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4章:ヒシュマー城の攻防
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通り過ぎる彼を見かけた他の兵士達も慌ただしくなる。
「敵か?」
「いえ、味方です。味方の伝令です!」
アデリルは城壁の隙間から身を乗り出す。
霧が重く立ち込める平原の彼方から、一騎が街道を沿って城を目指してくるのがかすかに見えた。
「城門を開けろ。内側には守備兵を配するのを忘れるな!」
霧の中から現れた伝令は半開きの城門から入城した。
馬から転げ落ちた彼は両脇を門番に支えられて何とか立ち上がる。
「どこの所属だ?」
城壁の階段を下りながらアデリルは伝令に問う。伝令は息絶え絶えに叫んだ。
「主力軍・・・・・・第一師団から伝令。先日正午過ぎ、わが軍と帝国軍は開戦・・・・・・わが軍は粉骨砕身の覚悟で善戦するも・・・・・・」
「それで、どうなった?」
「主力軍は、壊滅しました! 帝国軍は、現在も南下中!!」
「壊滅?」
全員の顔から血の気が引いた。アデリルが伝令の胸倉をつかむ。
「嘘を言うな! 主力軍には我が国の《所有者》の大半が参加しているのだぞ! 壊滅したとしても、帝国軍が無傷で済むはずがない。惨敗したと申すか!」
「敵は《所有者》の将兵が数多く参戦している模様です。しかも帝国軍の総大将はあの、ゲクリニカ元帥です!」
「ゲクリニカ!? 奴がこの戦役に参戦しているのか?」
「ゲクリニカといえば、暗黒の魔導士グルツハウムの呪われた魔導書を所有する帝国の武将ではありませんか」
暗黒の魔導士グルツハウム――かつて魔導士の中でも残虐な魔法の研究で悪名を知らしめた異端の魔導士の名前だ。
「俺達の敵う相手じゃない! 逃げよう!」
ベルニア兵達までが浮足立った。
「落ち着け!」
アデリルが声を張り上げるが、彼女よりも年上の男達は混乱から立ち直れずにいる。
怯えたように城壁の外を気にしながら、直属の上官に退役を迫る者もいた。
一群の将とはいえ、動揺する大人達を少女の声で静めることは出来ない。
「くっ」
部下の不甲斐なさに呆れたのか、アデリルは城壁の階段を上った。
上りながら腰の剣を抜き、白の上空めがけて剣を一閃させる。
「【火焔祓剣(プロミネンス)】!!」
斬撃をなぞるように生じた炎が、翼を広げた鷹のように城の上空を舞った。
目も眩むような白熱する炎を仰ぎ見る兵士達は、忘我したように諍いを止めた。
「あれがアデリルさんの専属魔法・・・・・・」
「たとえ主力軍が玉砕しようとも、私はこの剣に誓ってベルニアを守る。ベルニアの兵士達に敵前逃亡を企てる臆病者はいない! 祖国を捨ててこの戦場から立ち去ろうとする者は私が斬る!」
進退窮まった兵士達は城門から城の内側へと戻り出した。
それでも彼らの表情には、不安と強圧的な上官に対する不満が消えたわけではなかった。
「全く」
アデリルもまた、ようやく収拾がついたところで溜息をもらす。
途中、城門の階段の辺りでラスタとすれ違ったアデリルはばつの悪そうな顔をした。
「見苦しい所をお見せした。君達はわざわざダクライアから来てくれたというのに」
「いえ」
マントを翻して城の中に戻るアデリル。その背中を見つめる兵士達の視線は冷たかった。
「敵か?」
「いえ、味方です。味方の伝令です!」
アデリルは城壁の隙間から身を乗り出す。
霧が重く立ち込める平原の彼方から、一騎が街道を沿って城を目指してくるのがかすかに見えた。
「城門を開けろ。内側には守備兵を配するのを忘れるな!」
霧の中から現れた伝令は半開きの城門から入城した。
馬から転げ落ちた彼は両脇を門番に支えられて何とか立ち上がる。
「どこの所属だ?」
城壁の階段を下りながらアデリルは伝令に問う。伝令は息絶え絶えに叫んだ。
「主力軍・・・・・・第一師団から伝令。先日正午過ぎ、わが軍と帝国軍は開戦・・・・・・わが軍は粉骨砕身の覚悟で善戦するも・・・・・・」
「それで、どうなった?」
「主力軍は、壊滅しました! 帝国軍は、現在も南下中!!」
「壊滅?」
全員の顔から血の気が引いた。アデリルが伝令の胸倉をつかむ。
「嘘を言うな! 主力軍には我が国の《所有者》の大半が参加しているのだぞ! 壊滅したとしても、帝国軍が無傷で済むはずがない。惨敗したと申すか!」
「敵は《所有者》の将兵が数多く参戦している模様です。しかも帝国軍の総大将はあの、ゲクリニカ元帥です!」
「ゲクリニカ!? 奴がこの戦役に参戦しているのか?」
「ゲクリニカといえば、暗黒の魔導士グルツハウムの呪われた魔導書を所有する帝国の武将ではありませんか」
暗黒の魔導士グルツハウム――かつて魔導士の中でも残虐な魔法の研究で悪名を知らしめた異端の魔導士の名前だ。
「俺達の敵う相手じゃない! 逃げよう!」
ベルニア兵達までが浮足立った。
「落ち着け!」
アデリルが声を張り上げるが、彼女よりも年上の男達は混乱から立ち直れずにいる。
怯えたように城壁の外を気にしながら、直属の上官に退役を迫る者もいた。
一群の将とはいえ、動揺する大人達を少女の声で静めることは出来ない。
「くっ」
部下の不甲斐なさに呆れたのか、アデリルは城壁の階段を上った。
上りながら腰の剣を抜き、白の上空めがけて剣を一閃させる。
「【火焔祓剣(プロミネンス)】!!」
斬撃をなぞるように生じた炎が、翼を広げた鷹のように城の上空を舞った。
目も眩むような白熱する炎を仰ぎ見る兵士達は、忘我したように諍いを止めた。
「あれがアデリルさんの専属魔法・・・・・・」
「たとえ主力軍が玉砕しようとも、私はこの剣に誓ってベルニアを守る。ベルニアの兵士達に敵前逃亡を企てる臆病者はいない! 祖国を捨ててこの戦場から立ち去ろうとする者は私が斬る!」
進退窮まった兵士達は城門から城の内側へと戻り出した。
それでも彼らの表情には、不安と強圧的な上官に対する不満が消えたわけではなかった。
「全く」
アデリルもまた、ようやく収拾がついたところで溜息をもらす。
途中、城門の階段の辺りでラスタとすれ違ったアデリルはばつの悪そうな顔をした。
「見苦しい所をお見せした。君達はわざわざダクライアから来てくれたというのに」
「いえ」
マントを翻して城の中に戻るアデリル。その背中を見つめる兵士達の視線は冷たかった。
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