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4章:ヒシュマー城の攻防
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アデリル直下のベルニア軍は五百人。
彼女を除けば全員がラスタ達と同じ二等騎士、または兵卒の戦力だった。
つまり、軍団の編成としてはダクライア軍と同質である。
ただ、そのような編成となった経緯は違っていた。
ベルニア軍は主力となる《所有者》達の大半を北の主力軍に組み込んでいた。
主力軍は名実ともに主力軍だったのだ。
総戦力で劣るベルニア軍は国境付近で大規模決戦に持ち込み、帝国軍を撃破するつもりらしい。
しかしそれが撃破されれば、後方の予備軍はあまりにも心許なかった。
「どうしたの?」
城壁に立つラスタは城の内外を交互に見渡した。そして大きく溜息をつく。
「いや、見れば見るほど脆い城だと思って」
「確かに」
城壁のすぐ内側は兵舎をはじめとする建物が接している。魔法を撃ちこまれてはひとたまりもない。
「本当に、ベルニアは戦争をするつもりだったのかな?」
「だって、ベルニアの専属魔法は・・・・・・」
リュシアは周囲の様子を窺った。近くにベルニア兵の姿はない。
あるのは平原を吹き抜ける風になびく、ベルニア国旗だけだった。
赤字に翼をはためかせた水色のドラゴンを意味する紋様――かつて、この地を支配するドラゴンを専属魔法で水晶に変えたベルニア初代王の建国神話を讃えたものである。
そんなベルニアの専属魔法《水晶化魔法》が今、亡国の危機の原因を作ったのは皮肉という他ない。
「君達も、そう思うか?」
ラスタ達はギョッとして振り向いた。
ふいに話し掛けられたばかりでなく、よりによって後ろに立っていたのはアデリルだった。
「すいません! あの、私達はそんなつもりじゃ」
「別に君達をこの場で処断しようとは思わない。我が国のために、隣国から馳せ参じてくれた戦友を斬るなど、武人のすることではないからね」
「あの、アデリルさん」
「君は?」
「ラスタ=オキシマといいます。グラーデン騎士養成学校の騎士科三階生です」
「そうか。君もダクライア人なのか。変わった名前だし、それに髪も瞳も黒いから」
確かに、髪も瞳も色素の薄いダクライア人の印象があれば、ラスタは異邦人に思えるだろう。
「よく言われます」
「変わっているのは外見だけじゃないけど」
「おい」
ラスタ達のやり取りにアデリルは顔をほころばせた。
「それで、この前の話の続きを訊かせて頂けませんか? 今度の戦争が、帝国軍の策略だってこと」
「その話だが、客観的な根拠としてはあまりに乏しいのだよ。ハンス=リクトル枢機卿が《水晶化魔法》で暗殺されたのは事実。そして《水晶化魔法》の魔導書は今もなお、ベルニア王室が所有している」
「でも、俺にはベルニアが本気で帝国を挑発したとは思えません」
「私だって。第一、ベルニア王族が帝国の首都に潜入できるはずはない」
「となると、他に《水晶化魔法》を使える人間がいたということですか?」
「それは絶対にあり得ない。なぜなら魔導書は王が即位した七年前以来、封印されているのだから」
「封印って?」
「陛下以外の誰の目にも触れぬよう、厳重に保管されている。わが国では伝説に登場する《水晶化魔法》こそが、王者の冠なのだから」
「じゃあ、どこかの魔導士が《水晶化魔法》とよく似せた専属魔法を開発したというのは?」
「それも可能性は低いな。実際、この地に今も生き続ける魔導士の数自体、数えるほどに減ってしまっている。我がベルニアでさえ、魔導士は一人しか存在しないのだ」
「アデリル様!」
城門の方角から一人の兵士が駆け寄ってきた。
彼女を除けば全員がラスタ達と同じ二等騎士、または兵卒の戦力だった。
つまり、軍団の編成としてはダクライア軍と同質である。
ただ、そのような編成となった経緯は違っていた。
ベルニア軍は主力となる《所有者》達の大半を北の主力軍に組み込んでいた。
主力軍は名実ともに主力軍だったのだ。
総戦力で劣るベルニア軍は国境付近で大規模決戦に持ち込み、帝国軍を撃破するつもりらしい。
しかしそれが撃破されれば、後方の予備軍はあまりにも心許なかった。
「どうしたの?」
城壁に立つラスタは城の内外を交互に見渡した。そして大きく溜息をつく。
「いや、見れば見るほど脆い城だと思って」
「確かに」
城壁のすぐ内側は兵舎をはじめとする建物が接している。魔法を撃ちこまれてはひとたまりもない。
「本当に、ベルニアは戦争をするつもりだったのかな?」
「だって、ベルニアの専属魔法は・・・・・・」
リュシアは周囲の様子を窺った。近くにベルニア兵の姿はない。
あるのは平原を吹き抜ける風になびく、ベルニア国旗だけだった。
赤字に翼をはためかせた水色のドラゴンを意味する紋様――かつて、この地を支配するドラゴンを専属魔法で水晶に変えたベルニア初代王の建国神話を讃えたものである。
そんなベルニアの専属魔法《水晶化魔法》が今、亡国の危機の原因を作ったのは皮肉という他ない。
「君達も、そう思うか?」
ラスタ達はギョッとして振り向いた。
ふいに話し掛けられたばかりでなく、よりによって後ろに立っていたのはアデリルだった。
「すいません! あの、私達はそんなつもりじゃ」
「別に君達をこの場で処断しようとは思わない。我が国のために、隣国から馳せ参じてくれた戦友を斬るなど、武人のすることではないからね」
「あの、アデリルさん」
「君は?」
「ラスタ=オキシマといいます。グラーデン騎士養成学校の騎士科三階生です」
「そうか。君もダクライア人なのか。変わった名前だし、それに髪も瞳も黒いから」
確かに、髪も瞳も色素の薄いダクライア人の印象があれば、ラスタは異邦人に思えるだろう。
「よく言われます」
「変わっているのは外見だけじゃないけど」
「おい」
ラスタ達のやり取りにアデリルは顔をほころばせた。
「それで、この前の話の続きを訊かせて頂けませんか? 今度の戦争が、帝国軍の策略だってこと」
「その話だが、客観的な根拠としてはあまりに乏しいのだよ。ハンス=リクトル枢機卿が《水晶化魔法》で暗殺されたのは事実。そして《水晶化魔法》の魔導書は今もなお、ベルニア王室が所有している」
「でも、俺にはベルニアが本気で帝国を挑発したとは思えません」
「私だって。第一、ベルニア王族が帝国の首都に潜入できるはずはない」
「となると、他に《水晶化魔法》を使える人間がいたということですか?」
「それは絶対にあり得ない。なぜなら魔導書は王が即位した七年前以来、封印されているのだから」
「封印って?」
「陛下以外の誰の目にも触れぬよう、厳重に保管されている。わが国では伝説に登場する《水晶化魔法》こそが、王者の冠なのだから」
「じゃあ、どこかの魔導士が《水晶化魔法》とよく似せた専属魔法を開発したというのは?」
「それも可能性は低いな。実際、この地に今も生き続ける魔導士の数自体、数えるほどに減ってしまっている。我がベルニアでさえ、魔導士は一人しか存在しないのだ」
「アデリル様!」
城門の方角から一人の兵士が駆け寄ってきた。
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