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4章:ヒシュマー城の攻防
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驟雨のようにどこからともなく聞こえていた喚声が止んだ。
その少し後に様子を見させた斥候が戻ってきた。
「帝国軍は撤退を始めたようです」
その一言で、疲弊していたベルニア、ダクライアの残兵は喜色に染まった。
あの最強の帝国軍を寡兵で打ち破ったのだ。緊張に満ちていたアデリルの表情も、この時ばかりは幾分和らいだ。
「ラスタ! やったな! 俺達、勝ったんだよ!」
「あ、ああ」
ラスタは気のない返事をする。立ち上がり歓喜する学生達の真ん中で、一人だけ腰を下ろしていた。
「お前の作戦のお蔭だ! さすが二等騎士の首席だ!」
「今日の戦果を聞いたら、一等騎士は悔しがるだろうな!」
互いの戦果を讃えるダクライア軍の歓喜は続かなかった。彼らの周囲にはそれに呼応する者がいなかったのだ。
「無事だったのは、これだけか?」
ラスタが確認する限り、グラーデン騎士養成学校の生徒は六人、兵卒は十人程度に減っていた。
ベルニア軍の方も二十人いるかいないか、といった具合だ。
たった一回の戦闘で、ラスタ達の分隊は三分の二を失ったのだ。
生き残った兵も多くが傷ついていた。弓兵もまた、空の矢筒を提げた者が多かった。
全員があの戦闘で力を払底したのだ。
「アデリルさん、一度ヒシュマー城に退却しましょう」
腰を深く下ろしていたアデリルに対し、ラスタが提案した。
「しかし、君は最初に籠城に反対してはいなかったか?」
「そうですが、みんな予想以上に傷ついています。敵も警戒を強めているでしょうから、二度目の奇襲は成功しないでしょう。それに何より、皆を屋根のある部屋の中で休ませたい」
ラスタは木の葉に覆われた空を見上げた。重く垂れこめた雲の中から、一粒、二粒と雨粒が落ち始めていた。
「確かに。他の部隊の様子も確認したいからな」
「退却するとなれば、帝国軍に打撃を与えた今でしょう」
「それと、他の部隊への伝令が必要だな」
部隊の中で動ける者を三人選び、退却の伝令を委ねた。
一方でラスタ達は他の兵を率いて、ヒシュマー城への撤退を決めた。
ヒシュマー城の城門を潜ると、兵士達は倒れ込むようにして石畳の上に寝転がり、あるいは座り込んだ。
ラスタも足の力が急に抜けて、しばらくは石柱の支えなくして立てなかった。
警備に残していたわずかな兵がどこからともなく現れて、疲弊した兵士達を介抱する。
その誰もが、帰ってきた者の少なさに驚くような顔だった。
「ラスタ君、君も休みたまえ」
「でも他の部隊は・・・・・・」
戻ってきたのはラスタ達の分隊が最初だった。
他の部隊は無事に撤退してくれただろうか。
戦えないと判断すれば迷わずヒシュマー城に戻るよう、各隊の指揮官には命じていた。
それでも、自分の作戦で一隊でも全滅させてしまうのは胸が苦しかった。
「他の部隊が戻ってきたぞ」
陽が沈む寸前、二つの分隊がほぼ同時に帰還した。
出発前は各隊二百人前後の兵力だったが、今では二つの部隊を合わせても二百人にも満たなかった。
その中には深く沈みこんだ表情をしたリュシアの姿もあった。
「リュシア、お前・・・・・・」
ラスタは肩肘を抑えるリュシアを呼び止めた。
「これ位、平気だ」
リュシアはラスタを斜に見たまま立ち去ろうとした。
「腕、怪我しているじゃねえかよ」
リュシアの手をどけると、浅く斬られた袖の内側が黒く滲んでいた。
「自分で手当てするから」
「どうやってだよ。お前の腕は二本だろ? アデリルさん、後はお願いします」
「承知した」
