いでラスタに振り向いた。謁見の内容にこんな質問の予定はなかったからだ。
「申してみよ」
「この度の戦役は、帝国の枢機卿、ハンス=リクトルが暗殺されたことに端を発しております。噂によると、ハンス=リクトルは【水晶化魔法】により殺されたとのこと。そこであえてこの場でお尋ねしたい。国王陛下は、本当にハンス=リクトルの暗殺を企てられたのですか?」
「ちょっとラスタ! 何てことを」
リュシアが慌てて止めに入るが遅かった。
「ラスタ殿、陛下に向かって無礼でありますぞ!」
「第一、陛下はずっと宮中におられたのだ!」
大臣達が忠実な番犬のように横合いから吠える。儀仗兵達はすぐにでもラスタを取り押さえる命令を待つかのように身構えていた。
「静まれ!」
ベルニア国王の一喝に一同は静まり返った。大勢の人間が散々にわめいた余韻だけが玉座に反響する。
「大臣、あれを持て」
「あ、あれをでございますか?」
大臣はしばらく席を外した後、黄金の縁取りがついた木箱を大事そうに抱えて戻ってきた。ベルニア国王は玉座から腰を上げると、自身の首に下がった黄金の鍵をその手に握りしめた。どうやら大臣の持つ箱を開ける鍵らしい。小さな金属音が聞こえて箱は開かれた。ベルニア国王は箱の中から古びた書物を全員に示すように掲げた。
「ラスタ殿、先祖代々の魔導書に誓って言おう。これは我がベルニア王国の建国伝説に語り継がれた【水晶化魔法】の魔導書である。予は断じて、エクレナダ帝国のハンス=リクトル卿を騙し討ちになどせぬ。それでもラスタ殿は、予の言葉を信じられぬか?」
ラスタはそれ以上追及しなかった。彼の目的は暗殺事件の犯人を割り出すことではなかったからだ。
「いいえ。ただ、ここにいない仲間達にそのお答えを聞かせたかっただけです」
国王には随分無礼なことを言ってしまったが、ラスタ達は結局のところ救国の英雄である。しかも、隣国ダクライアから駆け付けてくれた恩人である。玉座の間に集まったベルニア人達はそれを忘れるはずはなかった。後は当初の予定通りのやり取りを交わして、ラスタ達はダクライアに帰国することになった。
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