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5章:禁断の専属魔法
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――寒い
降り積もる白い粉を被りながら、ラスタはようやく頭を上げた。一瞬のうちに冴えわたった青空の代わりに暗澹たる雲が広がり、霧に覆われた大地は黄色を帯びた砂塵が覆っている。若草色に覆われた草原の大地には干上がった湖のような巨大な穴が口を開けている。肩で風を切るだけで心地よかったヒシュマー城の風景は、まるで魔界のように寂しく荒れ果てていた。
「一体、何が?」
そこにはゲクリニカもアデリルもいない。草原を埋め尽くすほどの帝国軍でさえ、一人として見当たらなかった。彼らは丁度、あの巨大な穴の辺りに展開していたはずだった。
「小僧!」
瓦礫の一郭が動いて、ゲクリニカが立ち上がった。皺の刻まれた顔には血が滲み、鎧の断片が欠けている。しかし何より傷つけられたのは、ゲクリニカ自身の自尊心だったに違いない。
「おのれ! 貴様は一体何をした! あの魔法は一体・・・・・・ごふっ!」
ラスタに向かってくるゲクリニカは背中を大きく反らした。胸からは真っ直ぐ剣が突き出していた。
「貴様の相手は・・・・・・私だろ」
背中越しにアデリルが囁いた。剣を引き抜かれたゲクリニカは焦土と化した地面にのめり込むようにして倒れた。
「アデリルさん、無事だったんですか?」
「ああ、何とかな。だがこれは一体何だ?」
「・・・・・・わかりません。一体何が起こったのか」
「私が把握しているのは、あそこに後退した帝国軍の辺りで大きな爆発が起こり、何もかも吹き飛ばされたということだけだ。この空の暗さは、空高く舞い上がった粉塵によるものだろう。
「君のあの魔法の力なのか? それにしても威力が強すぎる。こんな魔法が存在するはずがない。第一、君は《所有者》ではないはずだ」
「俺も、わかりません。俺にはもう魔力は残っていなかったはずなんです。それがどうしてこんな事に」
「今考えても仕方がないか。それより、皆は無事だろうか」
一万近い帝国軍が一瞬にして跡形もなく消えたのだ。ヒシュマー城に籠るリュシア達でさえ、無事かどうかはわからなかった。ラスタ達は草木の死に耐えた丘を登る。幸い、ヒシュマー城の城壁は昨日までの形を留めていた。それでも灰色の岩肌は黒く焼け付き、ひびが縦横無尽に走り回っている。城壁の上には根こそぎ抜かれた倒木が引っ掛かっていた。そもそもあの木がどこから飛んできたのかさえ、ラスタは知らない。
「誰かいないか!」
アデリルの声に城門が開いた。開いたというより、つがいが外れて倒れたといった方が良かった。その向こうから、ベルニア軍の残存兵が顔を出す。
「アデリル様、ご無事で」
「皆、怪我はないか?」
「城壁を盾にしたお陰で幸い、数名が軽傷を負った程度です。それにしてもこれは一体、何事でございますか?」
「・・・・・・わからない。だが、帝国軍が壊滅したのは事実だ」
「て、帝国軍が壊滅でありますか?」
誰も喜ばなかった。むしろ、信じられないといった顔をした者ばかりだった。その中の一人が訊いた。
「あれは魔法だったのですか?」
「・・・・・・それもわからない。とにかく今は、帝国軍の包囲から逃れられたというだけの話だ」
この世界では、自然界で考えられない現象が起きた時、人はそれを魔法によるものと考える。それがこの世界の常識だ。しかし、魔法でさえあり得るはずのない現象が起こった時、それを説明できる者は誰一人としていなかった。とにかくアデリルは現実的で、この機にベルニア軍をヒシュマー城から撤退させることに成功したのである。
降り積もる白い粉を被りながら、ラスタはようやく頭を上げた。一瞬のうちに冴えわたった青空の代わりに暗澹たる雲が広がり、霧に覆われた大地は黄色を帯びた砂塵が覆っている。若草色に覆われた草原の大地には干上がった湖のような巨大な穴が口を開けている。肩で風を切るだけで心地よかったヒシュマー城の風景は、まるで魔界のように寂しく荒れ果てていた。
「一体、何が?」
そこにはゲクリニカもアデリルもいない。草原を埋め尽くすほどの帝国軍でさえ、一人として見当たらなかった。彼らは丁度、あの巨大な穴の辺りに展開していたはずだった。
「小僧!」
瓦礫の一郭が動いて、ゲクリニカが立ち上がった。皺の刻まれた顔には血が滲み、鎧の断片が欠けている。しかし何より傷つけられたのは、ゲクリニカ自身の自尊心だったに違いない。
「おのれ! 貴様は一体何をした! あの魔法は一体・・・・・・ごふっ!」
ラスタに向かってくるゲクリニカは背中を大きく反らした。胸からは真っ直ぐ剣が突き出していた。
「貴様の相手は・・・・・・私だろ」
背中越しにアデリルが囁いた。剣を引き抜かれたゲクリニカは焦土と化した地面にのめり込むようにして倒れた。
「アデリルさん、無事だったんですか?」
「ああ、何とかな。だがこれは一体何だ?」
「・・・・・・わかりません。一体何が起こったのか」
「私が把握しているのは、あそこに後退した帝国軍の辺りで大きな爆発が起こり、何もかも吹き飛ばされたということだけだ。この空の暗さは、空高く舞い上がった粉塵によるものだろう。
「君のあの魔法の力なのか? それにしても威力が強すぎる。こんな魔法が存在するはずがない。第一、君は《所有者》ではないはずだ」
「俺も、わかりません。俺にはもう魔力は残っていなかったはずなんです。それがどうしてこんな事に」
「今考えても仕方がないか。それより、皆は無事だろうか」
一万近い帝国軍が一瞬にして跡形もなく消えたのだ。ヒシュマー城に籠るリュシア達でさえ、無事かどうかはわからなかった。ラスタ達は草木の死に耐えた丘を登る。幸い、ヒシュマー城の城壁は昨日までの形を留めていた。それでも灰色の岩肌は黒く焼け付き、ひびが縦横無尽に走り回っている。城壁の上には根こそぎ抜かれた倒木が引っ掛かっていた。そもそもあの木がどこから飛んできたのかさえ、ラスタは知らない。
「誰かいないか!」
アデリルの声に城門が開いた。開いたというより、つがいが外れて倒れたといった方が良かった。その向こうから、ベルニア軍の残存兵が顔を出す。
「アデリル様、ご無事で」
「皆、怪我はないか?」
「城壁を盾にしたお陰で幸い、数名が軽傷を負った程度です。それにしてもこれは一体、何事でございますか?」
「・・・・・・わからない。だが、帝国軍が壊滅したのは事実だ」
「て、帝国軍が壊滅でありますか?」
誰も喜ばなかった。むしろ、信じられないといった顔をした者ばかりだった。その中の一人が訊いた。
「あれは魔法だったのですか?」
「・・・・・・それもわからない。とにかく今は、帝国軍の包囲から逃れられたというだけの話だ」
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