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4章:ヒシュマー城の攻防
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ラスタは帝国兵の鎧の弱点を探った。
どこに剣を突き立てようにも歯が立たないのだ。
甲虫にも似た甲冑は関節などの弱点も補強されており、容易に隙を与えてくれそうにない。
一方で帝国兵は悠々と武器を振り下ろす。向こうの剣は一度でも当たれば致命傷だ。
「そんな物が効くかよ。いい加減に・・・・・・ごわっ!!」
帝国兵の胸部の鎧が炸裂した。
長期戦を不利と見たラスタが魔法で決着をつけたのだ。
至近距離の魔法には、さすがの帝国軍の甲冑も防ぎきれない。
しかし、魔法ばかりを多用するわけにもいかなかった。魔力には限りがあるからだ。
消耗した魔力が戦場ですぐ回復するなどと期待してはいけない。
故に、魔法に頼って数で優る帝国軍を退けることは出来ない。
ラスタの前には既に新手の帝国兵が集まり始めていた。
今度は三人を同時に相手にしなければならない。しかも一人は背後、二人が前方からの挟撃姿勢だ。
「くそっ!【雷撃魔法】!」
ラスタの発する稲妻が後ろにいた一人を吹き飛ばす。その隙を衝いて正面の二人が剣を片手に突っ込んできた。
「伏せろ!」
敵味方の喚声が入り乱れる中で、誰かがラスタに向かって叫んだ。
ラスタはその声を信じて身を低くする。
そのすぐ上を炎の波が走り抜ける。
炎の波は帝国兵を呑み込み、更にはその後ろから続く別の帝国兵までも火だるまに変えた。
ラバール鋳鉄とはいえ、金属である以上は熱を防ぎようがない。
甲冑の下の帝国兵達は灼熱地獄に突き落とされる。
兜を脱ぎ捨て、山肌を転げまわる帝国兵達はやがて動きを止めた。
たった一度の専属魔法、【火焔祓剣】で十人近い帝国兵を葬り去ったのだ。
ラスタの目算によればアデリルの戦力は兵士百人分だが、それは過小評価だと思い知らされた。
「大丈夫か。ラスタ君」
「アデリルさん」
「怪我はないか?」
「・・・・・・何とか」
背中越しにラスタ達は互いの安全を確かめ合う。
敵が倒れ、味方が貫かれて、周囲の戦況はめまぐるしく変貌していく。
そんな中でも戦いの趨勢は何となく感じ取れた。
街道を続々と登ってくる帝国兵はまだ尽きることがない。
いかに機先を制したとはいえ、それだけで殲滅できるほど帝国軍は容易くなかった。
「どうやらもうすぐ潮時のようだ」
「そうですね、アデリルさん、皆の援護をお願いします」
「承知した」
ラスタの背後をアデリルが走り抜ける。
帝国兵の合間を縫いながら、街道の各所で炎の渦が巻き起こった。
「全軍撤退! 撤退だ!」
【火焔祓剣】で散々に敵を蹴散らしたアデリルが声を高くして叫んだ。
帝国軍の攻撃が一瞬止んだ所で、生き残った味方が撤退を始めた。
再会した味方の数は予想以上に少なかった。何人もの安否が気に掛かるとはいえ、彼らを捜す時間はなかった。
「ベルニア軍を追え!」
奇襲を受けて損害を出した帝国軍は猛り狂う獣のようだった。
数多くの戦友を失った復讐心に加え、無敵の重装歩兵軍に失態を演じさせたことで、プライドを傷つけられたからだ。
傷つけられたプライドは、相手を完膚なきまでに叩きのめすことでしか取り戻せない。
どこに剣を突き立てようにも歯が立たないのだ。
甲虫にも似た甲冑は関節などの弱点も補強されており、容易に隙を与えてくれそうにない。
一方で帝国兵は悠々と武器を振り下ろす。向こうの剣は一度でも当たれば致命傷だ。
「そんな物が効くかよ。いい加減に・・・・・・ごわっ!!」
帝国兵の胸部の鎧が炸裂した。
長期戦を不利と見たラスタが魔法で決着をつけたのだ。
至近距離の魔法には、さすがの帝国軍の甲冑も防ぎきれない。
しかし、魔法ばかりを多用するわけにもいかなかった。魔力には限りがあるからだ。
消耗した魔力が戦場ですぐ回復するなどと期待してはいけない。
故に、魔法に頼って数で優る帝国軍を退けることは出来ない。
ラスタの前には既に新手の帝国兵が集まり始めていた。
今度は三人を同時に相手にしなければならない。しかも一人は背後、二人が前方からの挟撃姿勢だ。
「くそっ!【雷撃魔法】!」
ラスタの発する稲妻が後ろにいた一人を吹き飛ばす。その隙を衝いて正面の二人が剣を片手に突っ込んできた。
「伏せろ!」
敵味方の喚声が入り乱れる中で、誰かがラスタに向かって叫んだ。
ラスタはその声を信じて身を低くする。
そのすぐ上を炎の波が走り抜ける。
炎の波は帝国兵を呑み込み、更にはその後ろから続く別の帝国兵までも火だるまに変えた。
ラバール鋳鉄とはいえ、金属である以上は熱を防ぎようがない。
甲冑の下の帝国兵達は灼熱地獄に突き落とされる。
兜を脱ぎ捨て、山肌を転げまわる帝国兵達はやがて動きを止めた。
たった一度の専属魔法、【火焔祓剣】で十人近い帝国兵を葬り去ったのだ。
ラスタの目算によればアデリルの戦力は兵士百人分だが、それは過小評価だと思い知らされた。
「大丈夫か。ラスタ君」
「アデリルさん」
「怪我はないか?」
「・・・・・・何とか」
背中越しにラスタ達は互いの安全を確かめ合う。
敵が倒れ、味方が貫かれて、周囲の戦況はめまぐるしく変貌していく。
そんな中でも戦いの趨勢は何となく感じ取れた。
街道を続々と登ってくる帝国兵はまだ尽きることがない。
いかに機先を制したとはいえ、それだけで殲滅できるほど帝国軍は容易くなかった。
「どうやらもうすぐ潮時のようだ」
「そうですね、アデリルさん、皆の援護をお願いします」
「承知した」
ラスタの背後をアデリルが走り抜ける。
帝国兵の合間を縫いながら、街道の各所で炎の渦が巻き起こった。
「全軍撤退! 撤退だ!」
【火焔祓剣】で散々に敵を蹴散らしたアデリルが声を高くして叫んだ。
帝国軍の攻撃が一瞬止んだ所で、生き残った味方が撤退を始めた。
再会した味方の数は予想以上に少なかった。何人もの安否が気に掛かるとはいえ、彼らを捜す時間はなかった。
「ベルニア軍を追え!」
奇襲を受けて損害を出した帝国軍は猛り狂う獣のようだった。
数多くの戦友を失った復讐心に加え、無敵の重装歩兵軍に失態を演じさせたことで、プライドを傷つけられたからだ。
傷つけられたプライドは、相手を完膚なきまでに叩きのめすことでしか取り戻せない。
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