「いいと言っているだろ!」
なおも意固地に拒むリュシアを連れ去るように、ラスタは兵舎の奥に進んだ。
その少し後に様子を見させた斥候が戻ってきた。
「帝国軍は撤退を始めたようです」
その一言で、疲弊していたベルニア、ダクライアの残兵は喜色に染まった。
あの最強の帝国軍を寡兵で打ち破ったのだ。緊張に満ちていたアデリルの表情も、この時ばかりは幾分和らいだ。
「ラスタ! やったな! 俺達、勝ったんだよ!」
「あ、ああ」
ラスタは気のない返事をする。立ち上がり歓喜する学生達の真ん中で、一人だけ腰を下ろしていた。
「お前の作戦のお蔭だ! さすが二等騎士の首席だ!」
「今日の戦果を聞いたら、一等騎士は悔しがるだろうな!」
互いの戦果を讃えるダクライア軍の歓喜は続かなかった。彼らの周囲にはそれに呼応する者がいなかったのだ。
「無事だったのは、これだけか?」
ラスタが確認する限り、グラーデン騎士養成学校の生徒は六人、兵卒は十人程度に減っていた。
ベルニア軍の方も二十人いるかいないか、といった具合だ。
たった一回の戦闘で、ラスタ達の分隊は三分の二を失ったのだ。
生き残った兵も多くが傷ついていた。弓兵もまた、空の矢筒を提げた者が多かった。
全員があの戦闘で力を払底したのだ。
「アデリルさん、一度ヒシュマー城に退却しましょう」
腰を深く下ろしていたアデリルに対し、ラスタが提案した。
「しかし、君は最初に籠城に反対してはいなかったか?」
「そうですが、みんな予想以上に傷ついています。敵も警戒を強めているでしょうから、二度目の奇襲は成功しないでしょう。それに何より、皆を屋根のある部屋の中で休ませたい」
ラスタは木の葉に覆われた空を見上げた。重く垂れこめた雲の中から、一粒、二粒と雨粒が落ち始めていた。
「確かに。他の部隊の様子も確認したいからな」
「退却するとなれば、帝国軍に打撃を与えた今でしょう」
「それと、他の部隊への伝令が必要だな」
部隊の中で動ける者を三人選び、退却の伝令を委ねた。
一方でラスタ達は他の兵を率いて、ヒシュマー城への撤退を決めた。
ヒシュマー城の城門を潜ると、兵士達は倒れ込むようにして石畳の上に寝転がり、あるいは座り込んだ。
ラスタも足の力が急に抜けて、しばらくは石柱の支えなくして立てなかった。
警備に残していたわずかな兵がどこからともなく現れて、疲弊した兵士達を介抱する。
その誰もが、帰ってきた者の少なさに驚くような顔だった。
「ラスタ君、君も休みたまえ」
「でも他の部隊は・・・・・・」
戻ってきたのはラスタ達の分隊が最初だった。
他の部隊は無事に撤退してくれただろうか。
戦えないと判断すれば迷わずヒシュマー城に戻るよう、各隊の指揮官には命じていた。
それでも、自分の作戦で一隊でも全滅させてしまうのは胸が苦しかった。
「他の部隊が戻ってきたぞ」
陽が沈む寸前、二つの分隊がほぼ同時に帰還した。
出発前は各隊二百人前後の兵力だったが、今では二つの部隊を合わせても二百人にも満たなかった。
その中には深く沈みこんだ表情をしたリュシアの姿もあった。
「リュシア、お前・・・・・・」
ラスタは肩肘を抑えるリュシアを呼び止めた。
「これ位、平気だ」
リュシアはラスタを斜に見たまま立ち去ろうとした。
「腕、怪我しているじゃねえかよ」
リュシアの手をどけると、浅く斬られた袖の内側が黒く滲んでいた。
「自分で手当てするから」
「どうやってだよ。お前の腕は二本だろ? アデリルさん、後はお願いします」
「承知した」
「いいと言っているだろ!」
なおも意固地に拒むリュシアを連れ去るように、ラスタは兵舎の奥に進んだ。
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