チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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4章:ヒシュマー城の攻防

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 アデリルは手甲に包まれた自分の手を見つめる。

「ただ《所有者》の家に生まれたというだけで、私にはこの道しか用意されていなかった。専属魔法と言う身の丈に合わぬ力を持たされただけの、ただの器だ」

「アデリルさん・・・・・・そしたら他の道を探せばいい」

「何?」

「軍人が向いていないなら、他にやりたいことを探せばいいんですよ。この戦いが終わったら、一緒にそれを見つけましょう。約束です」

「全く君は・・・・・・」

 アデリルは目を擦り、顔を上げた。

「一度我が家に招待しよう。それで食事でもしながらゆっくりと考えることにしよう」

 アデリルは立ち上がり、ラスタと共に部屋を出た。


 空には一片の雲もないのに、木の葉に覆われた地面は暗く湿っていた。

 随所に点在する窪地には帝国軍を待ち構えるダクライア・ベルニア連合軍が息を潜めていた。

 総勢八百人の連合軍は四分隊に別れ、ヒシュマー城に至る四本の街道をそれぞれ見張る。

 それらが帝国軍を立て続けに奇襲することで、見かけの兵力を水増しするのが狙いだった。

「まだどこの部隊も交戦していないようだな」

 森林に耳を立てるアデリルはラスタの耳元で呟いた。

 ラスタ達が率いるのは百人前後の部隊だ。

 味方の中で唯一専属魔法を使えるアデリルを百人分の戦力と見込んでの編成である。

 その中にグラーデン騎士養成学校からの同輩達は二十人ほど含まれていた。

「そのようですね」

「あれか」

 遥か下で蛇行する街道の先から、黒い行列が一糸乱れぬ隊列を組んで現れる。

 どす黒い灰色の甲冑に身を固めた帝国軍の重装歩兵の分隊だった。

 二列縦隊の歩兵を、隊長と思われる騎兵が五十人ずつの隊に区切っていた。

 身の丈の三倍もある長槍を真っ直ぐ天にかざし、兜の下には鬼神を思わせるいかつい形相の仮面が並んでいる。

 そんな異様な帝国軍を前にしても、ベルニア兵達の目からは闘志が消えなかった。

「どうやら俺達が一番手のようですね」

 ラスタは静かに剣を抜いた。グラーデンで何度もイリスとの級別対抗試合に使った片手剣である。

「まだだ」

 近くの兵士達が矢筒に手を伸ばしたのを見て、アデリルが手を挙げる。

 ラスタ達はしばらく、前進する帝国軍の戦列を見送った。

「アデリルさん、そろそろ」

「わかっている」

 アデリルは真っ先に立ち上がった。それを合図にまずベルニアの弓兵が一斉に木立から身を晒す。

「射撃始め!」

 放たれた矢は木立の合間を上手く塗って帝国軍の列に襲い掛かった。

 矢を受けた側から数人の帝国兵が倒れる。真っ直ぐ上を向いていた槍の列が徐々に乱れ始めた。
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