チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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5章:禁断の専属魔法

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 明け方に雨は止んだ。雨水が上気してヒシュマー城は霧の中に取り残されたようだった。

「退却するなら今のうちですね」

「すでに全軍には昨夜のうちに出立の準備を整えさせている」

 荷物は極力少なくして、重傷者は数人ごとに分けて馬車に乗りこませた。

「よし、城門を開けろ。静かにな」

 アデリルの号令で城門の扉が開こうとしたその時だ。ラスタは遥か霧の彼方に異変を感じた。

「待って下さい」

「どうした?」

「何か聞こえてきませんか?」

 断続的になる重厚な物音。それは次第に大きくなると同時に金属の擦れるような甲高い音を含むようになった。

 そして、純白だった霧の向こうで黒い影が動き始める。

「門を閉じろ! 敵だ!」

 アデリルが命じた頃には、整然と並ぶ帝国軍の歩兵部隊が城壁のすぐ傍まで前進していた。

「帝国軍が、一体どうやって?」

 昨日の足止めにもかかわらず、昨夜の雨にもかかわらず、進軍を続けたというのか。

「いや、待て。我々はこのヒシュマー城に至る四本の街道を見張っていたのだ。そのうち三本は足止めに成功したが、残りの一本はわからない。誰も見た者がいないのだから」

「つまりこっちの軍を全滅させて、俺達より先にヒシュマー城に近づいていたということか?」

「我々をヒシュマー城に追い込んで一網打尽にする計画だったのだろう。そんな大胆な戦術を実行に移せる人物は一人しかいない」

 帝国軍の方形陣の間を一騎の騎馬が疾駆する。

 赤のマントをはためかせ、高齢ながら矍鑠とした風貌の騎士だった。

 彼はヒシュマー城を手前にして含み笑いをし、しわがれた表情を伸ばして叫んだ。

「我はエクレナダ帝国軍第三師団総大将、ゲクリニカ元帥である! この度のハンス=リクトル卿暗殺事件に対するベルニア討伐の参謀を一任されている」

 得体の知れない専属魔法を隠し持った魔物は今、ラスタ達に牙を向けようとしていた。

「げ、ゲクリニカ・・・・・・」

 城内でどよめきが起こった。その名を聞いて勇気を奮い立たせる者はいなかった。

 今の城内に戦える戦力は百人程度。その二倍の戦力を、あの敵将は容易く平らげてしまったのだ。

「貴殿らの昨日の勇戦、実に見事であった。その雄姿を讃えて、貴殿らの一つの提案をしたい!」

「提案? どういう意味だ?」

 ラスタは帝国軍の思惑を慎重に吟味した。だが、あの名将は中々本音を悟らせなかった。

「貴殿らの指揮官に、クラマハート家の者が参戦していると見受けた。取次ぎを願いたい」

「クラマハート? アデリルさんのことか?」

「私はアデリル=クラマハートだ! この私にいかなる用件か?」

「ほほう、お主が・・・・・・小娘とは聞いておったが」

 ゲクリニカは微笑すると、城壁に姿をさらしたアデリルに問うた。

「ヒシュマー城は陥落も同然である。このまま籠城戦を続ければ、貴殿とその配下は一人残らず討ち死にするだろう」

「望む所だ!」

 アデリルは少しも臆せずに答えた。

「だが、せめて貴殿の配下だけは生かしてやってもいい」

「何?」

 城内がまた騒がしくなった。絶望で顔を低く埋めていた者でさえ、これには顔を上げた。

「・・・・・・何が条件だ?」

 アデリルは直截に訊いた。

「貴殿との一騎打ちを申し込む。私が勝っても負けても、我が将兵には手出しはさせぬ。だが、私が勝った暁には部下に言伝を頼まれてもらう。クラマハート家の魔導書をこのゲクリニカに贈与せよ、と」

「それが目的か」

 アデリルはゲクリニカの考えを半ば悟ったように呟いた。そして城内を一瞥する。

 全員の視線がアデリルを向いていた。彼らが何を言いたいか、アデリルは悟っているだろう。
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