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4章:ヒシュマー城の攻防
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後から合流した帝国兵が戦場を横断してラスタ達を追撃する。
重厚な鎧を着けているとはいえ、無傷の帝国軍別動隊は敏捷だった。
背後から迫る甲冑の音と嘲弄の声がいつまでも耳から離れずにいる。
走り抜けるラスタの耳元を風切りの音がすれ違う。
先に後退させた弓兵が援護射撃を始めたのだ。
散発的に発射される矢のいくつかは足止めになったが、土石流のごとく追撃する帝国軍を押し留めるには至らなかった。
帝国軍はベルニア兵を一人残らず殺すつもりだった。
序盤で主力軍を撃退した今、ベルニア軍の兵力は逼迫しているものと見ていたのだ。
「待ちやがれ! ベルニアの腰抜けども!」
軽装のベルニア・ダクライア連合軍は健脚で、今にも森の奥深くで見失ってしまいそうだ。
追い打ちを掛ける帝国軍は隊列さえも忘れて猛追する。
ましてや、この山林がベルニア兵の熟知する地域であることなど、頭の片隅にもないことだろう。
その地形を利用して、ラスタ達が反撃を始めようとしていることを、誰が予想するだろう。
「お、おい! 止まれ! ぐわあぁ!!」
突然立ち止まった帝国兵が喚くように叫んだ。その声は遥か遠くに消えていった。
我を忘れてベルニアの敗走兵を追っていた帝国軍は断崖の頂に追い詰められていた。
彼に続く他の帝国兵達も同様にして立ち止まるが、後続の兵士達が玉突きとなってこぼれるように崖を転落していく。
帝国軍の勢いが仇となって、不名誉な転落死を遂げる者は後を絶たなかった。
「静まれ! 隊列を組み直せ!」
馬を嘶かせながら味方の進撃を止めに掛かる指揮官の努力で、ようやく帝国軍は深追いを止め、冷静を取り戻した。
しかし、冷静を取り戻したところで隣には名前さえも知らない友軍兵士が立っている。
上官や親しい戦友を捜そうと、帝国軍兵士達は蟻のように動き回った。
だがその頃には、もはや誰がどの部隊に所属するかさえ、わからなくなっていた。
「ふぐっ!」
街道の外にいた帝国兵が突然、声を上げて倒れた。
何者かに鎧の隙間を剣に貫かれたのだ。周囲の兵士達は闇雲に近くの茂みを槍でつつきまわす。
しかし手応えはない。そのうちに別の方向から声が上がった。
「ベルニア軍が鎧を奪って紛れているぞ!」
そんな声を受けて、帝国兵達は背筋に悪寒を走らせた。
誰もが顔なじみでない友軍兵士と肩を並べていたからだ。
疑心暗鬼に駆られた帝国軍兵士達は隣に立つ戦友を誰何する。
気の小さい兵士などは、剣を振り回して誰一人として近づけようとしない。
そんなことをすれば自分が疑われるに決まっているのだが、汲々とした人間はそこまで頭は回らない。
「おい、あそこで斬り合っているぞ!」
「アイツがベルニア兵か!」
至る所で帝国軍同士の仲間割れが起こる。
馬上の指揮官がそれをベルニア軍の策略と気づいた頃には手遅れだった。
共に盾を並べ、槍を揃えて戦ってきた帝国兵達は、自分以外の全ての戦友を敵に回していた。
味方の同士討ちを見れば、そのどちらかは敵に違いないと錯覚するだろう。
そうやって、混乱は徐々に部隊全域に広がっていった。
森林の各所で帝国兵同士の斬り合う音と喚声が、山林の静寂を奪った。
重厚な鎧を着けているとはいえ、無傷の帝国軍別動隊は敏捷だった。
背後から迫る甲冑の音と嘲弄の声がいつまでも耳から離れずにいる。
走り抜けるラスタの耳元を風切りの音がすれ違う。
先に後退させた弓兵が援護射撃を始めたのだ。
散発的に発射される矢のいくつかは足止めになったが、土石流のごとく追撃する帝国軍を押し留めるには至らなかった。
帝国軍はベルニア兵を一人残らず殺すつもりだった。
序盤で主力軍を撃退した今、ベルニア軍の兵力は逼迫しているものと見ていたのだ。
「待ちやがれ! ベルニアの腰抜けども!」
軽装のベルニア・ダクライア連合軍は健脚で、今にも森の奥深くで見失ってしまいそうだ。
追い打ちを掛ける帝国軍は隊列さえも忘れて猛追する。
ましてや、この山林がベルニア兵の熟知する地域であることなど、頭の片隅にもないことだろう。
その地形を利用して、ラスタ達が反撃を始めようとしていることを、誰が予想するだろう。
「お、おい! 止まれ! ぐわあぁ!!」
突然立ち止まった帝国兵が喚くように叫んだ。その声は遥か遠くに消えていった。
我を忘れてベルニアの敗走兵を追っていた帝国軍は断崖の頂に追い詰められていた。
彼に続く他の帝国兵達も同様にして立ち止まるが、後続の兵士達が玉突きとなってこぼれるように崖を転落していく。
帝国軍の勢いが仇となって、不名誉な転落死を遂げる者は後を絶たなかった。
「静まれ! 隊列を組み直せ!」
馬を嘶かせながら味方の進撃を止めに掛かる指揮官の努力で、ようやく帝国軍は深追いを止め、冷静を取り戻した。
しかし、冷静を取り戻したところで隣には名前さえも知らない友軍兵士が立っている。
上官や親しい戦友を捜そうと、帝国軍兵士達は蟻のように動き回った。
だがその頃には、もはや誰がどの部隊に所属するかさえ、わからなくなっていた。
「ふぐっ!」
街道の外にいた帝国兵が突然、声を上げて倒れた。
何者かに鎧の隙間を剣に貫かれたのだ。周囲の兵士達は闇雲に近くの茂みを槍でつつきまわす。
しかし手応えはない。そのうちに別の方向から声が上がった。
「ベルニア軍が鎧を奪って紛れているぞ!」
そんな声を受けて、帝国兵達は背筋に悪寒を走らせた。
誰もが顔なじみでない友軍兵士と肩を並べていたからだ。
疑心暗鬼に駆られた帝国軍兵士達は隣に立つ戦友を誰何する。
気の小さい兵士などは、剣を振り回して誰一人として近づけようとしない。
そんなことをすれば自分が疑われるに決まっているのだが、汲々とした人間はそこまで頭は回らない。
「おい、あそこで斬り合っているぞ!」
「アイツがベルニア兵か!」
至る所で帝国軍同士の仲間割れが起こる。
馬上の指揮官がそれをベルニア軍の策略と気づいた頃には手遅れだった。
共に盾を並べ、槍を揃えて戦ってきた帝国兵達は、自分以外の全ての戦友を敵に回していた。
味方の同士討ちを見れば、そのどちらかは敵に違いないと錯覚するだろう。
そうやって、混乱は徐々に部隊全域に広がっていった。
森林の各所で帝国兵同士の斬り合う音と喚声が、山林の静寂を奪った。
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