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6章:凱旋の先に
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ヒシュマー城から戻ったラスタ達はベルニアの首都、ハウスリングに収容された。そこでは戦闘の当事者であるラスタ達より先に、今回の戦役に関する速報がもたらされていた。
「帝国が和議を申し込んだのですか?」
アデリルはベルニアの他の将校から聞かされて目を丸くした。
「向こうから言いがかりをつけて戦争を始めたにしては、虫のいい話ですね」
アデリルはすぐに冷たい目をして皮肉を言った。
「まあ、そう言うな。既にわが軍も主力軍が壊滅してガタガタなのだ。このまま戦が長引けば敗北の可能性が高いと、陛下はご判断されたのだ」
「帝国には羞恥心というものがないのでしょうか」
「あるにしても、一万の軍が跡形もなく消滅したのだ。しかも百戦錬磨の戦果を誇るゲクリニカまでが討ち死にしている。さすがの帝国もこれだけの痛手を受けてなお、侵攻を続ける力はないだろう」
「それにしても、あの戦場で一体何があったというのだ? まさか、《猛火の戦姫》が敵を尽く蹴散らしたというわけではあるまいな?」
一人が冗談交じりに言った。アデリルがすぐに否定しなかったもので、彼は続けて訊いた。
「あれは、魔法なのか?」
「それ以外にあんな爆発の原因が考えられますか?」
現実的な問いかけを突き付けられて、将校達はうめいた。
「ありえん。一万の軍を壊滅させる魔法など、この世界に存在するはずがない。それに、一体誰がその魔法を使ったというのだ?」
「恐らくは」
アデリルの視線が横のラスタに向いた。
「アデリルよ、冗談はよせ」
「冗談ではありません」
「しかし、彼はまだ・・・・・・こ、子供じゃないか!」
「そんな子供を我々は前線で戦わせたのですよ」
アデリルの指摘に将校達の面目は尽く潰された。やがて彼らは各々用事を思い出したようなことを呟き、その場を離れて行った。
「すまないな。平和ボケした俗物ばかりで」
「いいえ。やっと普通の世界に戻れた気がします」
ラスタは城壁の隙間からベルニアの首都を一望する。帝国との戦争が終わったことで街には活気が戻り、至る所で人々の笑顔が絶えない。リュシア達ダクライア兵もようやく安息を得ることができた。
「あれは俺の魔法だったのでしょうか」
ラスタは掌を見る。次にヒシュマー城のあった方角を見た。黒煙が立ち込めたような黒雲はまだ、薄っすらとその地を覆っている。今でさえ、この手から放たれた魔法があんな爆発を引き起こしたなど考えられない。できればそうとは考えたくなかった。しかし、あの魔法をもう一度使って確かめることなど出来るはずがない。たとえ人のいない地で使ったにしても、大地を穿ち、空を灰の舞降る世界に変えたのだ。こんな事が人間に許されるはずがない。
「後悔しているのか?」
アデリルはラスタと肩を並べながら訊いた。
「わかりません。でも、一万の人を殺してしまったのは事実です」
「だがそのお陰で数万の無辜の民は救われた。この私もその一人だ」
「今回の戦争では、ね」
「というと?」
「これが専属魔法の力だとすれば、次の戦乱で使われないはずがない。そうなればこの魔法は更に多くの人間の命を奪うことになる。こんな魔法、使ってはいけなかったんだ」
「兵達には固く口留めしておこう」
「ありがとうございます」
「だが、国王陛下は君達との謁見を望んでおられる。此度の戦役の功労者に、是非とも感謝の言葉を賜りたいそうだ」
「それはよかった」
ラスタは城壁から向き直った。
「俺も言いたいことがあったんで」
ラスタは拳を握りしめていた。
「帝国が和議を申し込んだのですか?」
アデリルはベルニアの他の将校から聞かされて目を丸くした。
「向こうから言いがかりをつけて戦争を始めたにしては、虫のいい話ですね」
アデリルはすぐに冷たい目をして皮肉を言った。
「まあ、そう言うな。既にわが軍も主力軍が壊滅してガタガタなのだ。このまま戦が長引けば敗北の可能性が高いと、陛下はご判断されたのだ」
「帝国には羞恥心というものがないのでしょうか」
「あるにしても、一万の軍が跡形もなく消滅したのだ。しかも百戦錬磨の戦果を誇るゲクリニカまでが討ち死にしている。さすがの帝国もこれだけの痛手を受けてなお、侵攻を続ける力はないだろう」
「それにしても、あの戦場で一体何があったというのだ? まさか、《猛火の戦姫》が敵を尽く蹴散らしたというわけではあるまいな?」
一人が冗談交じりに言った。アデリルがすぐに否定しなかったもので、彼は続けて訊いた。
「あれは、魔法なのか?」
「それ以外にあんな爆発の原因が考えられますか?」
現実的な問いかけを突き付けられて、将校達はうめいた。
「ありえん。一万の軍を壊滅させる魔法など、この世界に存在するはずがない。それに、一体誰がその魔法を使ったというのだ?」
「恐らくは」
アデリルの視線が横のラスタに向いた。
「アデリルよ、冗談はよせ」
「冗談ではありません」
「しかし、彼はまだ・・・・・・こ、子供じゃないか!」
「そんな子供を我々は前線で戦わせたのですよ」
アデリルの指摘に将校達の面目は尽く潰された。やがて彼らは各々用事を思い出したようなことを呟き、その場を離れて行った。
「すまないな。平和ボケした俗物ばかりで」
「いいえ。やっと普通の世界に戻れた気がします」
ラスタは城壁の隙間からベルニアの首都を一望する。帝国との戦争が終わったことで街には活気が戻り、至る所で人々の笑顔が絶えない。リュシア達ダクライア兵もようやく安息を得ることができた。
「あれは俺の魔法だったのでしょうか」
ラスタは掌を見る。次にヒシュマー城のあった方角を見た。黒煙が立ち込めたような黒雲はまだ、薄っすらとその地を覆っている。今でさえ、この手から放たれた魔法があんな爆発を引き起こしたなど考えられない。できればそうとは考えたくなかった。しかし、あの魔法をもう一度使って確かめることなど出来るはずがない。たとえ人のいない地で使ったにしても、大地を穿ち、空を灰の舞降る世界に変えたのだ。こんな事が人間に許されるはずがない。
「後悔しているのか?」
アデリルはラスタと肩を並べながら訊いた。
「わかりません。でも、一万の人を殺してしまったのは事実です」
「だがそのお陰で数万の無辜の民は救われた。この私もその一人だ」
「今回の戦争では、ね」
「というと?」
「これが専属魔法の力だとすれば、次の戦乱で使われないはずがない。そうなればこの魔法は更に多くの人間の命を奪うことになる。こんな魔法、使ってはいけなかったんだ」
「兵達には固く口留めしておこう」
「ありがとうございます」
「だが、国王陛下は君達との謁見を望んでおられる。此度の戦役の功労者に、是非とも感謝の言葉を賜りたいそうだ」
「それはよかった」
ラスタは城壁から向き直った。
「俺も言いたいことがあったんで」
ラスタは拳を握りしめていた。
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