チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

文字の大きさ
上 下
36 / 56
6章:凱旋の先に

2

しおりを挟む
 礼服を着た大臣や将軍が整然と並ぶ中、ラスタ達は赤絨毯に導かれるように広間の奥へ通された。
「よくぞ参った。面を上げよ」
 数段高くなった玉座の上から、片膝をつくラスタ達に言葉が降りかかる。先頭にはラスタとアデリル、その後ろにはクルネット渓谷で分隊長を務めたダクライアとベルニアの兵士達が続いていた。ただ生き残った三分隊の体調のうち、一人だけは怪我の回復が芳しくなく、リュシアが代理で出席することになった。
「此度の戦役におけるそなたたちの活躍、誠に見事であった。この功績は、未来永劫に渡り英雄伝として語り継がれるだろう」
 ベルニアの国王というのは、二十歳を迎えたばかりの若い男だった。他の王家と違って宝石と黄金を着飾ることもなく、絹の衣の下は剛健な体つきだ。武勇によって建国した初代王の末裔というのもうなずける。
「ありがたきお言葉にございます」
 アデリルが礼を言った。
「アデリル=クラマハートよ。そなたの采配、実に見事であった。この場をもってそなたを将軍に任ずる」
「私を、将軍に?」
「ダクライアからの援軍の者ども。国の英雄であるそなた達には、相応の褒美をもって報いよう。何が望みだ?」
 王との謁見の内容は予めラスタ達に知らされている。もちろん、金銀財宝をたんまり寄越せなど、俗世じみた答えは許されない。遠慮がちに褒美を辞退しつつ、それなりの金一封で手を打つというのがこの場合の正解だ。
「恐れ入りながら、国王様に一つお答えいただきたく存じ上げます」
「何と!」
 大臣達の顔は蒼白だ。アデリルもまた、思わず髪が揺れるほどの勢いでラスタに振り向いた。謁見の内容にこんな質問の予定はなかったからだ。
「申してみよ」
「この度の戦役は、帝国の枢機卿、ハンス=リクトルが暗殺されたことに端を発しております。噂によると、ハンス=リクトルは【水晶化魔法】により殺されたとのこと。そこであえてこの場でお尋ねしたい。国王陛下は、本当にハンス=リクトルの暗殺を企てられたのですか?」
「ちょっとラスタ! 何てことを」
 リュシアが慌てて止めに入るが遅かった。
「ラスタ殿、陛下に向かって無礼でありますぞ!」
「第一、陛下はずっと宮中におられたのだ!」
 大臣達が忠実な番犬のように横合いから吠える。儀仗兵達はすぐにでもラスタを取り押さえる命令を待つかのように身構えていた。
「静まれ!」
 ベルニア国王の一喝に一同は静まり返った。大勢の人間が散々にわめいた余韻だけが玉座に反響する。
「大臣、あれを持て」
「あ、あれをでございますか?」
 大臣はしばらく席を外した後、黄金の縁取りがついた木箱を大事そうに抱えて戻ってきた。ベルニア国王は玉座から腰を上げると、自身の首に下がった黄金の鍵をその手に握りしめた。どうやら大臣の持つ箱を開ける鍵らしい。小さな金属音が聞こえて箱は開かれた。ベルニア国王は箱の中から古びた書物を全員に示すように掲げた。
「ラスタ殿、先祖代々の魔導書に誓って言おう。これは我がベルニア王国の建国伝説に語り継がれた【水晶化魔法】の魔導書である。予は断じて、エクレナダ帝国のハンス=リクトル卿を騙し討ちになどせぬ。それでもラスタ殿は、予の言葉を信じられぬか?」
 ラスタはそれ以上追及しなかった。彼の目的は暗殺事件の犯人を割り出すことではなかったからだ。
「いいえ。ただ、ここにいない仲間達にそのお答えを聞かせたかっただけです」
 国王には随分無礼なことを言ってしまったが、ラスタ達は結局のところ救国の英雄である。しかも、隣国ダクライアから駆け付けてくれた恩人である。玉座の間に集まったベルニア人達はそれを忘れるはずはなかった。後は当初の予定通りのやり取りを交わして、ラスタ達はダクライアに帰国することになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

捨てられ令嬢、皇女に成り上がる 追放された薔薇は隣国で深く愛される

冬野月子
恋愛
旧題:追放された薔薇は深く愛される 婚約破棄され、国から追放された侯爵令嬢ローゼリア。 母親の母国へと辿り着いた彼女を待っていたのは、彼女を溺愛する者達だった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

処理中です...