チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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5章:禁断の専属魔法

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 身体が重い。両腕でさえ鉛のように感じられる。それでも頭だけは不思議と、宙を浮遊するかのような違和感に囚われていた。魔力を蕩尽したラスタは決闘の行方さえ、思案を巡らす余裕もなかった。
「終わったのか?」
 頭上を埋め尽くすほどの大蛇の姿はない。第一、自分は今かろうじて生きている。それだけでありがたい話だ。
 一人の足音が耳元を伝わってくる。アデリルだろうか。それともヒシュマー城に立て籠もるリュシア達だろうか。目を閉じたラスタの顔を、影が覆った。ラスタは静かに目を見開く。
「生憎だったな。小僧」
「なっ・・・・・・」
 ラスタを見下ろすのは無傷のゲクリニカ。そして彼が握るいびつな形の大剣だった。そんな結果に臨むラスタには、もはや驚くほどの力も残っていない。
「これだけの魔法を発動させるとは大したものだが、それでも《所有者》には遠く及ばぬ。専属魔法を持つ者と持たざる者は、天と地の関係に等しい。平地であれ、山の頂であれ、その関係が逆になることは決して有り得ない。天は常に地の上にある」
「・・・・・・どうかな? 今の俺には上が地面で下が空に見えるぞ」
 ラスタは仰向けになりながらゲクリニカを見上げた。勝算があって言ったのではない。ここまで自分の意志を貫徹させたのだから、最期を潔く迎えたいだけだ。
「戯言を。己の身の程知らずを呪いながら、この戦場の土となるがいい。あの子娘にも後を追わせてやろう。それが貴様への手向けだ」
 剣を突き立てようとするゲクリニカの足元で、ラスタの指先が動いた。もう、いかばかりも魔力は残っていない。それでもあと一回だけ、発動できる魔法がある。祖父が遺した魔導書の専属魔法だ。こんな時にそんなことを考えている場合ではないが、そう言えば一度もその魔法を使っていなかった。たったそれだけ発動させただけで、どうなるというわけでもないが。
「・・・・・・使ってみるかな」
「何だと?」
 ラスタは掌を高く掲げた。そして息絶え絶えの声で詠唱発動する。
「【崩壊魔法(カタストロフィ)】――」
ラスタの掌から、稲妻のような閃光を帯びた光の玉が徐々に大きくなった。大きくなったといっても、掌に収まるほどの大きさだ。底知れない紫のようにも見えれば、白くも見える不思議な光がラスタの顔を照らす。その光の球は、流星のように曇天の遥か彼方へ高く飛び去った。ゲクリニカはそれを、呆れたように見上げていた。後には何も起こらなかった。
「これだけか?」
「今のが俺の専属魔法さ」
「専属魔法だと? あんなちっぽけな奇術が?」
 ラスタの言葉を《所有者》に対する愚弄と受け取ったのか、ゲクリニカは大剣を握る手に力を込めた。
「死ね、小童」
 ゲクリニカの殺気を込めた視線がラスタに降り注ぐ。自分に突き立てられた剣の先端を見つめるラスタの視界が急に明るくなった。青空が曇天の一点に生じ、それが水面に描く波紋のような勢いで広がったのだ。燦燦たる陽光が降り注ぎ、その下に居る者は思わず空を見上げた。それはゲクリニカとて例外ではなかった。
「空が・・・・・・がはっ!!」
 叩きつけるような一陣の風が草原を吹き抜ける。風というより、衝撃波と言った方が良かった。矍鑠としたゲクリニカでさえ、煽られて数歩よろめくほどの強さだった。
「何が起こっている?」
 ゲクリニカは自軍の陣営を見た。草原に広がる帝国軍が蟻のように蠢いている。異変に驚いているらしい。そんな彼らの頭上に向かって、一筋の光が射した。天からまっすぐに降り注いだ光の柱だったことは憶えている。後に見たのは強烈な爆風と目に焼き付くほどのまばゆい光、身を焦がすほどの熱。
「こっちだ!」
 誰かがラスタの手を引いた。光の柱から広がった光は、既にラスタの視界を完全に奪っていた。後に聞こえたのは血を揺るがすほどの爆音と、大勢の人間の叫び声だった。
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