チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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5章:禁断の専属魔法

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 霧の大地を赫々とした炎がぼんやりと照らす。

 炎の輪は徐々に広がり、ゲクリニカを呑み込もうとしていた。

「こんなものか」

 ゲクリニカの言葉の後、彼の前で砂塵が巻き上がった。

 大地の振動はヒシュマー城にさえ伝わってくる。振動を伴い、高くそびえた壁が炎の波状攻撃を堰き止めた。

「これは?」

 アデリルは突如屹立して現れた壁を前に呆然とする。

「あれは何だ?」

 どこまでも壁は高くなる。丘の上のヒシュマー城の低い城壁などとうに追い越していた。

 しかし、壁は高くなる一方で広がりはしなかった。

 それもそのはず。アデリルの前にそびえていたのはただの壁ではなかった。

 それは岩肌ではなく、大木のごつごつとした樹皮。

 そしてその頂と思っていたものは、実は巨大な蛇の頭だった。

「上か!」

 急転直下する蛇の頭がアデリルに向かって落ちてきた。アデリルはそれを躱す。

 獲物を失った蛇の頭はそのまま地面に食らいつく。

 地面を突き抜けるより大きな振動が走った。

 ヒシュマー城の城壁に亀裂が走るほどの振動だった。

 ラスタが見た時にはアデリルの身体は空高くに投げ出されていた。

 アデリルは空中で体勢を立て直す。

 だが、その下にはさっきの大蛇の頭が大口を開けて待ち構えている。

 大蛇はアデリルを待つまでもなく、大口を開けたまま再び天に上った。

 空中では迫りくる脅威を防ぎようがない。アデリルの半身は大蛇に捕まった。

「こいつめ!」

 アデリルも捕まってばかりではなかった。大蛇の上顎を剣が突き抜ける。

 両足で下あごを抑え、かろうじて大蛇の口を閉ざすまいとしていた。

 大蛇の頭が再び地を向く。アデリルを地面に叩きつけるつもりだ。

 アデリルの背中に原野の固い地面が迫ってくる。

「やられてたまるか! 【火焔祓剣】!」

 アデリルの剣から広がった炎が大蛇の口からあふれ出る。

 頭を焼かれた大蛇は螺旋を描くようにのたうち回り、アデリルを離した。

「やった!」

 城で喚声が上がるころには、大蛇の身体はヒシュマー城の前に長く横たわっていた。

「一体、この蛇は・・・・・・木の根?」

 横たわった蛇の身体を触るアデリルはゲクリニカに向き直る。

「我が専属魔法、【豹変魔法(アグレシブ)】ぞ。この世界に住む動植物を凶暴な魔物に変貌させるのだ。ちなみにそれは、元は木の根だったもの。つまり――」

 ゲクリニカは剣を地面に突き立てる。

 彼の周囲で大規模な爆発が相次ぎ、さっきと同じ大蛇が七匹も鎌首をもたげていた。

「いくらでも代わりはいるということだ」

 巨大な大蛇を倒したアデリルの戦果は武勇伝として語り継がれるほどのものである一方、ゲクリニカにとっては単なる小手調べを切り抜けたに過ぎなかった。

 大蛇は互いの身体を編み合わせるようにアデリルを囲った。

 徐々に狭まれる包囲網の中、飛び出したアデリルは大蛇の身体に沿って走る。

 同胞の背中に乗ったアデリルを、別の大蛇が容赦なく喰いに掛かる。

 それを飛び越えたアデリルは、大蛇の身体で作る迷宮を必死に駆け抜けた。
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