チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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5章:禁断の専属魔法

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「小僧、何の真似だ?」
 ゲクリニカはアデリルを締め付けていた腕を離した。地にしゃがみこんだアデリルはゲクリニカの膝元で激しくむせ込んだ。
「ラスタ君?」
 かすれた声でアデリルもまた、ラスタの意図を問う。
「《所有者》同士の決闘は不可侵。何者の干渉も許さない。騎士ならばそれくらいのことは知っておろう」
「知っているさ」
「ほう・・・・・・それでいてこのような粗相に及ぶとは」
 ゲクリニカはしばらくラスタの様子を窺った。
「小僧、貴様は《所有者》か?」
「違うね」
 ゲクリニカの顔色が変わった。身の程知らずのラスタを面白がっていた表情が、一気に崩れた。
「魔導書も持たぬ分際でこの決闘を邪魔するか」
「魔導書なんか関係ない。アデリルさんとは約束したんだ。その約束を守りたいだけだ」
「ラスタ君! 君はそんな事で・・・・・・」
 絶句するアデリルに対し、ラスタが振り向いた。
「そんな事・・・・・・なんて言わないで下さい。自分の未来なんですから」
 感極まって泣きそうなアデリルの傍らで、ゲクリニカは破顔した。
「面白いぞ! 小童! では貴様と一騎打ちを申し込もう! 勝てばその子娘をくれてやる! だが負ければ、貴様の前で己の守ろうとした者は八つ裂きになるぞ!」
「いいぜ。だけど俺は、絶対にお前なんかには降伏しない!」
「では、貴様の墓前にコイツの生首を添えてやろう」
「聞きしに勝る悪趣味だな」
「力のある者はそれだけで正義なのだ!」
 決闘の開始は暗黙のうちに宣言された。ゲクリニカが剣を高く振り上げると、七匹の大蛇はラスタに一斉に襲い掛かる。
「【雷撃魔法】!」
 襲い掛かる大蛇の牙に、ラスタの雷が迎え撃つ。霧立ち込める中での雷魔法は予想以上の効果を発揮した。複雑な網目模様に分岐した稲妻が二匹の頭を包み込み、粉々に砕いた。横たわる二本の木の根を超えて、新たな大蛇が襲い掛かる。
「キリがねえ!」
 ラスタもまた、大蛇の迷宮に身を投じることになる。一匹の身体を飛び越え、その向こうから襲い掛かる二匹目の下を潜り抜ける。立ち止まるわけにはいかない。三匹の目の牙が背中を追ってきているのだ。
「が! 何だ!?」
 卓越した俊敏性で何とか大蛇をやり過ぎしていたラスタの前に、巨大な壁が立ち塞がった。蛇の身体が何重にも合わさって作られた壁がラスタを取り囲んでいた。その壁の向こうからラスタを見下ろす蛇の頭は五つ、いやそれ以上にある。
「さて小僧、どうする?」
 壁の外からラスタをからかうゲクリニカの声が聞こえてきた。袋のネズミも同然のラスタが命乞いでもすると期待しているらしい。ラスタにそんなつもりは毛頭ない。むしろその一言に勝機を見出していた。
――この向こうに居るな
 ラスタは壁の一郭を見遣る。そこに最大限の攻撃魔法を放てば、ゲクリニカの虚を衝けるというわけだ。
「そこだ!【火球砲】!」
 狭い中での火焔魔法は極めて危険だ。術者自身も爆発から逃れられないためだ。何重にも巻かれたとぐろの中が、赫々と輝いた。そのすぐ後、蛇の壁をぶち抜いた火焔魔法が勢いよく飛び出した。ゲクリニカがそれを見て何を思ったかはわからない。ラスタの五感は、自身の魔法の炸裂で完全に塞がってしまったからだ。
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