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4章:ヒシュマー城の攻防
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「何だかグラーデンを思い出すな」
幸い、ヒシュマー城には医薬品が常備されていた。
それでも相次ぐ負傷兵の続出でいかばかりか心細くなっていた。
城の侍女は他の負傷兵の看護に総動員されており、リュシアの腕の手当てはラスタ自ら行った。
「あの時の礼のつもり?」
リュシアはラスタに顔を背けたまま訊いた。
「まあな」
「・・・・・・一人も、倒せなかった」
やがてリュシアは声を低くして呟いた。
「あれだけ頑張ってきたのに、奴らを、一人も倒せなかった」
「俺だって二人倒しただけだ。汎用魔法で」
「これじゃ私、軍でも出世できない。今度こそは」
「俺は、生き残ってくれただけでもうれしいよ」
「え?」
リュシアは意外な表情をして振り返る。
「この作戦で大勢死んだ。帝国軍に打撃は与えられたかもしれないが、みんな俺のせいで・・・・・・」
「そんなことはないぞ、ラスタ君」
ラスタを元気づけるような声が兵舎に入り込んできた。
アデリルだった。真紅の髪がぐっしょり濡れている。雨がひとしきり強くなったのだろう。
「彼らは君の背中を追いかけたんじゃない。君と同じ場所を目指して散っていたんだ。だから彼らの死は、君のせいじゃない」
「それでも・・・・・・」
「これは皆で選んだことだ。絶望的な戦いから逃げて不名誉な最期を選ぶよりも、祖国と同盟国のために死力を尽くして戦うことを選んだのだ」
「そう、割り切れるものでしょうか?」
「割り切らなくてはならないのだ。生き残る皆を率いるために」
その時、兵舎に一人の兵が慌てて駆け込んだ。その顔には見覚えがあるのですぐにわかった。
ラスタが退却の伝令を任せた兵士の一人だ。彼は未だ合流していない分隊を担当していた。
ラスタの肩から力が抜けた。
彼がここにいるということは、他の部隊の生き残りを連れて戻ってきたからだとばかり思っていたからだ。
「アデリル様!」
「戻ったか? これで全部の戦力が集まったわけだな」
「それが・・・・・・」
兵士の表情は蒼白だった。雨に打たれただけで肩が震えているわけではなさそうだった。
「・・・・・・全滅です」
「何?」
アデリルが顔色を変えて振り返る。
「私が報せに行った時には、分隊は全滅です。生存者は一人もありません」
「馬鹿な! 全滅する前に退却するように、各隊には通達していたはずだ。二百人いて一人も戻って来られないとは、一体どういうことだ?」
「それが、敵方にゲクリニカ元帥がいたようで」
「一番の強敵と当たったわけか? しかし、奇襲を仕掛けた一個大隊の戦力を消してしまうとは・・・・・・奴の専属魔法とは一体どういうものだ?」
「ゲクリニカの専属魔法をご存じないのですか?」
「知るも何も、奴は直接向かってきた敵を一人として返さなかった。だから誰も奴の専属魔法の中身を知らない」
「他の兵には伏せておきましょうか?」
「隠してもいずれわかるだろう。朝になっても誰も戻らなかったということは、つまりそういうことなのだからな」
「・・・・・・撤退しましょう」
ラスタの声に全員の注目が集まった。
「ラスタ君、それはどういう意図で言っているのだ?」
「敵の専属魔法がわからない以上、全戦力をヒシュマー城に集めるのは危険です」
「外は雨、城内は負傷兵ばかりだ。この状態での退却は危険だ」
「帝国軍も進軍は出来ないでしょう。撤退は明日、雨が止んでからです」
分隊の全滅と退却命令は直ちに城内の全員に伝達された。
誰もが帝国軍の出鼻をくじいたことで、この戦いを勝利したと思っていた。
