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5章:禁断の専属魔法
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「わかった。応じよう」
「アデリルさん!」
「よくぞ申した! 貴殿の勇気は後世に語り継がれるだろう」
「すぐに支度を整えて見える。しばし待たれよ」
アデリルはそれだけ言うと城壁の奥に姿を消した。その背中をラスタが追う。アデリルが振り向いた。
「よくある話だ」
「アデリルさん?」
「《所有者》とて、一冊の魔導書に満足しているわけではない。一族の繁栄のために新しい魔導書を手に入れようと、ああして独断の駆け引きを持ち掛けるものだ」
「だからって、どうして相談も無しに一人で決めてしまうんですか!」
「数多くの兵の命を引き換えるならば、私の命と魔導書くらい安いものだろう。このまま籠城戦を選んでもヒシュマー城は陥落し、帝国軍の魔の手はベルニア王都にまで迫る。王都を占領されてしまえば、結局は魔導書が奪われてしまうだろう。そうなるくらいならば、せめて私は君達だけでも助けたい。幸い、兵達の多くも賛同しているようだ」
「そうは思えません」
「ラスタ君、君との約束を果たせないのは非常に残念だ。だけど、君はここで散るような若者ではない。今日までよく戦ってくれた」
アデリルは城門に向けて歩き始めると、立ち止まって振り向かずに言った。
「ラスタ君、もしベルニア王都の私の実家に行くことがあれば、一つ言伝を頼まれてくれないか? もちろん、あのゲクリニカとは別件で」
「何でしょう?」
「アデリルは今日まで勇敢に戦った、と」
「それは自分で伝えて下さい」
「もしもの時は頼む」
「アデリルさん!」
ラスタはアデリルを連れ戻そうとした。
言葉で駄目ならば、腕の力を使ってでも止めるつもりだった。
しかし、そうするはずだったラスタはアデリルに抱擁されていた。
「これ以上、言わないで欲しい。君の優しさで、私を迷わせないでくれ」
アデリルはラスタを離すと、半開きになった城門に身を滑らせた。
両脇の兵士達はすぐにその扉を閉めに掛かる。
「アデリルさん!」
その声は城門に反響されてラスタの耳に空しく届くだけだった。
一面を埋め尽くす帝国軍の中を、アデリルはゆっくりと歩く。
その先には護衛もつけず、馬から降りたゲクリニカ元帥が堂々と待ち構えていた。
二人と他の帝国兵の間には十分な距離が開いている。
どうやらゲクリニカという男は、正直者か腕によほどの自信があるらしい。
「ここまで来た勇気は褒めてやる」
ゲクリニカは孫娘でも可愛がるかのようにアデリルに向かって言った。
「光栄です」
アデリルは覚悟を決めたように厳かな表情で答えた。
その受け答えは既に勝敗を仄めかすようだった。
「約束通り、神聖な《所有者》同士の決闘に邪魔はさせん。すぐに兵を退かせよう」
ゲクリニカは右腕を高く上げる。それだけで数千人の帝国軍は踵を返して後退を始めた。
今、ヒシュマー城付近の原野には二人だけが残されている。
「あれだけ距離を取っているのに、なぜ兵を後退させたのですか?」
「じきにわかる。さあ、始めようか」
ゲクリニカは剣を抜いた。
太い鞘から抜き放った剣は炎をそのまま剣にしたような、曲線を重ねた異形の刀身だった。
「そうですか。では、受けて立ちましょう!」
アデリルも城壁の兵が見守る中で剣を抜いた。抜き放ったと同時に足を広げて立ち、剣を脇に滑らせる。
「【火焔祓剣】!!」
ゲクリニカはまだ構えていない。アデリルの出方を見極めるつもりだろう。
だがそれを、アデリルは逆手に取った。
敵が思案を巡らせる前に、先手を奪おうと考えたのだ。
その一撃を見てラスタは確信した。
アデリルはゲクリニカ元帥との決闘を受けたが、死に行くつもりは毛頭ないということを。
「アデリルさん!」
「よくぞ申した! 貴殿の勇気は後世に語り継がれるだろう」
「すぐに支度を整えて見える。しばし待たれよ」
アデリルはそれだけ言うと城壁の奥に姿を消した。その背中をラスタが追う。アデリルが振り向いた。
「よくある話だ」
「アデリルさん?」
「《所有者》とて、一冊の魔導書に満足しているわけではない。一族の繁栄のために新しい魔導書を手に入れようと、ああして独断の駆け引きを持ち掛けるものだ」
「だからって、どうして相談も無しに一人で決めてしまうんですか!」
「数多くの兵の命を引き換えるならば、私の命と魔導書くらい安いものだろう。このまま籠城戦を選んでもヒシュマー城は陥落し、帝国軍の魔の手はベルニア王都にまで迫る。王都を占領されてしまえば、結局は魔導書が奪われてしまうだろう。そうなるくらいならば、せめて私は君達だけでも助けたい。幸い、兵達の多くも賛同しているようだ」
「そうは思えません」
「ラスタ君、君との約束を果たせないのは非常に残念だ。だけど、君はここで散るような若者ではない。今日までよく戦ってくれた」
アデリルは城門に向けて歩き始めると、立ち止まって振り向かずに言った。
「ラスタ君、もしベルニア王都の私の実家に行くことがあれば、一つ言伝を頼まれてくれないか? もちろん、あのゲクリニカとは別件で」
「何でしょう?」
「アデリルは今日まで勇敢に戦った、と」
「それは自分で伝えて下さい」
「もしもの時は頼む」
「アデリルさん!」
ラスタはアデリルを連れ戻そうとした。
言葉で駄目ならば、腕の力を使ってでも止めるつもりだった。
しかし、そうするはずだったラスタはアデリルに抱擁されていた。
「これ以上、言わないで欲しい。君の優しさで、私を迷わせないでくれ」
アデリルはラスタを離すと、半開きになった城門に身を滑らせた。
両脇の兵士達はすぐにその扉を閉めに掛かる。
「アデリルさん!」
その声は城門に反響されてラスタの耳に空しく届くだけだった。
一面を埋め尽くす帝国軍の中を、アデリルはゆっくりと歩く。
その先には護衛もつけず、馬から降りたゲクリニカ元帥が堂々と待ち構えていた。
二人と他の帝国兵の間には十分な距離が開いている。
どうやらゲクリニカという男は、正直者か腕によほどの自信があるらしい。
「ここまで来た勇気は褒めてやる」
ゲクリニカは孫娘でも可愛がるかのようにアデリルに向かって言った。
「光栄です」
アデリルは覚悟を決めたように厳かな表情で答えた。
その受け答えは既に勝敗を仄めかすようだった。
「約束通り、神聖な《所有者》同士の決闘に邪魔はさせん。すぐに兵を退かせよう」
ゲクリニカは右腕を高く上げる。それだけで数千人の帝国軍は踵を返して後退を始めた。
今、ヒシュマー城付近の原野には二人だけが残されている。
「あれだけ距離を取っているのに、なぜ兵を後退させたのですか?」
「じきにわかる。さあ、始めようか」
ゲクリニカは剣を抜いた。
太い鞘から抜き放った剣は炎をそのまま剣にしたような、曲線を重ねた異形の刀身だった。
「そうですか。では、受けて立ちましょう!」
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だがそれを、アデリルは逆手に取った。
敵が思案を巡らせる前に、先手を奪おうと考えたのだ。
その一撃を見てラスタは確信した。
アデリルはゲクリニカ元帥との決闘を受けたが、死に行くつもりは毛頭ないということを。
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