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4章:ヒシュマー城の攻防
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壇上から降りたラスタは早速アデリルの部屋に呼ばれることになる。
ラスタの他に、力量と人格に優れた学生数人も同席することになった。
「先ほどの演説、実に見事だった」
ヒシュマー城周辺の地図を前に立つアデリルがラスタを称賛した。
「俺は、皆に誇りを大事にしてほしかっただけです」
「だが、君のお蔭で士気は格段に高まった。まさに武将の鏡だ。他国の将に過ぎない私が言うのもなんだが、君こそがダクライア軍を率いるべきだと思う」
「俺が?」
「ラスタ、みんなお前に期待しているんだよ」
ラスタの背後の学生達が軽く背中を押した。
「それで早速だが、帝国軍は今も動き続けている。いよいよ戦いに備えた話をしなければならない」
ラスタ達は真剣な表情に変わってヒシュマー城の地図を囲む。
帝国軍を示す赤い駒は、押し寄せる波のようにヒシュマー城を目指していた。
「現在の帝国軍の位置はここ。ベルニア軍の主力軍を突破してこの平原の北にあるクルネット渓谷を超えようとしている。渓谷とは言っても、ここは山道だから全軍が渡り切るにはしばらく時間が稼げるだろう。その間に我々は城の防備を強化しておくべきだと思うが・・・・・・」
「アデリルさん」
「何だ?」
「このクルネット渓谷はどんな地形なのですか?」
「渓谷とは言っても、実際は山地に近いな。崖の斜面は杉林で覆い尽くされ、春先には霧が立ちこめる鬱蒼とした場所だ。かつては魔女が棲むとさえ噂されていた」
「そうですか。そこで敵軍を待ち伏せするのはどうでしょうか?」
ベルニアの将兵達は驚きの声を漏らした。
「つまり君は、城から撃って出ろと言うのか? 城壁の防備も捨てて」
「しかし、クルネット渓谷からこのヒシュマー城まではかなり距離が離れているぞ。もし奇襲に失敗して城に戻ろうとしても、帝国軍の追撃が止まない平原の中を逃げなければならない」
「城に逃げるという選択肢はありません」
「どういうことだ?」
「敵に《所有者》がいるとなれば、どんな専属魔法を使って来るかわかりません。その中に拠点攻撃型の魔法があれば、俺達は城ごと全滅させられてしまいます。中途半端な城よりも、奥の知れない森の方がずっと安心です。それに、この城の防備はあまりにも弱い。専属魔法でなくても、帝国軍の長槍でさえ簡単に城壁に届いてしまいます」
「なるほど、それならば森林を隠れ蓑にしての奇襲攻撃の方が安全か」
「敵は俺達が籠城するつもりで軍を進めて来るでしょう。それを逆手に取るんです。ベルニア軍に奇襲を掛けられるだけの戦力が残っているとは思わないでしょうから・・・・・・すいません」
「気にすることではない。認めがたい事ではあるが、事実なのだから」
「問題は、敵が俺達の戦力を過大に見積もってくれるかどうかですが」
「それならば心配無用だ。私が存分に思い知らせてやるから」
アデリルは胸を張った。この作戦で帝国軍を撃退できるかどうかはわからない。
それでもラスタ達には前に進む道しか残されていなかった。
作戦会議が終了すると、各員は決定事項を全員に通達するべく戻ろうとした。
「ラスタ君、君は少し残ってくれるか?」
そう言われたので、ラスタは他の学生が部屋から出て行くのをしばらく見送った。
「何か俺に用でも?」
「いや、君は優れた指揮官だな。私とは大違いだ」
アデリルは自嘲的に笑った。
「そんなことは・・・・・・アデリルさんだってこの状況で皆を」
「専属魔法の力で服従させた、それだけのことだ。私は《所有者》であるという理由だけでこの場に立つことを許されている。本当のことを言えば、私は軍人になるべきではなかったのかもしれない」
ラスタの他に、力量と人格に優れた学生数人も同席することになった。
「先ほどの演説、実に見事だった」
ヒシュマー城周辺の地図を前に立つアデリルがラスタを称賛した。
「俺は、皆に誇りを大事にしてほしかっただけです」
「だが、君のお蔭で士気は格段に高まった。まさに武将の鏡だ。他国の将に過ぎない私が言うのもなんだが、君こそがダクライア軍を率いるべきだと思う」
「俺が?」
「ラスタ、みんなお前に期待しているんだよ」
ラスタの背後の学生達が軽く背中を押した。
「それで早速だが、帝国軍は今も動き続けている。いよいよ戦いに備えた話をしなければならない」
ラスタ達は真剣な表情に変わってヒシュマー城の地図を囲む。
帝国軍を示す赤い駒は、押し寄せる波のようにヒシュマー城を目指していた。
「現在の帝国軍の位置はここ。ベルニア軍の主力軍を突破してこの平原の北にあるクルネット渓谷を超えようとしている。渓谷とは言っても、ここは山道だから全軍が渡り切るにはしばらく時間が稼げるだろう。その間に我々は城の防備を強化しておくべきだと思うが・・・・・・」
「アデリルさん」
「何だ?」
「このクルネット渓谷はどんな地形なのですか?」
「渓谷とは言っても、実際は山地に近いな。崖の斜面は杉林で覆い尽くされ、春先には霧が立ちこめる鬱蒼とした場所だ。かつては魔女が棲むとさえ噂されていた」
「そうですか。そこで敵軍を待ち伏せするのはどうでしょうか?」
ベルニアの将兵達は驚きの声を漏らした。
「つまり君は、城から撃って出ろと言うのか? 城壁の防備も捨てて」
「しかし、クルネット渓谷からこのヒシュマー城まではかなり距離が離れているぞ。もし奇襲に失敗して城に戻ろうとしても、帝国軍の追撃が止まない平原の中を逃げなければならない」
「城に逃げるという選択肢はありません」
「どういうことだ?」
「敵に《所有者》がいるとなれば、どんな専属魔法を使って来るかわかりません。その中に拠点攻撃型の魔法があれば、俺達は城ごと全滅させられてしまいます。中途半端な城よりも、奥の知れない森の方がずっと安心です。それに、この城の防備はあまりにも弱い。専属魔法でなくても、帝国軍の長槍でさえ簡単に城壁に届いてしまいます」
「なるほど、それならば森林を隠れ蓑にしての奇襲攻撃の方が安全か」
「敵は俺達が籠城するつもりで軍を進めて来るでしょう。それを逆手に取るんです。ベルニア軍に奇襲を掛けられるだけの戦力が残っているとは思わないでしょうから・・・・・・すいません」
「気にすることではない。認めがたい事ではあるが、事実なのだから」
「問題は、敵が俺達の戦力を過大に見積もってくれるかどうかですが」
「それならば心配無用だ。私が存分に思い知らせてやるから」
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それでもラスタ達には前に進む道しか残されていなかった。
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「ラスタ君、君は少し残ってくれるか?」
そう言われたので、ラスタは他の学生が部屋から出て行くのをしばらく見送った。
「何か俺に用でも?」
「いや、君は優れた指揮官だな。私とは大違いだ」
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「そんなことは・・・・・・アデリルさんだってこの状況で皆を」
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