しかしそれは一夜にして、自分達の運が良かっただけで全滅を免れただけだという、卑屈な考えに代わってしまったのだった。
幸い、ヒシュマー城には医薬品が常備されていた。
それでも相次ぐ負傷兵の続出でいかばかりか心細くなっていた。
城の侍女は他の負傷兵の看護に総動員されており、リュシアの腕の手当てはラスタ自ら行った。
「あの時の礼のつもり?」
リュシアはラスタに顔を背けたまま訊いた。
「まあな」
「・・・・・・一人も、倒せなかった」
やがてリュシアは声を低くして呟いた。
「あれだけ頑張ってきたのに、奴らを、一人も倒せなかった」
「俺だって二人倒しただけだ。汎用魔法で」
「これじゃ私、軍でも出世できない。今度こそは」
「俺は、生き残ってくれただけでもうれしいよ」
「え?」
リュシアは意外な表情をして振り返る。
「この作戦で大勢死んだ。帝国軍に打撃は与えられたかもしれないが、みんな俺のせいで・・・・・・」
「そんなことはないぞ、ラスタ君」
ラスタを元気づけるような声が兵舎に入り込んできた。
アデリルだった。真紅の髪がぐっしょり濡れている。雨がひとしきり強くなったのだろう。
「彼らは君の背中を追いかけたんじゃない。君と同じ場所を目指して散っていたんだ。だから彼らの死は、君のせいじゃない」
「それでも・・・・・・」
「これは皆で選んだことだ。絶望的な戦いから逃げて不名誉な最期を選ぶよりも、祖国と同盟国のために死力を尽くして戦うことを選んだのだ」
「そう、割り切れるものでしょうか?」
「割り切らなくてはならないのだ。生き残る皆を率いるために」
その時、兵舎に一人の兵が慌てて駆け込んだ。その顔には見覚えがあるのですぐにわかった。
ラスタが退却の伝令を任せた兵士の一人だ。彼は未だ合流していない分隊を担当していた。
ラスタの肩から力が抜けた。
彼がここにいるということは、他の部隊の生き残りを連れて戻ってきたからだとばかり思っていたからだ。
「アデリル様!」
「戻ったか? これで全部の戦力が集まったわけだな」
「それが・・・・・・」
兵士の表情は蒼白だった。雨に打たれただけで肩が震えているわけではなさそうだった。
「・・・・・・全滅です」
「何?」
アデリルが顔色を変えて振り返る。
「私が報せに行った時には、分隊は全滅です。生存者は一人もありません」
「馬鹿な! 全滅する前に退却するように、各隊には通達していたはずだ。二百人いて一人も戻って来られないとは、一体どういうことだ?」
「それが、敵方にゲクリニカ元帥がいたようで」
「一番の強敵と当たったわけか? しかし、奇襲を仕掛けた一個大隊の戦力を消してしまうとは・・・・・・奴の専属魔法とは一体どういうものだ?」
「ゲクリニカの専属魔法をご存じないのですか?」
「知るも何も、奴は直接向かってきた敵を一人として返さなかった。だから誰も奴の専属魔法の中身を知らない」
「他の兵には伏せておきましょうか?」
「隠してもいずれわかるだろう。朝になっても誰も戻らなかったということは、つまりそういうことなのだからな」
「・・・・・・撤退しましょう」
ラスタの声に全員の注目が集まった。
「ラスタ君、それはどういう意図で言っているのだ?」
「敵の専属魔法がわからない以上、全戦力をヒシュマー城に集めるのは危険です」
「外は雨、城内は負傷兵ばかりだ。この状態での退却は危険だ」
「帝国軍も進軍は出来ないでしょう。撤退は明日、雨が止んでからです」
分隊の全滅と退却命令は直ちに城内の全員に伝達された。
誰もが帝国軍の出鼻をくじいたことで、この戦いを勝利したと思っていた。
しかしそれは一夜にして、自分達の運が良かっただけで全滅を免れただけだという、卑屈な考えに代わってしまったのだった。
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